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「差別なき世界」トランスジェンダー兵士の夢は叶えられるだろうか

登録:2021-03-06 03:07 修正:2021-03-06 07:38
[土曜版]来週の質問
昨年3月11日午後、ソウル新村のある家の前に置かれた造花が美しいと言って立ち止まったピョンさんを、本紙のカン・ジェフン先任記者が撮影した//ハンギョレ新聞社

 ピョン・ヒス様、あなたは本当に堂々としていて勇敢でした。男性から女性への性別適合手術を受けたことを理由として、昨年1月に軍を追われたあなたに、インタビューを要請しましたよね。心身ともに疲れているので、当分は誰とも会わないという話を伝え聞いて、あなたが人前に出るのを恐れているのだと思いました。私たちの社会にまん延している性的マイノリティーに対する嫌悪と差別を考えれば、十分理解できました。だから、あなたが会わないという選択をしたとしても尊重するという旨を伝えて、諦めていました。でもあなたは、1カ月後に疲れが取れたと言って連絡して来ました。昨年3月11日にソウル麻浦区新村(マポグ・シンチョン)にある軍人権センターで会ったので、ちょうど1年前です。

 あの日のインタビュー(2020年3月21日付ハンギョレ土曜版カバーストーリー、「機甲の突破力でそんな差別はなくしてしまえます。ハハ」)であなたはこう言っていましたよね。「最後まで闘うつもりです。性的マイノリティーの人権と自由を勝ち取り、差別のない軍を作るために、機甲部隊のモットーである『機甲先鋒』らしく、先鋒となって戦うつもりです」って。戦車の操縦が好きなあなたらしい答えでした。あなたは「軍人年金の対象ではないので、早く稼がなければならない」、「ゲームしたりショッピングしたり、普通に過ごしている」と言っていました。「私は家の外にはあまり出ないインドア派です。パソコンと任天堂さえあれば一人でもよく遊びます。ウェブ漫画も好きです」。23歳の青年の明るく愉快な生活ぶりが頭に浮かんで笑ってしまいましたが、平凡な日常こそ自信と勇気の表れでもあるということを知っているので安心したものです。

 あなたはそのような堂々とした態度だけでなく、他人に対する思いやりと共同体生活についての理解も深かったですよね。「軍に不意打ちをくらいましたからね」と言って軍の高位幹部に裏切られたという思いを抱きながらも、同僚や後輩の戦車兵のために「ぜひとも頼みたいことは、戦車にエアコンをつけてほしいということです」と言って、軍と政府に装備の改善を訴えました。中学生の時、日本の独島領有権主張に抗議して、故郷の忠清北道清州(チョンジュ)で、日本の旭日昇天旗を路上に敷き、市民に踏ませたことなどについて「今思えば、あまりにも国粋主義的な活動」だったと反省していたことも印象深い出来事でした。「多数派だと思っている人たちも、明らかにマイノリティー的な側面があり得ます。その人が労働組合員だとか、何かの少数宗教だとか、そういう部分もあり得ますからね。でもこういう時、自分が多数派だと思うことでマイノリティー差別に目をつぶれば、自分たちがマイノリティーとして迫害を受けた時、結局は助けてくれる人が誰もいなくなるでしょう」という話もまた、どれほど核心をつく言葉なのでしょう。

 しっかりしていて思慮深いあなたの闘いに連帯したくて、記事が出た後もたまに電話をしたりショートメッセージを送ったりしましたよね。あなたを応援する内容の文章や記事があれば送ったり。国家人権委員会が陸軍と国防部に、あなたの退役処分を取り消せという勧告をしたことが伝えられた先月初めが最後でした。私が送った記事のリンクに、あなたはいつものように「あっ… はいはい元気です!! ありがとうございます!」と明るく答えてくれました。

 そんなあなたが戻って来られない場所に行ってしまったという突然の悲報に、まだ頭がぼうっとしています。腰をかがめて野良猫に近づいていって交感し、新村の路地のある家の門の前に置いてあった花のことを、造花だと知りながら、足を止めて綺麗だと言っていたあなたに、もう会えないなんて。あの日、メールだけでなく、電話して近況を聞いていたら、少しは力になれたのだろうかと考えて、もっと前から、もっと積極的な連帯をなぜ表明できなかったのか、後悔が頭をめぐります。

 「挫折しはしない」と言っていたあなたが、結局は倒れてしまったことを考えると、怒りもこみ上げてきます。人権委の相次ぐ勧告すら頑として無視する陸軍、ろうそく革命で誕生したのに軍の差別的態度から一歩も前に進み出ない文在寅(ムン・ジェイン)政権、174議席という多数の議席を確保しているにもかかわらず、差別禁止法を国会常任委に上程すらしていない共に民主党、「そのようなもの(クィアパレード)を拒否する権利も尊重されるべき」(アン・チョルス)などの、性的マイノリティー嫌悪を吐き出す政治家。匿名の嫌悪勢力よりも罪の重い加害者です。

 ピョン・ヒス様、そしてその1週間前にこの世を去ったキム・ギホン様(済州クィア文化祭共同組織委員長)。あなたたちが寂しい思いをすることは、もはやないでしょう。ヒスさんが住んでいた家の玄関前に置かれていた一瓶の酒と一封の香典袋を見たでしょう? あのような小さな意思が集まり、差別と嫌悪の壁を必ず突き崩して行くことでしょう。安らかにお眠りください。

キム・ジョンチョル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/rights/985604.html韓国語原文入力:2021-03-05 14:40
訳D.K

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