ソウル中央地裁民事51単独のナム・ソンウ判事が、(日本軍「慰安婦」被害者が申し立てた日本政府所有の財産明示について)韓国内の財産リストの提出を日本政府に命じたことは、実効性は大きくないように思われる。まず、裁判そのものに無対応で、一審敗訴判決に控訴もしなかった日本政府が、命令に従うとは思えない。また、国内に日本政府の財産があるかどうかも不確実なうえに、大使館などの公館関連財産はウィーン条約に則り強制執行の免除対象だからだ。
しかし、賠償責任を否定する日本政府に対して判決執行の意志を強調した点で、この決定は意味がある。被害者は、日本政府は判決を履行しないと思われるとし、強制執行を実施してでも賠償金を受け取るとの立場だ。
また、今回の決定は、日本政府の不法行為の賠償責任を問う本案裁判ではないものの、対日歴史訴訟の争点を網羅する判断を下したという点で注目される。「慰安婦」被害者らによる損害賠償請求訴訟(1つ目の訴訟)の訴訟費用に関する決定、原告の「慰安婦」被害者らが敗訴した「2つ目の訴訟」、強制動員被害者が日本の民間企業を相手取って先日敗訴した訴訟の争点に関して、「重大な不法行為の責任は免除されない」という立場を明確に提示したからだ。外国の裁判所は日本という国(政府)を審判できないとする主権免除論や、1965年の韓日請求権協定で個人の請求権は消えたとするソウル中央地裁の先の判断に、真っ向から反論する内容となっているのだ。
3月にはソウル中央地裁民事34部(キム・ヤンホ裁判長)が、故ペ・チュンヒさんらが1月に勝訴した事件の訴訟費用を整理する過程で、主権免除論を根拠に「訴訟費用は日本から取り立てられない」とする決定を下している。通常は敗訴した側が訴訟費用を負担するのが原則だが、同法廷は「外国に対する強制執行は、その国の主権と権威を傷つける恐れがあるため、慎重なアプローチが必要だ」と述べた。原告はこの決定を不服として14日に抗告状を提出している。先に「2つ目の訴訟」を担当していた同地裁の法廷も、主催免除論を根拠として4月に却下判決を下している。
しかしナム判事は、重大な人権侵害犯罪に対して主権免除を認めれば、むしろ国家間の友好関係を害しうるとし「ある国家が強行規範に違反すれば、その国家は国際共同体が定めた境界を踏み越えたことになるため、その国家に与えられた特権(主権免除)は没収されることが適当」と述べた。
ナム判事は、日本政府に訴訟費用を支払わせることはできないとした同じ裁判所の民事34部が、強制動員被害者が日本企業を相手取って起こした訴訟を今月7日に却下したことに対しても、真っ向から反論するような判断を下した。ナム判事は「強制動員被害者の賠償請求権は請求権協定で解決済み」との判断について「強制動員された労働者たちの日本企業に対する慰謝料請求権は、請求権協定の適用対象に含まれていないため訴求できると判断した最高裁判所の判決があり、この事件(慰安婦事件)の賠償請求権の性格は強制動員労働者の賠償請求権と異なると考えることもできない」と述べた。
またナム判事は、民事34部が日本や米国との関係悪化の可能性を賠償請求が受け入れられない理由として挙げたことについても、対日関係悪化問題などは政府が扱うべきであり、司法府が検討すべき問題ではないと強調した。日本政府や日本の民間企業の財産に対する判決と強制執行は、法理のみを問うべきであり、裁判所が外交関係まで判断理由にするのは不当だということだ。