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[記者手帳」死亡したトランスジェンダー軍人の意志、韓国軍の古い思考を変えられるか

登録:2021-04-17 07:05 修正:2021-04-20 15:43
故ピョン・ヒス下士の退役処分取り消し訴訟の初公判が開かれた今月15日午前、「ピョン・ヒス共対委」と弁護人らが大田地裁で記者会見を開き、今回の裁判の意味について説明している=キム・ジョンチョル先任記者//ハンギョレ新聞社

 「性別を記入して下さい」

 「え?」

 「ここに男または女と書くだけでいいです」

 傍聴席で男女を別々に座らせようとするのか?まさか?裁判の傍聴券を配るのに、なぜ性別が必要なのか?などの質問が次々と頭をよぎった。しかし、競争の激しい傍聴券を手にするのが先だったため、言われるがまま性別を書いた。傍聴券をもらえなかった人々の羨望の視線を浴びながら入った遠隔法廷(座席を空けて座るため、半数は隣の法廷で中継放送を視聴)には当然、男女の区別などはなかった。

 指定された席に座ってからも、心の中では様々な質問が浮かび続けた。男と女だけでなく、トランスジェンダーや中性、両性、無性など、人の性自認(ジェンダーアイデンティティ)は極めて多様なのに、どうしてまだ男と女の二つに区分するのか?必要な情報でもないのに、なぜあえて性別を確認しようとするのか?そのうえ、この裁判は、韓国社会の堅苦しく差別的なジェンダーアイデンティティの観念に対抗して戦い、自ら命を絶った故ピョン・ヒス下士が提起したのではないか。裁判所の職員らは、これまで通り傍聴人名簿を作成していただけかも知れないが、性自認と関連し、韓国社会に潜んでいる隠れた壁を目にしているようで、後味が苦かった。

 ピョン・ヒス下士の退役処分取り消し訴訟は、大田(テジョン)地裁行政2部(オ・ヨンピョ裁判長判事)がピョン下士の家族の裁判受継要請を受け入れたことで、15日午前に大田地裁で開かれた。社会的関心を反映するかのように、多くの傍聴客と取材陣が押し寄せた。「ヒスの意志を受け継ぐ」と決心したピョン下士の両親も出席した。

 初公判は手続き上の問題があるかどうか、性転換手術が心身障害に該当するかなど、いくつかの争点だけを確認して終わったが、同日の裁判所の様子は、「ピョン・ヒスの闘争」が単に強制退役処分をめぐる法理的争いにとどまらず、性的マイノリティに対する偏見と差別をなくすための重大な社会的戦いであることを浮き彫りにした。陸軍本部を代理した軍法務官の法廷発言や準備書面は、韓国軍がどれほど時代錯誤的かをあらわにしていた。

 軍は法廷での発言で、「ピョン下士の死を哀悼する」としながらも、男性の性器を取り除いた軍人の強制退役(除隊)は正当だという趣旨の主張を続けた。事前に提出した準備書面では「個人の人権のためだけにその他多数の人権を無視することは、国家の安全保障を最優先に考え最上の戦闘力を発揮するために構成員全体の士気を強く維持し、軍の任務を滞りなく遂行させることを究極的な目的とする軍の特殊性を考えると、その存立目的と相いれないといえる」と明らかにした。「原告の幸福追求権だけを考慮し、他の人々の幸福追求権を見過ごすことはできない」と述べた。

 これは性転換手術を受けたピョン下士の人権と他の軍人の人権を対立的なものと捉え、差別を煽る反人権的な発想だ。クィアフェスティバルに対する「拒否できる権利も、嫌がる権利も尊重されなければならない」(アン・チョルス前議員)という発言と同じだ。

 軍は、このような発言が嫌悪勢力に性的マイノリティを差別してもいいという免罪符を与えることを知らないようだ。性的マイノリティの人権保護は、マジョリティの比重を踏まえて行うかどうかを決められるものではなく、それ自体として最善を尽くさなければならない単独の価値だ。陸軍本部はまた、「他部隊への転入でも、他の部隊員たちに原告(ピョン下士)が性転換手術を受けた事実が知られれば、打ち解けにくくなり、好奇心の対象になり得ることから、部隊員との関係などを考慮し、軍での活用性と必要性の部分でも現役服務が制限される」と主張した。「退役処分はむしろ原告の兵役義務を解消した措置」だと強弁した。トランスジェンダーは好奇心の対象であるという考えも古いが、軍内部で起こっている変化すらついていけていないことを表している部分だ。ピョン下士の所属部隊員と幹部たちは、当人の選択を支持して応援し、復帰を期待していた。

 米国やドイツ、イスラエルなど20カ国余りでトランスジェンダーの軍服務を認めていることに関しても、軍は「国連加盟国が193カ国であることを考えると、むしろ多数の国でトランスジェンダーの軍服務を制限しているのが現実」だとし、没価値的で退行的な解釈を示した。

 軍がこのように差別と偏見の城を築いているが、ピョン・ヒスさんは昨年初めに強制除隊させられた時と違って、もう一人ではなかった。同日、ソウルだけで20人以上の市民が「ピョン・ヒス下士復職訴訟市民傍聴団」を構成し、貸切バスで大田まで駆け付けた。「人権運動ネットワーク・パラム」の活動家、ミョンスクさんは「性的マイノリティが自分の市民権を認められるために戦わなければならない前近代的な現実がもどかしい」とし、「ピョン下士の勇気が実を結ぶのを目撃することになるだろう」と話した。トランスジェンダーの活動家、パク・エディさんも「ピョン下士が受けた処分が不当であることを人々に知らせたい」と述べ、市民傍聴団の一員だったイム・ユギョンさんは「ピョン下士の戦いを見守る人が多いことを知らせるために参加した」と語った。ピョン・ヒスさんが起こした新しい風が徐々に吹いている。

キム・ジョンチョル|土曜版チーム先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/rights/991398.html韓国語原文入力:2021-04-17 02:30
訳H.J

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