22日の韓米首脳会談の結果には、韓国と米国が協力して海外の原発市場に進出するという「原発輸出」計画が盛り込まれている。原発技術大国の米国とともに、中東や欧州などの新規原発事業に韓国企業が参加できるよう協力することにしたという。
4年前に「脱原発」を大統領選挙の公約に掲げた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、なぜ任期最後の年になって「原発輸出」を言うようになったのだろうか。大統領府はもとより、原発の主務省庁である産業通商資源部(産業部)、与党である共に民主党も、政府の脱原発基調に変わりはないとの立場だ。専門家たちは、もともと不明確だった脱原発概念▽原子力界の不満をなだめるため▽小型モジュール原発(SMR)産業推進の水面下での作業などを、今回の韓米原発協力の背景としてあげる。
■脱原発の範囲はどこまでなのか
2017年5月に共に民主党が発行した大統領選挙の政策公約集「国を国らしく」には、脱原発政策と原発政策の全面的見直しが書かれている。より具体的には、新古里(シンゴリ)5、6号機の工事の中止および今後のすべての新規原発建設計画の白紙撤回、老朽化した原発の稼働延長禁止、月城(ウォルソン)1号機の閉鎖、原発ゼロ時代への移行などだ。原発業界を代弁する「朝鮮日報」などは今回の発表について、脱原発と原発の輸出は「矛盾」だと主張し、脱原発政策に揺さぶりをかけている。
環境団体などは、文大統領の言う脱原発はドイツ式の全面閉鎖(2022年完了)ではなく「中長期的なエネルギー転換」程度を意味するが、過度に脱原発を強調するパフォーマンスに重きを置いていると見ている。未来の原発需要を減らしていくという「減原発」のメッセージにすぎず、「脱原発」ほどではなかったというのだ。
2019年には、文大統領が自らチェコに対して「原発セールス外交」を行ってもいる。また今年2月には新ハヌル3、4号機の工事計画の認可を2023年まで延長し、工事中止の最終決定を次期政権に先送りするなど、「脱原発」とは言いがたい姿勢を示してきた。緑色連合のソク・クァンフン専門委員は「大統領選挙の公約発表時も脱原発の概念は明確ではなかった。国内での新規の原発建設などを中止するとは言ったが、原子力の研究や輸出事業は認め続けてきた」と述べた。
■原子力業界の不満をなだめる?
韓米両国が技術協力を行うとすれば、技術力が先を行く米国が部品提供と運営を担当し、韓国は設計や製作、施工を担当するとみられる。
原子力安全研究所のハン・ビョンソプ所長は、韓国原発の競争力は「コストパフォーマンス」にあると強調する。ハン所長は「(世界の原発市場で)中国を除けば韓国の原発がもっとも安い。こうした長所を基礎として、韓国が持つ技術を輸出するという経済的論理がもとになっているはず」と述べた。同氏は「文在寅政権が脱原発を主張したところ、月城1号機の閉鎖問題でみられたように、原子力学界や原発関連企業などのあらゆる不満が爆発した。結局、今回の韓米協力も、政府が彼らの未来を優先したものだと思われる」と述べた。
文在寅政権発足後の2018年には、原子力の学界や産業界などが参加した「原発輸出国民行動推進本部」が発足するなど、原子力業界は原発輸出に目を向けた。朴槿恵(パク・クネ)政権時代の古里(コリ)1号機閉鎖では、何の論争も起こらなかったこととは対照的だ。古里1号機は、2015年6月に韓国水力原子力が稼働期間の延長を試みたが断念し、2017年6月に永久停止した。当時与党だったセヌリ党もこれに賛成している。
■斗山重工業は脱原発で経営が厳しくなった?
もし原発の輸出に成功すれば、今回の首脳会談の最大の恩恵を受けるのは斗山重工業になる見通しだ。斗山重工業は世界最大の鍛造機械(鉄をハンマーで叩く機械)を持つため、原子炉を製作できる。原発関連の装備や部品を自ら調達できる代表的な企業だ。
朝鮮日報などは、斗山重工業で続いた赤字やリストラの理由を脱原発政策に求める記事を書き続けてきた。しかし斗山重工業の経営難の主な理由は、子会社の斗山建設を支援するために10年近く買い続けてきた株の価値が下落したことだ。さらに世界的なエネルギー転換の流れにより、海外での石炭発電や原発の受注が減ったことが大きい。脱原発政策に伴う国内の原発の建設中止による損失は赤字とはなっているものの、大きな割合は占めていない。
正義党の気候・エネルギー正義特別委員会のイ・ホンソク委員長は「斗山重工業に投じられた資金だけを見れば公企業と見ても差し支えない。前身の韓国重工業は斗山に売却されたが、民営化以降も政府は斗山重工業を活用したいはず」と述べた。斗山重工業に投入された緊急経営資金は、昨年9月現在で3兆6000億ウォン(約3480億円)にのぼる。
韓国が原発輸出に成功するかは未知数だ。産業部などが輸出可能国として挙げているチェコやポーランドなどの東欧諸国はロシアと近いため、米国式の原発は輸入しない可能性がある。サウジアラビアは、文大統領と米国のジョー・バイデン大統領が原発協力の条件として掲げた国際原子力機関(IAEA)の追加議定書の批准問題が解決されなければ輸出は難しい。
「原子力の安全と未来」のイ・ジョンユン代表は「韓米が協力して原発を輸出しようとすれば、輸入する国はIAEAのセーフガード・プロトコルを受け入れなければならない。しかしウラン濃縮と再処理オプションを希望するサウジアラビアはこれを拒否しており、韓国がサウジアラビアに原発を輸出するのは難しい」と述べた。
脱原発と原発輸出、道徳的矛盾
韓国国内では「終わり」を受け入れた原発業界では最近、小型モジュール原発(SMR)などの新たな方式の原発が代案になる可能性があるとの主張が相次いでいる。原発業界は、原発は温室効果ガスを排出しないクリーンエネルギーだと主張している。
最近、文大統領にSMRの必要性を強調した共に民主党のソン・ヨンギル代表は22日、自身のフェイスブックに「2050年の炭素中立(カーボンニュートラル)達成のために、すでに韓国水力原子力などが進めており、斗山重工業と米国のニュースケール社も行っているSMR技術の開発が加速する状況になった」と述べ、韓米の原発輸出協力に歓迎の意を明らかにしている。
このため、2030年の国別温室効果ガス削減目標(NDC)などの、2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップを今年10月ごろに完成させると明らかにしている韓国政府が、SMR技術の進捗状況、国内での新規原発建設の再開、老朽化した原発の稼働延長などを反映して、温室効果ガス削減目標を設定するのではないかという懸念の声もあがっている。ただしSMRはまだ商用化されていない遠い未来の技術であり、新ハヌル3、4号機の建設再開も考慮すれば逆風を受ける可能性もあるため、そうした無理な手法は取らないだろうとの予想もある。
今回の原発輸出協力の発表について、環境団体は韓国政府の道徳的矛盾を指摘する。国内では温室効果ガスの排出量削減のために新規の石炭火力発電所はこれ以上作らないとしつつも、ベトナムやインドネシアなどの開発途上国の石炭火力発電所建設には韓国企業と金融がかかわっているのと同じだ。自然災害や気候変動による安全性の問題から自由でない原発を、単に国内では新たに建設しないというだけで、海外輸出は続けるということだからだ。