本文に移動

北朝鮮の東京五輪不参加宣言で韓国政府の平和の火種起こしにも支障

登録:2021-04-07 05:27 修正:2021-04-07 07:16
2018年2月、平昌冬季五輪の開幕式を共に観覧しているキム・ヨジョン副部長と文在寅大統領夫妻=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 北朝鮮が7月23日の開幕を控えた東京五輪に「参加しないことについて討議・決定」したことを電撃的に公開し、今回の五輪を「朝鮮半島平和プロセス」再開のきっかけにしようとしていた韓国政府の計画にも支障を来たすことになった。北朝鮮が参加しない理由として朝鮮半島情勢をめぐる複雑な政治状況ではなく、新型コロナの感染拡大による「世界的保健危機状況」を挙げただけに、再考を促すための政府の説得が続くものとみられる。

 朝鮮民主主義人民共和国オリンピック委員会(キム・イルグク委員長)は先月25日、平壌(ピョンヤン)で開かれた総会で「悪性ウイルス感染症(新型コロナ)による世界的な保健危機状況から選手を守るため、委員らの提案を受け、第32回オリンピック競技大会に参加しないことを討議・決定した」と、「朝鮮体育」ホームページにて5日付で発表した。北朝鮮は同発表で、五輪への不参加決定の理由として、新型コロナの感染拡大以外に、対外政策的考慮など他の要因については言及しなかった。北朝鮮官営「朝鮮中央通信」はまだ関連報道を出していない。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権は昨年9月の菅首相の就任を契機に、硬直した韓日関係を回復するため、積極的な対日外交を展開してきた。当時、政府が日本を説得する際に掲げた名分は、東京五輪が「平和五輪」として行われるよう、韓国が支援を惜しまないということだった。韓国政府は昨年11月、パク・ジウォン国家情報院長の訪日(8~11日)、韓日次官電話会談(12~11日)、キム・ジンピョ韓日議員連盟会長の訪日(12~14日)などを通じ、「来年の東京五輪の成功的な開催を媒介に、韓日協力のきっかけを見出さなければならない」という意見を日本に伝えた。特に、パク院長は菅首相に「東京五輪の平和な開催や日本人拉致問題の解決に実質的な支援を行えるのは文在寅大統領しかいない」として、韓日関係改善の必要性を力説したという。しかし、この試みは日本が「韓日関係回復のきっかけを韓国が作るべきだ」という立場を貫いたことで、失敗に終わった。

北朝鮮は3月25日に平壌でオリンピック委員会総会を開き、7月に開かれる東京五輪への不参加を決めた=「朝鮮体育」のホームページよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 文大統領はその後も、東京五輪を通じて南北関係と韓日関係を改善し、その勢いに乗って朝鮮半島平和プロセスを再稼働したいという意欲を数回示してきた。1月21日に開かれた国家安全保障会議(NSC)全体会議で「今年東京五輪を新型コロナから安全な大会として成功裏に開催できるように協力しながら、韓日関係改善と北東アジア平和進展の機会にしなければならない」と述べ、注目を集めた。三一節記念演説でも「今年開かれる東京五輪は韓日間、南北間、そして朝米間の対話の機会になり得るだろう」と再度強調した。

 北朝鮮の五輪参加に期待をかけたのは韓国だけではなかった。新型コロナへの対応の未熟さと長男の総務省官僚接待問題などで支持率が大きく落ち込んだ菅首相も、五輪を通じて“局面転換”を図るという意欲を何度も明らかにしてきた。30%台後半にとどまっている現在の支持率が固着化すれば、菅首相は安倍晋三前首相の任期(今年9月)を埋める1年の“中継ぎ首相”に終わってしまう。

 そのため、菅首相は金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長またはキム・ヨジョン労働党宣伝扇動部副部長が五輪をきっかけに訪日する場合どうするかという国会質疑が出るたび、「会う用意がある」という趣旨の答弁を繰り返してきた。毎日新聞が昨年11月15日付で、金委員長が日本を訪問したとしても「拉致被害者の帰国をはじめ、大きな成果が得られなければ、政権のダメージにつながる」と指摘するほどだった。

 しかし、冷静に振り返ると、今回の北朝鮮の決定はある程度予見されていたものだった。2019年2月末、ハノイで開かれた朝米首脳会談が物別れに終わって以来、北朝鮮は朝米対話再開の条件として韓米合同軍事演習の中止など「敵視政策の撤回」を要求してきたが、韓米が応じなかったからだ。さらに、最終段階に入ったジョー・バイデン政権の北朝鮮政策の見直し結果が、北朝鮮に決して好意的ではないという判断が働いたものと見られる。

 結局、韓米が3月初めに韓米合同軍事演習を実施したことを受け、キム・ヨジョン副部長は先月16日の談話で「南朝鮮当局とは今後いかなる協力や交流も必要ない」とし、「今回の厳重な挑戦で、任期末期に入った南朝鮮当局の前途は非常に暗く、苦しいものになるだろう」と警告しており、30日の談話でも文大統領を「米国産のオウム」と皮肉った。北朝鮮は五輪に参加しない理由として、「世界的な保健危機の状況から選手を守る」という名分を挙げたが、五輪参加で2018年のような情勢変化をもたらせると予想していたなら、コロナ禍にも果敢な決定を下した可能性が高い。

 韓国政府は、落胆を隠せなかった。統一部当局者は6日、記者団に対し「政府は今回の五輪が朝鮮半島の平和と南北和解・協力を進展させるきっかけになることを望んでいたが、新型コロナによりそれが実現できなくなったことについて、残念に思っている」と述べた。さらに「これまで南北が国際競技大会への共同進出などスポーツ交流を通じて朝鮮半島の平和と協力を進展させた経験があるだけに、政府は今後ともスポーツなど様々な分野でこうしたきっかけを見いだすための努力を続けていく」と付け加えた。加藤勝信官房長官も6日、「国際オリンピック委員会などとの調整だから、それを注視していく」という原則的な立場を明らかにしながらも、「多くの国・地域が参加してもらえるよう、感染対策を含め環境整備に引き続き努めていく」という意志を明らかにした。朝日新聞は関連ニュースを速報で報じ、「北朝鮮の主張通り、新型コロナへの対策を優先したと考えればいい。(3月25日に決定を下した後)発表が遅れたのは、公開に向けた内部の手続きのためだろう」という韓国政府関係者の反応を伝えた。

 政府は北朝鮮が提起した「保健危機」に関する懸念を解消できる案を提示するなど、説得を試みるものとみられる。政府高官は「政府が当該情報を事前に把握していたと聞いている。北朝鮮を説得するための努力が必要だ」と述べた。国際オリンピック委員会(IOC)は昨年4月、五輪出場選手の登録期限を7月5日までとしている。

キル・ユンヒョン記者、イ・ジェフン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/989806.html韓国語原文入力:2021-04-06 15:59
訳H.J

関連記事