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「トラウマになるほど衝撃的」…デジタル性搾取物を削除する人たち

登録:2021-03-16 03:18 修正:2022-05-24 07:27
[チョ・ジュビン検挙1年]デジタル性犯罪被害者支援センター
ゲッティ・イメージバンク//ハンギョレ新聞社

 「他の犯罪は、加害者が捕まり処罰されれば被害が一段落するのに、デジタル性犯罪はそうではない。無限の空間で無限の加害が行われます。一人の加害者が数十年の刑を受けても、オンライン空間には数多くの別の加害者が残っています。彼らのハードウェアに被害映像がずっと残っていて、いつでもサイトにアップされます。被害が無限に繰り返されるのです」

 女性家族部傘下の韓国女性人権振興院には「デジタル性犯罪被害者支援センター」がある。Aさんは支援センターでデジタル空間に広がった性搾取物などの被害映像を削除する業務を担当する。

 デジタル性犯罪は日増しに進化する。デジタル空間に隠れた加害者たちは、誰かが楽しむためにSNSにアップした写真を加工して、性搾取物として流布する。人工知能技術を用いたディープフェイク違法映像は、私たち全員を潜在的被害者リストに載せている。テレグラムn番部屋事件の加害者チョ・ジュビン(博士部屋の運営者)が昨年3月16日、警察に逮捕された。1年が過ぎた。チョ被告には、一審で合計懲役45年の刑(性搾取物流布40年、犯罪収益隠匿5年)が言い渡された。2カ月後に逮捕されたn番部屋の最初の開設者「カッカッ」ことムン・ヒョンウク被告の一審も判決のみを残している。

 n番部屋事件でデジタル性犯罪に対する警戒心は高まったが、隠れた加害者集団の大きさを考慮すれば、捕まった数人は巨大なデータの中の小さな「ウイルス」にすぎない。Aさんは「オンライン上の空間にいる巨大な加害者たちは、単にチョ・ジュビンがミスを犯して捕まったと認識している」と話した。彼らの世界では、45年間この社会でオフライン状態になったチョ・ジュビンを「まるで英雄のように考えている」というのだ。

 「オンライン空間に浸っている加害者たちは、警察に逮捕され刑務所に行くことを、まるで一度死んでも蘇ることのできる一種のゲームのようなものだと考えています。処罰されることを全く恐れていません」

 テレグラムn番部屋事件が韓国社会に残した衝撃と大衆の関心は時間の経過とともに消えていったようだが、無限大に複製されるまた別のn番部屋との戦いは現在進行形だ。本紙はデジタル性犯罪の実態を毎日目で確認し、デジタル空間で製作者や流布者と果てしない戦いを繰り広げる「性搾取物を消す人々」に会った。

テレグラム性搾取共同対策委員会は10日、ソウルの世宗文化会館前で、n番部屋の最初の開設者ムン・ヒョンウク被告(カッカッ)の一審判決を前に記者会見を開いた=テレグラム性搾取共同対策委員会提供//ハンギョレ新聞社

 Aさんは、2018年4月のデジタル性犯罪被害者支援センター開設時から、性搾取物の削除支援業務をしており、もうすぐ4年目に突入する。同支援センターでは被害者の通報があると、流布範囲の把握▽緊急削除支援(各プラットフォームへの削除要請、放送通信審議委員会への遮断要請、警察に提出する証拠資料の作成)▽再流布モニタリングなどを行い、迅速な削除を最優先とする。有害サイトを事前にモニタリングし、性搾取物映像がアップされれば、すぐに削除する。

 支援センターはこの3年間で、月平均約9000件(2021年1月現在)の削除支援サービスを提供した。昨年は約12万5000件を削除した。1日平均で340件の被害映像を削除したわけだ。これまでに支援センターに助けを求めた被害者だけでも2000人あまりにのぼる。

違法撮影映像、トラウマを感じるほど衝撃的

 「被害撮影物を探すためにアクセスするサイトには、被害者の撮影物だけがあるわけではありません。本当にどっさり…動物虐待の映像があるケースもあります。加害者は次第に刺激的な映像を望むようになるため、性暴力映像、特に被害者を虐待する映像が増えています。加害者が加虐に面白さを感じるんだなと思うような映像が多いです」

 Aさんは、業務時間中ずっと有害サイトを見ていなければならないため、とてもつらいと語る。特に、公共の場での違法撮影物は、被害者が撮影されたことを全く知らないため、通報もされないままネット上をさまよっているという。

 「トイレの違法撮影がすごく多くて。それを見て自分がトラウマを感じるほど衝撃を受けて…飲食店に行った時にトイレの風景を覚えておく習慣がつきました。トイレに行くたびに、ここに植木鉢があるんだって覚えておくんです。後で削除業務をする時、その植木鉢のあるトイレなのか、自分が撮影されていないか、そんな確認をする強迫観念まで生じたんです」

テレグラム性搾取共同対策委員会は10日、ソウルの世宗文化会館前でn番部屋の最初の開設者ムン・ヒョンウク被告(カッカッ)の一審判決を前に記者会見を開いた=テレグラム性搾取共同対策委員会提供//ハンギョレ新聞社

 Aさんとともに性搾取物の削除業務を担当してもうすぐ4年目になるBさんは、この仕事を始めてから写真そのものを撮らなくなったと言う。友人と会った時、旅行に行く時も同じだ。最近撮った唯一の写真は、職場で職員たちと撮った団体写真。「友達のスマホに私の顔が写真として保存されていて、ハッキングされたりクラウドにアップロードされたりしたら、どんな方法でも盗用されうるという不安が大きいんだと思います」

 支援センターの職員たちは、「感情労働者保護法」の保護対象だ。支援センターが開設されて間もなく、相談員や削除担当者たちはトラウマのカウンセリングを受けるようになった。「2018年に予算を確保し、それから職員は1対1の心理相談を受けています。これが大きな助けになっています。さもなければとっくに辞めていたと思います」(Aさん)

チョ・ジュビンを「ブランド」と考える加害者たち

 Bさんは、チョ・ジュビンやムン・ヒョンウクらが逮捕され、デジタル性犯罪が公論化された時「最も腹が立った」と話す。「衝撃的だったのは、彼らがつかまると、被害映像がより早く広まるんです。捕まると彼らの名前が有名な商標となり、他の加害者たちが『俺、これ持ってる』と自慢したり…。捕まっていない人たちは、チョ・ジュビンよりましな人たちではありません」

 被害映像物の流布者の中には、ハッキング能力を持つ者もいる。支援センターもいつでも標的になりうるという。Bさんは「そのためセキュリティーに万全を期している」と言う。

 幼い頃からスマートフォンを扱い、コーディングを学ぶ若い世代は、デジタル技術には慣れているのにデジタル倫理を学ぶことができずにいると、Aさんたちはもどかしさを吐露する。韓国言論振興財団メディア研究センターは、メッセンジャーの団体チャットルームで違法撮影物を得たり、流布を目撃したりした時、どのように行動したかを尋ねた(2019年、1000人)。「黙って一人で見た」(64.9%)、「そのまま放っておいた」(51.5%)との回答が多かった。「写真や映像を品評した」(38.7%)、「他人に再転送した」(18.6%)、「ダウンロードした」(11.9%)も多かった。「警察などに通報した」は2.6%だけだった。

 「依然として人々は、デジタル性犯罪を物理的暴力に比べて軽く考えています。多くの人は強姦と聞くと大変驚きますが、流布と言われれば大したことではないと考えます。自分がオンライン上に何かアップしたことを、流布だとは考えられずにいるということでもあります」(Bさん)

 ここ数年で法は厳格化されつつある。今年1月に性暴力防止法が改正され、違法撮影物の流布被害に対して削除支援を要請できる人の範囲は、当事者から代理人にまで拡大された。先月、国会は青少年性保護法を改正し、オンラインで児童・青少年に性的行為をするよう誘引する「オンライン・グルーミング」行為を処罰する根拠を設けた。同時に、児童・青少年性搾取物の製作・輸出入罪の公訴時効も廃止された。

「かわいいね」「どこの学校?」「写真送ってくれる?」「会おうか?」「映像アップするぞ」青少年に性犯罪加害を加える言葉たち=ゲッティ・イメージバンク//ハンギョレ新聞社

 BさんとAさんは、これからがより重要だと強調する。加害者がきちんと処罰される判例を残すことが重要だからだ。Bさんは「n番部屋事件の影響で、これまで国会に長く係留されていたデジタル性犯罪関連法が最近になって多く改正された。法こそ改正されたものの、きちんとした加害者処罰につながるのか、まだひやひやしている」と語る。「処罰がきちんなされるようにするには、きちんとした判例を残さねばなりません。さもなければ、今後登場するデジタル性犯罪がきちんと処罰できません」

 n番部屋事件の中心的加害者に似た手法で性搾取物を製作・流布した者に対する処罰は、低い水準にとどまるケースが多い。大邱(テグ)高裁は昨年6月、児童・青少年性搾取物1300編あまりを製作・流布した疑いで起訴されていたP被告に対し、一審より6カ月軽い懲役2年6カ月を言い渡した。同じ容疑で起訴されていたS被告に対しても、一審では懲役2年6カ月の実刑だったものの、控訴審では執行猶予付きの判決が言い渡された。

人手は増えたものの、契約雇用のため連続性は保障されず

 今や隠しカメラによる撮影は「違法撮影」、リベンジポルノは「デジタル性犯罪」と言い直されている。青少年性保護法上のわいせつ物は「性搾取物」に名称が変わった。数年の間に、デジタル性犯罪の深刻さが広く認識されるようになったからだ。しかし、国際協力のない国内法の強化だけではデジタル搾取物の流布を防ぐことはできない。Bさんは「昨年からは海外サーバーの重要性を強調している。流布から捜査と処罰に至るまで、国際協力が切実に求められる」と述べる。Aさんは「海外の複数の国が、児童・青少年性搾取物に対する規定だけがあり、成人性搾取物に対する問題意識がない。国が被害映像を削除している国は、韓国とオーストラリアだけだ」と語る。

 女性家族部は今年1月、デジタル性犯罪の被害者を迅速に支援するため、支援センターの削除業務人員を既存の17人から39人へ増やした。BさんとAさんは、人員を増やすのも重要だが、被害映像の迅速な削除のために絶対に必要なのは、業務の連続性の保障だと言う。「22人が補充されたものの、教育期間などを除けば、数カ月働いただけで1年の契約が終わる」というのだ。被害撮影物という敏感な情報を扱う業務であるため、セキュリティ教育などを徹底的に行うことから、教育期間は長い方だが、業務に習熟する頃には契約が終了してしまうため、被害者への支援が難しいという。Bさんは「被害映像の削除は技術だけでできるものではない。一つの事件をずっと担当してきた人によって削除ノウハウが蓄積される。しかし数カ月で人が入れ替わってしまうと引継ぎも容易ではない」と語った。

キム・ミヒャン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
http://www.hani.co.kr/arti/society/women/986821.html韓国語原文入力:2021-03-15 16:18
訳D.K

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