台湾は2002年、SARS(重症急性呼吸器症候群)の防疫に失敗したが、新型コロナウイルスについては、体系化された防疫によって少ない感染者と死亡者を維持しており、防疫模範国として浮上した。韓国在住の台湾のフリーランス記者の楊虔豪氏が、本紙の要請で自国の防疫専門家を書面で取材し、20年間の台湾の防疫システムの変化と新型コロナの防疫の成功の明暗を探った。
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中国現地から直接、感染症の情報を収集
「2019年12月末に中国武漢で正体不明の肺炎が広がっているという情報を入手すると、専門家をただちに湖北省の現地に派遣した」
台湾衛生福利部の陳時中部長は、本紙の要請で行われた書面インタビューで、「新型コロナの流行初期の迅速な情報収集により、新型コロナに効率的に対応できた」と明らかにした。陳部長は台北医科大学を卒業した台湾初の歯科医師出身の閣僚で、2017年2月、台湾の衛生福利部長に就任した後、現在に至るまで「中央伝染病指揮センター」を指揮している。台湾政府は世界保健機関(WHO)が深刻さを警告する前に、いち早く専門家を中国に送った。陳部長は「武漢で広がった肺炎の正体を中国政府を通じて確認しようとしたが、完全な情報は得られなかった。そこで直接情報を収集し、防疫政策を樹立した」とし、「武漢地域で原因が確認されていない肺炎の患者たちが隔離治療を受けているという情報をWHOに伝えたが、彼らは深刻さを認識できなかった」と述べた。WHOが新型コロナウイルスのパンデミックを宣言したのは2020年3月だ。
これまでの台湾の新型コロナの防疫成績は、韓国を圧倒する。今月9日時点の台湾の累積感染者数は1万7362人、死亡者は850人だ。10日時点の韓国の累積感染者数(66万7390人)と死亡者(6071人)と比べると、台湾の感染者は韓国の2.6%、死亡者は14%に過ぎない。台湾の2022年の推定人口は2388万人で、韓国(5170万人)の46%であることを考慮しても、大きな差だ。
台湾の保健医療関係者は、2002年のSARSの防疫失敗から、国家が直接情報を収集しなければならないという教訓を得た。台湾最高の感染症専門家と言われている中央研究院 生物医学・科学研究所の何美郷研究員も、本紙の要請で行われたインタビューで、「(2002~2003年の)SARS流行の際、ウイルスの情報と対応方法をWHOから直接共有してもらえず、台湾に常在する米国の疾病予防管理センター(CDC)の関係者を通じて伝えてもらうしかなかった」と述べた。
自治体と中央政府の協力も重要だ。当時の台北市長は野党の国民党の所属で、中央政府は民進党が担当していたが、SARSへの対応をめぐり与野党が協力できず、防疫のゴールデンタイムを逃した。SARS流行の際、韓国は3人だけが感染し、死亡者はいなかった。一方、台湾では346人がSARSに感染し、81人(死亡率23.4%)が命を失った。今回の新型コロナへの対応の際には、中央政府に強い統制権を付与した。
収集した情報をもとに、台湾は新型コロナ流行の初期に国境統制を強化した。このような決定は、感染症の流入を遅れさせ、医療資源を保護することができた。陳部長は「新種のウイルスの感染症が海外から流入する可能性がある場合、国境での検疫の強化と入国制限を通じて、医療資源を保護できる」と述べ、「ただし、台湾は島国であるため、検疫と国境統制に有利な点があった。防疫強化を効果的に活用できた」と説明した。
SARS以来、地道に進められてきた防疫訓練も、新型コロナの流行の状況において大きな助けになった。中央政府は、「感染者」‐「接触者」‐「接触の疑いあり」を分類して動線を追跡し、それぞれに対する防疫措置システムを作った。台湾を北部・中部・南部の3地域に分け、それぞれに感染担当病院を指定し、陰圧隔離病床も大幅に拡充した。院内感染を防ぐために、各病院は感染患者の移動通路を区別し、隔離病室に移す移送訓練を毎年定期的に実施した。SARS流行時、台北市立和平病院の救急救命室長だった張裕泰氏は、「当時は病院で千人を超える職員と患者達がコホート隔離され、患者と医療スタッフが死んでいく凄惨な光景を目撃した。病院での交差感染で7人の同僚の医療スタッフを失った」とし、「今では感染症に対する標準対応手続き(SOP)があり、新型コロナの患者たちが和平病院に移送されても、これ以上の混乱は起きない」と述べた。
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体系的な小規模自営業者への経済支援
小規模自営業者に対する積極的な経済支援も、防疫成功のカギに挙げられている。いくら強力な国境統制であっても、感染症は完全には遮断できない。実際、昨年4月、桃園国際空港の近くにある航空会社の関係者の隔離宿舎で集団感染が発生し、感染は地域社会に広がった。台北の都心である万華区域の遊興施設でも、集団感染が続いた。遊興施設の従業員や移住労働者、路上生活者の宿舎にまでまでウイルスが広がり、昨年5月17日には1日の感染者が535人に達した。
台湾も、韓国と同様に社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)を実施した。昨年5月に感染者が増え、室内での集会の人数は5人に制限され、学校の対面授業や宗教の礼拝活動も中断された。遊興施設の営業は禁止され、飲食店では食事をとることができなくなり、テイクアウトだけを可能にした。小規模自営業者への被害補償に消極的だった韓国と違い、台湾は客観的な資料をもとに支援金を支給した。台湾政府は6月から緊急予算を編成し、5~7月の間、1カ月の収入が前年度(2020年)に比べ半分以上減少すれば、「職員1人あたり4万元(約17万円)」を支援した。防疫措置により営業できない事業者には、休業支援として1万元(約4万2000円)、職員には3万元(約12万5000円)を支給した。以後、台湾政府は積極的な防疫対策により、昨年末には再び1日の感染者を0人にまで減らすことができた。その後も台湾は小規模自営業者の大きな反発なしにソーシャル・ディスタンシングを通じた防疫政策を継続しており、「損失に対しては十分に補償する」という信頼が土台になっていると分析されている。
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低いワクチン接種率は危険要素
台湾は世界で最も新型コロナの管理に成功した国家だと評価されているが、コロナ禍が3年目に入り、今後は解決しなければならない課題もある。
最も深刻な危険要素は、低いワクチン接種率だ。台湾防疫当局の統計によると、1回目のワクチン接種率は79.6%、2回目の接種率は70.2%だ。特に、75歳の接種完了率は67%で、韓国の60歳以上の3回目の接種率(81.1%)に及ばない。相対的に感染の危険が大きくなかったため、多くの人がワクチン接種に積極的に乗り出さなかった。メディアと野党がワクチンの異常反応を強調し、ワクチンへの不信もかなり強い。昨年のワクチンのトラブルにより供給に問題が生じ、ワクチン導入は相対的に遅くなった。韓国は昨年2月から積極的なワクチン接種に乗り出したが、台湾は昨年5月までに導入されたワクチンの量は60万回分に過ぎなかった。昨年5月の大流行時の際には、1回目の接種率は1%の水準だった。台湾は感染者が多くないこともあり、新型コロナの累積致死率は4.9%(韓国は0.91%)の水準だが、低いワクチン接種率が重症化率を高めているという分析もある。何研究員は「台湾のハイリスク群の人々の接種率がむしろ低く、コロナ禍の長期化の局面で大きな危険要素になる」と述べた。
感染者が多くないため政府が診断検査の人員を強化しないことも、不安要素に挙げられている。陳部長は「防疫がうまくいったため、大量検査を実施する必要はなかったが、昨年5月の大規模流行の際には、無症状感染者を見つけられない弱点を示した」とし、「遊興施設を訪れた後に新型コロナに感染した市民が疫学調査にあまり協力せず、感染者を追跡するうえで困難に直面した」と述べた。
「感染者0」に固執する台湾の世論が、逆に日常回復を妨げているという意見もある。新規感染者数が発表される毎日午後2時、市民は政府の会見を見守り、感染者が発生すればため息をつく。2020年4月12日~12月21日の253日連続で感染者が0人だった台湾は、過度に「感染者なし」にこだわっている。何研究員は「感染者0だけに固執すると、中国のような封鎖措置を行うことになり、日常をまったく享受できなくなる場合もある」と述べた。相対的に軽症だが感染力が高いオミクロン株が広がれば、台湾の対応方法も変わらなければならないという声も出ている。
台湾の新型コロナは、2022年の新年に入り、再び拡散傾向を示している。9日の台湾の新規感染者は60人(地域感染11人、海外流入49人)。台湾当局は24日まで防疫段階を第2段階に引き上げると発表した。市民たちは昨年5月に続き、第2波が起きないか神経を尖らせている。