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ハンギョレ記者が共にした「テレグラム性搾取事件」被害者、苦痛の1年

登録:2020-11-24 08:48 修正:2022-05-24 10:17
テレグラムn番部屋事件報道から1年 
 
「ハンギョレ21」デジタル性犯罪アーカイブ開設 
オ・ヨンソ記者が被害者の苦痛を見守った1年
//ハンギョレ新聞社

 10月22日の一審求刑を前に法廷に立ったチョ・ジュビンはこう述べた。「悪人の人生にピリオドを打つ」。 削除ボタンを1回押すだけでアクセス記録まで消せるメッセージアプリのテレグラムの世界のように、一気にすべてを終わらせることができると思ったのだろうか。私はその反対側、チョ・ジュビンそして「博士ルーム事件」から逃れようとする被害者のそばで1年を過ごした。彼らはいまも簡単には終止符を打てない苦しみの中にいる。

 2019年11月、企画報道「テレグラムに広がる性搾取」で取材し、記事を書く過程で初めて被害者に会った。記事を見てまた何人かの被害者が連絡してきた。警察への通報を支援し、テレグラム性搾取共同対策委員会のような被害者支援団体を紹介した。できることは多くはなかった。ただそばにいた。Aさんもそのような被害者の一人だ。

 チョ・ジュビンが法廷で「ピリオドを打つ」と述べる数日前、Aさんから電話がかかってきた。不安のこもった疑問を投げかけてきた。「なぜチョ・ジュビンに死刑を求刑できないんですか。もし模範囚として釈放されたらどうしたらいい?」。Aさんは本当に言いたかったことを続けた。「まだ被害届も出せず、厳罰嘆願書を出すのも怖がっている被害者が多いと聞きました。当然です。だから私が先に声を上げたいんです」。Aさんはいつしか、自分の苦痛を握りしめて世の中を変えなければならないという義務感のようなもの背負うようになっていた。「たくさんの被害者がまだ苦しみのうちにいるのを、世間が知らないまま事件が終結してはならないから」

 1年前、取材を始めた頃に感じた衝撃を思い出した。被害者と電話で話したその夜、博士ルームにその被害者の性搾取物がリアルタイムで上がってくるのを見た。被害者の住所、連絡先といった個人情報が、多くの加害者に公開された。チャット画面を繰っていた指が止まった。吐き気と罪悪感が襲ってきた。被害者たちの経験した苦痛の100分の1にもなろうか。企画報道が出たが、「博士」は突き止められなかった。簡単には捕まえられそうになかった。国外協力がうまくいかず、証拠が足りないという理由で、デジタル性犯罪の捜査はうまくいかないことが多かった。辛うじて加害者が捕まっても軽い処罰にとどまった。何より「博士」はどんな加害者より悪辣で隠密なやり方で罪を犯していた。被害者が「インタビューなんて余計なことをしてしまった」と後悔しないか心配だった。

 加害者は依然として大手を振って歩いていた。ハンギョレのテレグラム情報提供アカウントには、「自分のルームも紹介してくれ」という別の加害者からのメッセージ、しまいには「ちょっと話し合おう」という「博士」のからかいのメッセージが送られてきた。ハンギョレがテレグラムの性搾取ルームを宣伝したようなものではないかと思うと苦痛に苛まれた。取材を続けながら、何度も「博士」が捕まる夢を見た。周りの勧めで心理相談を受けた。「取材から外れなさい」というカウンセラーの言葉で、性搾取ルームのモニタリングを止めた。

 記事を書いて4カ月経った2020年3月、「博士」が逮捕された。チョ・ジュビンという名の24歳の男性。逮捕のニュースを聞き、被害者に電話した。Aさんの反応は意外だった。「『いっそ捕まらなければよかったのに』と思った」と言った。Aさんはチョ・ジュビンについてのニュースを見るたびに、手が震え心拍数が激しく上がると話した。また、あの時のことを思い出すからだ。

 再び時は流れた。チョ・ジュビンが逮捕され、世の中は少しずつ変わった。性犯罪者としては初めて、捜査段階でチョ・ジュビンをはじめ6人の身元が公開された。デジタル性犯罪の法定刑を上げる内容を取り入れた「n番部屋防止法」が国会で成立した。こうしたニュースを被害者たちに伝え、「すべては勇気を出してくれたおかげ」だと話した。しかし、被害者たちはいまだにソーシャルメディアで再流布される性搾取物を一つ一つ自ら削除している。削除のスピードは流布のスピードに追いついていない。

 昨年夏、もう一人の被害者のBさんと夕食を共にした。別れるや否や「私がいなくても元気で過ごして」というカカオトークのメッセージが送られてきた。Bさんに電話をかけた。「全部うまくいく」という言葉ばかりを繰り返すしかない現実が絶望的で、一緒に泣きじゃくった。Bさんは自傷行為をし、「またちゃんと生きる」と決心する、ということを繰り返した。永遠にこの残酷な時間から抜け出せないような不安、チョ・ジュビンが社会に復帰して自分に危害を加えるかも知れないという恐怖がBさんを苦しめた。Bさんには経済的な問題もあった。博士ルームに住所が公開され、オフラインの脅迫すら受けた被害者たちにとって、最も緊急な支援は安全な家だったが、Bさんには家を借りる保証金がなかった。Bさんは考試院(簡易宿所)と友達の家を転々とした。

 被害者はいまも、この事件を「特別で猟奇的な怪談」程度に思っている視線にも傷ついている。被害者の職業を前面に掲げたメディア報道、被害者の年齢や刺激的な犯罪事実を具体的に並べ立てた記事やソーシャルメディアの文章を見て、被害者たちは「まるで別のチョ・ジュビンたちに締め付けられているようだ」と話した。

 終結させることは、チョ・ジュビンが言ったように簡単ではない。加害者に対する重い処罰がなされなければならず、被害者が恐れずに被害を述べ、日常を回復できるように世の中の認識が変わらなければならない。私は希望を手放さない。この1年間、被害者たちは生きる意志を捨てる一歩手前まで行き、また頑張って生きるという意志を新たにし、人を極度に警戒しながらも、また別の被害者のために勇気をもって声を上げてきたではないか。

 この記事を読む被害者たちには、今目の前にあるつらさのためにすべてが終わったと思わないでほしいと思う。いつでも気持ちを持ち直すことはできると、絶望的な今日とは違う明日があると思ってほしい。そのように被害者の苦痛が止んで終わる瞬間、初めてテレグラム搾取事件は終結する。私たちの怒りと連帯は、その時まで冷めてはならない。

オ・ヨンソ記者 loveletter@hani.co.kr

「博士部屋」や「n番部屋」(部屋とは、メッセージアプリでグループで対話するチャットルームのこと)などテレグラムに広がる性搾取の世界(ハンギョレ2019年11月25日付)を暴いてから1年、「ハンギョレ21」は11月23日、これまでに明らかになっているデジタル性犯罪の世界をまとめ、今後の記録を保存する「デジタル性犯罪終結プロジェクト『ノモn』(nを越えて)」というアーカイブ(stopn.hani.co.kr)を開設する。「n件の犯罪」(加害者組織図)、「n回の誤判」(デジタル性犯罪判決文の分析)、「n人の追跡」(連帯の歴史)、「n番部屋の向こう側のn」(性教育資料)、そして記録(記事集)がアーカイブされている。「加害者のn」が「連帯のn」に変わる過程が一目でわかるようになっている。

http://www.hani.co.kr/arti/society/women/971023.html韓国語原文入力:2020-11-23 10:28
訳C.M

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