会社員のパク・ホヨンさん(29)は、第20代大統領選挙が行われた9日朝、目を覚ますやいなや長いため息をついた。パクさんは女性とマイノリティーのための政策を打ち出した正義党の沈相ジョン(シム・サンジョン)候補に投票するつもりだった。投票日が近づくにつれて心が揺らいだ。国民の力の尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補が「女性家族部廃止」の7文字をフェイスブックに書き込んだ時にわき上がった悔しさは、「構造的な性差別はない」という尹候補の発言を見た瞬間、怒りに変わった。「女性の日(3月8日)にも女性家族部廃止をSNSにアップしていたじゃないですか。20~30代女性は『得られる票』ではないと考えているんでしょう。悩んだ末、李在明(イ・ジェミョン)候補に変えました」と述べた。パクさんは「投票所に行ってからも気持ちが揺らいでいました。1番(李在明候補の候補番号)をチェックしている時、おかしいですけど、涙が出そうになりました」と語った。
24万7077票。これまでで最小の票差で当選者が決まった第20代大統領選挙の結果は、パクさんのような20代女性の終盤の結集がもたらしたという分析が政界の内外から出ている。本紙が9日から10日にかけて取材した20代女性の中には、「歴史的な女性排除選挙戦」を作り出した尹氏と国民の力のイ・ジュンソク代表に黙っていられずに投票所に行ったという人が多かった。
地上波3社共同の大統領選挙出口調査の結果を見ると、20代以下の女性投票者に占める、共に民主党の李在明候補に投票した人の割合は58%、尹錫悦氏に投票した人の割合は33.8%だった。20代以下の男性ではその逆で、尹氏が58.7%、李候補が36.3%だった。選挙日の直前に行われた様々な世論調査で、李候補に対する20代女性の支持率は30%を下回っていたが、実際の投票ではその2倍にのぼる票を集めたのだ。
悩んだ末に李候補を選択した20代女性たちは「ジェンダー分断」戦略を固守した尹氏とイ・ジュンソク代表に対する怒りを表した。大学生のハン・ヒョンジさん(21)は「大学の総女子学生会廃止を根拠として女性家族部廃止を叫ぶイ・ジュンソク代表を見て心配になった。性平等認識がないのはもちろん、ミソジニー(女性嫌悪)で一貫しているように見えた」と述べた。キム・ユソンさん(20)は「イ代表のジェンダー分断戦略は誤った判断だということを示したかった。今回の大統領選挙での国民の力の動きを見て、米国のトランプ前大統領が白人男性から支持を得るために掲げた各種ポピュリズム公約と発言が思い浮かんだ」と述べた。
「(テレグラム)n番追跡団『火花』」で活動していたパク・チヒョンさんが共に民主党の選挙対策委員会に入ったことが、候補選択に影響を与えたと述べる人もいる。イ・ウンギョルさん(23)は「パク・チヒョンさんと民主党のクォン・インスク議員が李在明候補を『にわかフェミ』にしたと思う。李候補は少しずつ女性に対する認識を変えつつあるという気がした。尹錫悦を阻止するため、李候補に戦略投票した」と述べた。
彼女たちは、自分たちは李候補と民主党が好きだから票を投じたわけではないと強調した。ハン・ヒョンジさんは「李候補が気に入ったから、政治手腕があるから支持したという解釈が出るのではないかと心配。血の涙を流しながら支持候補を変えたことを分かってほしい」と述べた。イ・ヒョンジョンさん(21)は「一部の男性は選挙結果を見て自分の勝利だと言うだろう。憎悪が勝ったとは思わないでほしい」と語った。パク・ホヨンさんは「尹氏は0.7ポイントというわずかな差を心に刻みつつ、女性を排除しない政治をしてほしい」と語った。Kさん(30)は「対立を解決するどころか火をつけて票を得ようとする政治家は、もう政界から消えるべき」と話した。
仕方なく次善の策として李在明候補を選択した女性たちの「本音」は、正義党の沈相ジョン候補に送られた応援と寄付金として確認される。出口調査が発表された9日夜7時30分から翌日未明までに沈候補に振り込まれた寄付金は12億ウォン(約1億1300万円)に達する。
ゼロサム・マイナス政治と判明した「イ・ジュンソク代表の20代男性政治」をめぐっては、国民の力の一部からも戦略修正が必要だとの意見が出ている。しかし肝心の尹錫悦氏は10日の当選あいさつ後「私はジェンダーや性別で分断したことはない。そんなことはないから誤解しないでほしい」と述べている。