国民の力のユン・ソクヨル候補が14日に発表した司法分野の公約を見た法曹関係者たちは、事実上「検察権力の復元」が強調された公約だと評価した。この20年あまりの間、与野党と市民社会が検察の権限分散のために論議し、導入してきた多くの制度を、一挙に原点に戻す内容が多く含まれているためだ。特に、「政権獲得後の側近重用、前政権捜査」に言及し、政治報復の予告だとの批判を巻き起こした前検察総長である候補が、検察捜査権復元を約束したということから波紋が予想される。ユン候補は、本人の関与が疑われている告発教唆事件の捜査機関である高位公職者犯罪捜査処(公捜処)についても、その権限と地位の縮小だけでなく、廃止の可能性にも改めて言及した。
ユン候補はこの日、裁判所▽法務・検察▽公捜処・警察▽国民の権利救済についての11項目からなる公約を発表した。この中には、検察権力の復元に直接・間接的につながる公約が4つもある。
まずユン候補は、法務部長官の検察総長に対する捜査指揮権を廃止すると公約した。法務部長官の権限を規定した検察庁法は「長官は一般事務については検事を、具体的事件については検察総長のみを指揮・監督することができる」と規定している。ユン候補は、自身が政権を獲得すれば、法務部長菅の検察総長に対する捜査指揮権をなくすとともに、法務部が持つ予算編成権も検察総長に与えるとした。
検察の内外からは、捜査指揮権の廃止と独自の予算編成権は時期尚早だと指摘する声があがっている。首都圏のある検察の高位幹部は「法務部長官に捜査指揮権、予算編成権、人事権を与えたのは、強大な検察組織の首長である検察総長を民主的に統制するためだ。捜査指揮権をなくせば、検察総長が政治的意図を持って捜査したり捜査しなかったりするという状況を統制する方法がなくなる」と述べた。ソウル地域の検察庁のある幹部は、「捜査指揮権がなくなれば、いわゆる『検察ファッショ』を招きうる。検察の身内をかばう行為がひどい時や、事件の処理過程に国民的な疑惑がある時に、徹底した捜査を指示する統制装置がなければ、検察の独走は防げない」と述べた。
法学界からも、捜査指揮権は究極的には廃止されるべきだが、今の構造においては性急だとの声があがっている。慶煕大学法学専門大学院のソ・ボハク教授は「捜査指揮権を廃止するには、検察権力が濫用される余地がないという前提が必要だが、依然として検察は6大犯罪を自ら捜査でき、起訴権まで持っている」と指摘した。韓国刑事法務政策研究院のスン・ジェヒョン研究委員は、「究極的には検察独自の捜査を保障することが必要だが、その前提は検察総長の中立性を担保すること」と語った。
この公約をめぐっては、わずか11カ月前まで検察総長だったユン候補の「本音」が反映されているとの解釈も示されている。ユン候補の最側近である国民の力のクォン・ソンドン、チョ・スジン議員は、ユン候補の家族に対する捜査などについて捜査指揮権を発動したチュ・ミエ法務部長官と衝突した「ユン・ソクヨル検察総長」を援護するため、関連法案をそれぞれ上程している。ある検察幹部は「ユン候補自身が検察総長時代にチュ・ミエ長官の捜査指揮を受けたことに対する反作用として出したのだと思う。検察は準司法機関だと主張するが、結局は行政府内にある外庁だということを忘れているようだ」と述べた。この幹部は「検察総長に独自の予算編成権を与えるということは、検察を外庁ではなく法務部のような『検察部』にするということだ」と付け加えた。ヤン・ホンソク弁護士は「捜査指揮権を廃止すれば、現在の検察システムでは大統領が自ら捜査機関を統制する可能性がある。チュ・ミエ長官の捜査指揮権発動は、それ自体として政治的責任をとるべき事案だ。特定の権限行使が誤っていたからと言って、即興的に制度そのものをあげつらうことが適切なのかは疑問だ」と述べた。
高位公職者に対する犯罪捜査権を検察と警察にも与えるという公約についても、公捜処の権限の弱体化を狙うとともに、検察の捜査権拡大の添え物として警察を持ち出したとの評価があがっている。建国大学法学専門大学院のハン・サンヒ教授は「検察と警察に高位公職者の犯罪を捜査する権限を与えれば、(発足から1年を迎えた)公捜処は立ち枯れざるを得ない。検察が検事の事件を先に認知すれば、(かつてのように)捜査をもみ消すこともありうる」と述べた。ソ・ボハク教授は「公捜処が発足したのは、これまで検察が検事の不正、権力型不正の捜査をまともに行えなかったからだ。今は発足から1年しか経っていない公捜処を無力化すべき時ではなく、設立趣旨どおりに本来の役割を果たせるよう補完策を講じるべき時だ」と述べた。
「警察による送検後の検事による直接補完捜査」に言及した公約も、相対的に縮小された検察の捜査領域を、検察と警察の捜査権調整以前に戻そうとする試みだとの評価があがっている。ユン候補は、捜査機関を選択する国民の権利を保障する一方、捜査遅延の原因とされる両機関の「事件の押し付け合い」を防ぐ方法だと説明した。
しかし、検事による直接補完捜査が行われれば、当初、警察による捜査と検察による起訴を分離した検警捜査権調整の趣旨が空洞化するという声が警察内部からあがっている。検察の人員では送検されたすべての事件に対する補完捜査は不可能であるため、結局は検察が任意に捜査対象を選ぶ可能性もあるという懸念も提起されている。ヤン・ホンソク弁護士は「検警捜査権調整がなされてから、事件を押し付け合うなどの様々な問題点は生じている。だとしても、検察が警察の捜査を支援したり牽制したりする方向で改善されるべきであり、(過去のように)検察が直接捜査を多く行うという方向性は適切ではない」と述べた。
大統領候補の公約であるのに、依然として検察総長の水準にとどまっているという苦言も提起されている。ある検察の高位幹部は「長官の捜査指揮権は廃止し、検察総長には予算編成権を与えるうえ、公捜処の機能すら弱めれば、権力機関のバランスが崩れる。結局は検察がすべてを行えて、検事のみが重要な捜査を行えるという、検事優越主義者のごう慢さが下敷きとなっている公約だ」と語った。
一方、ユン候補は「警察への告訴事件は警察が、検察への告訴事件は検察がそれぞれ処理するという風に制度化する」と発表してから、わずか1時間40分後にこの内容を削除した資料を改めて配布した。検察の直接捜査の扉を、事実上完全に開くということだが、大統領選挙を前にして警察組職の反発を意識したのではないかとの解釈が出ている。