「慰安婦」被害者たちが日本政府を相手に起こした損害賠償訴訟をめぐり、韓国の裁判所が相次いで異なる判断を下している。二つの訴訟で片方だけが勝訴した上、訴訟費用の請求や財産の明示をめぐっても相反する決定が出され、被害者が混乱している。
1回目の訴訟と2回目の訴訟を引き受けた下級審の判断が分かれた主な理由は、主権免除(主権国家は他の国の裁判所で裁判を受けないという国際慣習法の原則)と1965年韓日請求権協定及び2015年韓日慰安婦合意の適用や、それに対する評価が食い違っていたからだ。ソウル中央地裁は今年1月、故ペ・チュンヒさんら12人の訴訟(第1次訴訟)で原告勝訴の判決を下し、「日本に主権免除(国家免除)を適用できず、被害者の賠償請求権も認められる」との判断を示した。「主権免除の理論は恒久的かつ固定的なものではなく、国際秩序の変動によって修正され続けるもの」とし「他国の個人に大きな損害を与えた国家が、主権免除理論の裏に隠れ、賠償を回避できる機会を与えるために形成されたものではない」という理由からだった。主権免除論を絶対的な原則と見なすことはできないと判断したのだ。また、個人賠償請求権は「反人道的不法行為に対する慰謝料」の請求であるため、請求権協定で消滅しておらず、「慰安婦合意」についても「被害者らの委託なしに個人の権利を国家が処分できない」と明らかにした。
一方、今年4月にイ・ヨンスさんら20人の訴訟を審理したソウル中央地裁民事15部(ミン・ソンチョル裁判長)は、「日本を相手取った賠償請求はできない」として訴えを却下した。同地裁は「国際慣習法において『不法行為に関しては主権免除が否定される』という変更が行われたわけではないため、日本の主権免除を認めるべきだ」として、1回目の訴訟の担当裁判所とは反対の判断を下した。欧州諸国が第2次世界大戦当時、ドイツの不法行為に対して訴訟を起こしたが、国際司法裁判所(ICJ)が主権免除を理由に却下したという事例も挙げた。「慰安婦合意」についても「多くの被害者に現実的補償が行われた」とし、判断の根拠の一つに取り上げた。
同じ事案に正反対の判決が出たのは、法理解釈が分かれるうえに、慰安婦被害者訴訟が韓国国内で初めて提起されたという点も影響を及ぼしたものとみられる。日本企業を相手取った強制動員賠償訴訟は早くから提起され、2018年の最高裁判所全員合議体の被害者勝訴の確定判決につながった。その後、下級審は概ね被害者側の訴えを認めている。一方、慰安婦訴訟は、韓国国内では2015年に提起された1回目の訴訟が初めてだ。
食い違う判断は、訴訟費用や財産明示の決定にもつながっている。最近、ソウル中央地裁民事51単独のナム・ソンウ判事は、1回目の訴訟で勝訴が確定した原告らが賠償金を受け取ることができるよう、「日本政府は韓国内の財産目録を公開せよ」という財産明示決定を下した。ナム判事は「国家による殺人、強姦、拷問といった人権に対する重大な侵害行為に対し、主権免除を認めることになれば、国際社会の共同利益が脅かされ、むしろ国家間の友好関係を害する結果を招くことになる」とし、日本の主権免除を認めなかった。今年3月、「敗訴した日本政府から訴訟費用を取り立てることができるかどうか」について、ソウル中央地裁民事34部(キム・ヤンホ裁判長)が主権免除論を根拠に「取り立てることはできない」と決定したのとは正反対だ。