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[ニュース分析]北朝鮮、ブリンケン長官の訪韓前日に韓国を攻撃、米国に警告

登録:2021-03-17 05:35 修正:2021-03-17 08:37
キム・ヨジョン副部長、韓米軍事演習非難する談話で 
「3年前の春の日に戻るのは容易ではないだろう」
北朝鮮のキム・ヨジョン朝鮮労働党中央委員会副部長(右)と実兄の金正恩国務委員長=板門店/韓国共同写真記者団//ハンギョレ新聞社

 キム・ヨジョン朝鮮労働党中央委員会副部長は16日、今月8日に始まった韓米軍事演習を「共和国(北朝鮮)を狙った侵略的な戦争演習」だとし、「赤い線(レッドライン・超えてはならない一線)を超える腑抜けな選択」だと批判した。

 キム副部長は「3年前の春が再び戻ってくることは難しい」と題した個人談話で「戦争練習と対話、敵対と協力は両立できない」としたうえで「対南対話機構である祖国平和統一委員会(祖平統)」と「金剛山国際観光局をはじめ、(交流協力)関連機構もなくす問題を検討している」と明らかにした。さらに「南朝鮮当局がさらに挑発的に出るなら」という前提で、「(2018年9月19日)北南軍事分野合意書の破棄に関する対策も予見している」と述べた。南北関係を対話と交流協力がなかった対決の時代に、状況の展開によっては軍事的対立と衝突の時期に逆戻りすることもあり得るという脅しだ。

 キム副部長の談話は、米国のアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官の韓国訪問の前日であり、日本訪問の当日の朝に合わせて発表された。「南朝鮮当局」を主な非難の標的にしているものの、キム副部長の談話が北朝鮮政策の見直しを進めているジョー・バイデン政権に向けた“メッセ―ジ”の意味を持っていることを裏付けている。実際、キム副部長は談話で「米国の新政権にも一言忠告する」とし、「今後4年間、ぐっすり眠りたいなら、最初から眠りを妨げるような真似はしない方がいい」と述べた。これは「強対強、善対善の原則で米国に対応する」という金正恩(キム・ジョンウン)労働党総書記の第8回党大会演説(1月5~7日)の対米政策基調を背景に、対象を「米国の新政権」に特定した北朝鮮側の初めての公開発言だ。

 キム副部長の談話は、2019年2月のハノイでの第2回朝米首脳会談の失敗後、「南北関係を揺さぶり、米国を動かす」という金正恩総書記の対南・対米政策基調の延長線上にある。しかし「同盟重視」と「韓日米三角協力の強化」を掲げてきたバイデン政権が、南北関係の悪化にもかかわらず北朝鮮と積極的に交渉に乗り出す可能性は非常に低い。金正恩総書記の狙いがどうであれ、「南北関係を犠牲にした対米アプローチ」はむしろ朝米関係のさらなる悪化につながり、朝鮮半島情勢に暗い影を落としかねない。米ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は15日(現地時間)、定例会見で、バイデン政権が北朝鮮に接触を図ったが、北朝鮮は応じなかったという最近のメディア報道を確認し、「外交が最優先」だと繰り返し強調した。

 今回の談話は、対外用メディア「朝鮮中央通信」だけでなく、異例にも労働党中央委機関紙「労働新聞」や「朝鮮中央放送」などを通じて、内部にも大々的に報じられた。韓米に対する“警告”とともに、内部の政治的需要も考慮したものと見られる。人民にも公表されたことから、“言葉”を“行動”に移す後続措置につながる可能性が高い。

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官が今月15日(現地時間)、ホワイトハウスで記者会見を行っている。サキ報道官は同日の定例会見で、バイデン政権が北朝鮮と接触を図ったが反応を得られなかったと明らかにした=ワシントン/AP・聯合ニュース

 これは昨年6月の対北朝鮮ビラをめぐる北朝鮮側の行動を思い出させる。当時、北朝鮮側は一部脱北者団体の「対北朝鮮ビラ散布」を問題視し、「キム・ヨジョン談話」(6月4日)→開城(ケソン)南北共同連絡事務所建物爆破(6月12日)→朝鮮人民軍総参謀部報道官による4大軍事措置発表(6月17日)→金正恩委員長の「対南軍事行動計画保留」(6月24日)で、南北関係を揺るがした。さらに平壌市党委員長など各界各層の労働新聞の連鎖寄稿や、朝鮮社会主義女性同盟などの「抗議群衆集会」で韓国に対する敵がい心を煽った。

「9・19軍事合意」破棄の場合は南北・朝米関係にも暗雲

 今回も、労働新聞への連続寄稿と抗議群衆集会が続く可能性がある。対外環境の悪化と「三重苦」(制裁、新型コロナ、自然災害)でさらに悪化した経済状況、「自力更生式の正面突破戦」の長期化などによる人民の不満のはけ口として、対南敵がい心を煽るものとみられる。「対南政策の内部政治化」だが、南北関係に回復しがたい傷を残す恐れがある。

 キム副部長が談話で予告した対南措置の中で朝鮮半島情勢に戦略的含意を持つ内容は、対南対話と交流協力機構廃止の脅しよりは、朝鮮半島における平和の“安全弁”の役割を果たしてきた9・19南北軍事合意を破棄するという警告だ。9・19軍事合意破棄の処置が実行されれば、文在寅(ムン・ジェイン)-金正恩時代の南北関係の地形を根本から揺るがし、朝鮮半島情勢全般に波紋を広げる危険性がある。

 北朝鮮は昨年6月、対北朝鮮ビラについても「名ばかりの南北軍事合意の破棄」(6月4日のキム・ヨジョン談話)に言及し、非武装地帯(DMZ)の監視警戒所(GP)の再建や境界地帯の軍事訓練再開など、人民軍総参謀部報道官の発表で軍事合意の破棄を予告したが、金正恩中央軍事委員長の指示で実行を保留した。今回もキム・ヨジョン副部長は祖平統と金剛山国際観光局の廃止を「最高首脳部に報告した状態」であり、実行が差し迫っていることをほのめかしながらも、「軍事合意書の破棄」は「南朝鮮当局がさらに挑発的に出るなら」という但し書きをつけていったん先送りする形をとった。

 しかし、北朝鮮が西海(黄海)北方限界線(NLL)近隣の海岸砲射撃再開など、様々な9・19軍事合意違反行為で実質的な破棄の段階に入る可能性もあるという見通しも示されている。韓国政府の元高官は「米国の制裁のため、核実験や大陸間弾道ミサイル試験発射のような戦略的軍事行動を金委員長が選択するのは難しい状況」だとし、「米国を動かすカードとして、9・19合意の破棄行動に出ることも考えられる」と述べた。他の高官は「北朝鮮は韓国への攻勢が朝米関係の悪化につながるという点を忘れてはならない。また韓米政府は早急に包括的対北朝鮮交渉案を用意し、朝鮮半島平和プロセスを再稼動しなければならない」と述べた。

イ・ジェフン先任記者、ワシントン/ファン・ジュンボム特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/987063.html韓国語原文入力:2021-03-17 02:44
訳H.J

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