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韓国の大統領選挙は今「悪い男」全盛時代(1)

登録:2021-09-18 03:53 修正:2021-09-18 10:50
[ソン・ハニョン先任記者の政治裏表] 
政局の気象図|3・9大統領選挙、分析と展望 
 
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暴言前歴ホン・ジュンピョ-告発教唆疑惑ユン・ソクヨル「2強」 
エリートまたは上品ユ・スンミン、ウォン・ヒリョン、チェ・ジェヒョンは劣勢
イラスト=ハ・ジェウク//ハンギョレ新聞社

 1987年、民主正義党の盧泰愚(ノ・テウ)候補は「普通の人の時代」というスローガンを掲げ、大統領に当選した。1992年、民主自由党の金泳三(キム・ヨンサム)候補は「変化と改革」を、1997年には新政治国民会議の金大中(キム・デジュン)候補が「政権交代と通貨危機の克服」を掲げた。

 盧泰愚大統領は1980年の全斗煥(チョン・ドゥファン)クーデター勢力の一員だった。金泳三、金大中両大統領はそれに抗して闘った大衆政治家だった。あの時代はそのような人々が大統領になった。ある面ではロマンの時代だった。

 21世紀が始まると、全く違うタイプの、個性の強い人物が次々と大統領に当選した。2002年の新千年民主党の盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補は政界の「アウトサイダー」だった。地域主義を打ち破るために身を投じたのだ。

 2007年のハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)候補は「サラリーマン出世神話」の、2012年のセヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)候補は「朴正煕(パク・チョンヒ)神話」の象徴だった。2017年の共に民主党の文在寅(ムン・ジェイン)候補のスローガンは「積弊清算」だった。

 いずれにせよ、歴代の大統領はこのように何かを前面に掲げたり、象徴したりする人々だった。

 2022年3月9日に行われる大韓民国第20代大統領選挙に向けて、大統領選候補たちが奔走している。今回の選挙には、以前とは異なる二つの特徴がある。

 一つ目に、いわゆる「悪い男」に勢いがある。道徳的なエリート出身者は劣勢だ。

 二つ目に、候補たちは中傷合戦に忙しい。いわゆるネガティブキャンペーンばかりが横行している。価値と路線と政策の競争は見出せない。

 最後までこのままなのかはもう少し見守らなければならないが、実に特異な様相を呈している。なぜだろうか。

 共に民主党の予備選挙は9月25日の光州(クァンジュ)・全羅南道、26日の全羅北道の代議員と権利党員の開票の結果が第2の峠だ。全羅道でもイ・ジェミョン京畿道知事が過半数を獲得すれば、民主党の予備選挙は事実上終わりと考えられる。

 逆にイ・ナギョン元代表が躍進すれば、10月3日の第2次スーパーウイーク、10月10日の第3次スーパーウイークの結果を見なければならない。決選投票となれば逆転できるだろうか。票差が大きければ覆すのは難しい。しかし政治は分からない。最後まで見守るしかない。

 ともかく、全羅道の民意が民主党の予備選挙を左右する。やはり全羅道は民主党の聖地だ。過去の大統領選挙でも、全羅道が選択した候補が民主党候補になっている。

 民主党の予備選挙でイ・ジェミョン京畿道知事が他を圧倒している背景には、地域主義の原理と確証バイアスの原理が作用している。

 地域主義の原理とは「全羅道が支持する慶尚道の候補」モデルだ。慶尚道より人口が絶対的に少ない全羅道の有権者の戦略的選択だ。

 2002年の盧武鉉候補、2017年の文在寅候補がそうだった。PK(釜山・慶尚南道)がTK(大邱・慶尚北道)になっただけだ。イ・ジェミョン知事は慶尚北道安東(アンドン)の出身だ。全羅道の候補たちにとっては切ない現実だ。

 確証バイアスの原理とは「統合型の政治家より分裂を助長するポピュリストの方が人気がある」という仮説だ。21世紀の情報化革命で、有権者は真実よりも信頼を重視するようになっているため、政界のスピンドクターは怒りを組織化して有権者を投票所へと引っ張りだしてきている。

 この傾向は韓国のみのものではない。どの国でも「理性より感性」に従って、「経歴より魅力」を見て投票する傾向が強まっている。2000年の米国の大統領選挙で、テキサスのカウボーイスタイルのジョージ・W・ブッシュが政治エリートのアル・ゴアを破ったのが号砲となった。2016年に商売人のドナルド・トランプがヒラリー・クリントンに勝ったのも同じ現象だ。

 イ・ジェミョン知事の義姉への暴言事件、女優との不倫疑惑は2018年の地方選挙でも提起された。当時、イ・ジェミョン知事に票を投じた民主党支持層の有権者の中には「京畿道知事まではやらせてやるが、大統領はだめだ」と決心していた人が多かった。

 ところが、わずか3年でそのような決心は崩れた。なぜだろうか。第一に、保守野党に対抗して、大統領選挙で勝てる候補が必要だったから。第二に、道徳的な候補よりも魅力ある候補の方が必要だったからだ。

 イ・ナギョン前代表としては呆れるだろう。特に過ちもないのに「疑問の1敗」を喫しているからだ。イ・ナギョン前代表は話も文章もうまい。彼は光州一高、ソウル大学法学部、東亜日報記者出身のエリートだ。だが、それがまさに彼の弱点だ。

 中途で辞退したチョン・セギュン前首相も同じだ。彼は長官、国会議長、首相まで務めたのだから、大韓民国で最高の「スペック」だ。一時は職業が党代表と言われるほどだった。また上品でもある。悪口は言えない。だが、それがまさに彼の弱点だ。残念ながらそれが現実だ。(2に続く)

ソン・ハニョン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1012105.html韓国語原文入力:2021-09-17 04:59
訳D.K

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