ソウル恩平区新寺洞(ウンピョング・シンサドン)の鳳山トンネルを抜けると、視野が開けた高陽市(コヤンシ)の昌陵(チャンヌン)新都市予定地に出る。6号線セジョル駅から車で5~10分の距離だ。4車線の道路の両側の畑に、ビニールハウスとともに「○○対策委員会」名義の横断幕があちこちに張ってあった。横断幕には当局を糾弾する内容や「今に見ていろ泥棒ども」といった険悪な言葉が書かれていた。昌陵地区には、少しずつ名前の違うこのような対策委員会が10あまり作られて活動している。
今月10日、コンテナに臨時設置された対策委の事務所を訪れた。一つのテーブルを囲んで住民6人が集まっていた。A対策委の委員長が、ずり落ちるマスクを直しながら激昂した声で話した。
「LH(韓国土地住宅公社)の職員らの投機疑惑が浮上してから、一番悔しいことは何かというと、人々が新都市に土地があれば大金を稼げると思っていることです。私たちが大金を稼げるですって? 周辺の相場ほども受け取れませんよ。大金は新都市ができてから土地を買える業者やマンションの分譲を受けるソウルの人たちが稼ぐんじゃないですか」
図面流出問題の7カ月後、第3期新都市に指定
昌陵新都市はソウルに隣接しているため、早くから投機家たちが多く手をつけた。2018年にLHの社員が「昌陵地区内部検討開発図面」を流出させた事件が代表的だ。この事件で2018年10月に政府は「昌陵地区を新都市の対象から除く」と明らかにしたが、翌年5月、流出した図面と半分以上重なる地区を第3期新都市に指定した。「一部重なっているが、市場かく乱行為は少ない」(キム・ヒョンミ国土部長官/当時)という説明だったが、住民は「投機家たちにロト番号を教えたようなもの」と反発した。
龍頭洞(ヨンドゥドン)のある不動産業者は「図面流出のため白紙撤回されたとき『計画は消えた』と思った。しばらくは指定されないとみて土地を売り払った人も多かった」と言い、「今になって考えると(指定されるという) 内部情報を知っていたLHの職員たちと投機家だけが利益を得たようだ」と疑った。
指定地周辺の土地も半年で50~60%急騰
今月5日、LHは「昌陵新都市の全土地所有者を確認した結果、LHの職員はいない」と発表したが、住民は「その言葉をどうして信じられるのか」という反応を見せた。実際、11日に政府合同調査団が近隣地域まで対象に含めて調査(1次)した結果、LHの職員2人が昌陵新都市に関連する土地を購入していたことが明らかになった。
B対策委の関係者は「LHの職員が土地を買うとすれば、いくらになるかわからない受け入れ予定地区よりは、すぐ隣の土地を買ったはず」とし「新都市の恩恵も受けられ、土地も相場通りに売ることができるため、はるかに良い。調査するなら周辺の恩恵地域まで全部調査しなければならない」と述べた。
国土交通部の「実取引価格公開システム」によると、受け入れ予定地である花田洞(ファジョンドン)の昨年の土地取引件数は29件だったが、隣接する玄川洞(ヒョンチョンドン)の取引件数は47件だった。これらの地域の不動産業者によると、受け入れ予定地区とは違い、周辺地域の相場だけで、この6カ月間で50~60%も急騰したという。
政府やLHに対する不信感…「支障物調査を拒否」
一部の対策委は、近く行われる予定の支障物(公共事業実施地区内の土地にある建物や農作物など。原則として移転費を支給して移転させる)調査をまず阻止すると意気込んでいる。支障物調査は土地補償手続きの第一段階なので、問題が生じれば全体的な新都市開発の日程が遅れる可能性もある。C対策委の関係者は、「LHは、職員の関係する土地への補償を多くするために、地元住民の土地に対しての補償は少なくすることもありうる。LHを信じられるものか」と述べた。また別の住民は、誰々の子どもはLHに勤務して数年前に購入した土地が二重に補償を受けるという話があると耳打ちした。しかし、番地数を確認した結果、2004年に取引が行われた土地だった。
一部の住民たちは、鑑定評価は「ショー」にすぎないのではないかと疑っている。昨年10月に行われた標本鑑定で補償金がすべて決定され、今夏に行われる予定の本鑑定は「住民を説得するための見せかけ行政にすぎない」という主張だ。大手の評価法人に所属するある鑑定評価士は、「補償額など予算策定のために行う標本調査は圧力を受けないため、より公正に行われるというのが評価士たちの大方の見方だが、住民は(政府やLHに対する)不信感が相当強いようだ」と話した。本鑑定評価は施行社(LH)、管轄市・道知事(京畿道知事)、土地所有者がそれぞれ推薦した3人の鑑定評価士が行う。
内部でも食い違う利害関係…「補償」に焦点
しかし専門家たちは、最近のLHとその職員に対する過度な不信と憶測は警戒すべきだと指摘した。LH側の評価業務を行ったある鑑定評価士は、「樹齢数十年の大木ならともかく、ウンリュウヤナギの苗木を植えたからといって多額の補償を受けとれるわけではない。地価より補償金額が大きいわけでもない。土地評価ではよくある手法だ」と語った。また「LHの職員が受け入れ予定地に土地を購入したと聞いて、初めは『なぜ買ったのだろう』と思った。本来の受け入れ予定地は、例えば相場が100ウォンの土地なら110~120ウォン程度では補償するが、300ウォン、500ウォンで補償することはない。土地補償法の趣旨は「開発に伴う利益を差し引いて補償する」というものだ。むしろ周辺地域に投資するのが一般的」と述べた。
続けて「ただし、1000平方メートル以上の土地を保有していればマンションの特別供給を受けられるということならば別問題。内部補償制度(昨年5月)が変わったことを事前に知って土地投機をした可能性はあっただろう。鑑定評価士もよく知らなかった情報」だと語った。
昌陵新都市の場合、以前から開発が予想されていた場所であるため、外地人が20年前から土地を購入していたことから、住民を地元民・外地人に区分するのも容易ではないという。「LH打倒」については一致した声を上げるが、本音は複雑だった。一方では「新都市計画の撤回」を主張し、もう一方では「今回のことで開発計画が撤回されてはならない」という声も出ている。
花田洞のある不動産業者はこのように話した。
「記者の皆さんが続々と訪ねてきて、LHの職員や地域の政治家が投機したといううわさはあるかと聞くんですが、それも重要だけれど、特に話すこともないんです。私たちには補償をどう受けられるかが重要なんです」