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パク前ソウル市長事件、崩れた「セクハラ対応原則」…信頼取り戻す道は

登録:2021-01-26 10:02 修正:2021-01-26 12:58
ご機嫌取り労働・指針の無力化…ソウル前市長事件が残した課題 
加害者の地位によって変わる性暴力対応の原則 
被害者保護・真相究明の原則に従うという信頼を取り戻さねば
昨年7月15日、ソウルのある大学の図書館前にパク・ウォンスン前ソウル市長のセクハラ疑惑の真相究明を求めるポスターが貼られた=キム・ヘユン記者//ハンギョレ新聞社

 「故パク・ウォンスン前ソウル市長が業務に関して被害者に行った性的言動は『国家人権委員会法』によるセクハラに当たると判断し、ソウル市など関係機関に対する被害者保護および再発防止のための改善勧告を決定した」

 25日、国家人権委員会(人権委)が発表した、昨年7月末から進めてきた職権調査の結果だ。被害者が国家機関から「セクハラがあった」という判断を受けるまで、韓国社会は数多くの葛藤と混乱を費用として支払わなければならなかった。女性秘書に押しつけられた「ご機嫌取り労働」は結局、自治体首長のセクハラで返ってきた。設けられた対応指針は作動せず、被害者は「被害者」として規定すらされないまま「2次被害」の中に追い込まれた。「パク前市長事件」のような権力型性犯罪が繰り返されないよう、韓国社会に残された課題とは何かを見つめなければならない理由がここにある。

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女性秘書に押しつけられる「ご機嫌取り労働」…セクハラに脆弱な構造が明らかに

 被害者の職務配置と業務は、男性上級者の「ご機嫌取り労働」を女性下級者に任せる性差別的な組織文化を如実に表わしている。特にソウル市内部では、市長室秘書室の選抜が暗黙的に性差別的な認識に偏ってなされていたことが分かった。人権委は、このような職務配置は「秘書の職務は若い女性に適しているという固定観念… 他人の世話をするケア労働・感情労働は女性に適しているという認識と慣行が反映された結果」と指摘した。

 「通常、市長室の女性秘書は整った外見に未婚で経歴が浅い若い女性公務員が担当した…誰が見ても若い女性たちがムードを盛り上げる事務室の『花』の役割を担うことを期待する構造であることは否めない。業務処理を中心に考えれば納得しがたい人員配置が、故パク・ウォンスン市長の在任期間中続いた。もちろん、それ以前から始まっていたからだ」(ソウル市長威力性暴力事件共同行動発足記者会見で代読されたソウル市公務員の発言)

 ソウル市はこのように選抜された市長室秘書に、市長に対する「機嫌の補佐」「感情の世話」を要求した。ソウル市長室で1年ほど勤務した元ソウル市職員はハンギョレの取材に対し「市長が疲れている時は市長をなだめ応援するのが彼女たち(女性秘書)の役割だった」「市長にどれだけ優しく接することができるかが暗黙的に『秘書』という職務に対する力量評価基準として働いた」と証言した。

22日午前、ソウル中区のある記者会見場で行われた「ソウル市長による威力性暴力事件第2回記者会見で、法務法人「オン-セサン」のキム・ジェリョン代表弁護士が発言している/聯合ニュース

 上司の「機嫌」を業務対象とする労働は結局、職務の境界を越える私的労務、ひいてはセクハラにつながった。被害者は市長がマラソンをしたり就寝時に脱いでおいた下着を片付け、市長が使ったティッシュや歯間ブラシ、デンタルフロスなどを片付ける仕事をした。パク前市長は被害者が秘書室に勤務して1年が過ぎてから「下品な携帯メッセージ、下着姿の写真、『においを嗅ぎたい』『写真を送って』などのメッセージ」(ソウル中央地裁判決)を送り始めた。被害者は人事異動を希望し続けたが、4年間受け入れられなかった。

 韓国性暴力相談所のキム・ヘジョン副所長は「上司の機嫌を伺うことが最も重要な業務対象になると、上司が不当な行動をしたとき、自分のラインでこれを避けたり制止したりすることが業務上禁止された行動になってしまう」と指摘する。女性下級者が上司の機嫌を伺う組織文化は、必然的に女性下級者をセクハラに脆弱な位置に置くことになるということだ。

 人権委はソウル市に「性役割の固定観念に基づいた秘書室業務慣行の改善」を求めた。ソウル市セクハラ・性差別根絶特別対策委は、先月10日に発表した対策で、ソウル市長秘書室の職員も一般職員と同様に希望転補の手続きを通じて選抜し、公的業務から外れる私的労務指示は原則的に制限すると明らかにした。

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「自治体首長」の前で無力化した性暴力対応指針

 パク前市長事件で最も痛い点は、性暴力被害者が対応指針に従って受けるべき最小限の保護措置が事件初期から破られていたという点だ。特にソウル市と政府与党などが被害者を「被害者」と規定せず、パク前市長の死亡で真相究明が不要になったという態度を取ったのは、広範囲な「2次加害」を容認する効果を生んだ。

 「被害者規定」は、捜査や調査を通じて真相究明が行われるまで告訴人や通報人を守る最小限の防御膜の役割を果たす。韓国性暴力相談所のキム・ヘジョン副所長は「専門性を持った機関の調査が終わるまでは通報人を『被害者』とみなして保護しなければならないという“ルール”が守られてこそ、権力関係で弱者の位置にいる被害者が辛うじて保護される。しかし、与党やソウル市などが『被害者』という位置自体を否定し、2次加害が統制から外れ始めた」と指摘した。

 ソウル市はパク市長の死亡6日後の昨年7月15日、外部の専門家が参加する官民合同調査団を構成する計画を明らかにしながらも、被害者を「被害を訴えた職員」と呼んだ。ソウル市は2020年4月の秘書室性暴力事件までは「被害者」「加害者」という用語を使っていた。アン・ヒジョン元忠清南道知事、オ・ゴドン前釜山市長の「MeToo」暴露では、事件当初から「被害者」と呼んだ共に民主党も、パク元市長事件の被害者は「被害を訴えた人」または「被害を訴えた女性」と呼んだ。

 2次加害を防ぐための関係者懲戒などの被害者保護措置もまともに行われなかった。女性家族部は7月28~29日の2日間、ソウル市の現場点検を行った後、「最近の事件の被害者に対する具体的な保護支援策は、まだ設けられていないことを確認した」と明らかにした。世論が沸き立った初期の1カ月間、パク前市長と近い政治家や前・現職のソウル市関係者らを中心に、「2次加害」は特別な保護なしに被害者に直接加えられた。

 「対応指針」に規定されたものも、パク前市長事件では守られなかった。「ソウル市セクハラ・性暴力事件処理マニュアル」(2018)では、セクハラ・性暴力の主体を「行為者」、客体を「被害者」と規定している。このマニュアルには、機関長が「被害者保護および2次被害防止のための必要な措置」を取らなければならず、管理者は「公式な結果が出る前であっても被害者保護のための措置」を実施しなければならないという内容が書かれている。

 パク前市長事件は、自治体首長が加害者の場合、上級機関がなく被害事実を届け出る通路がないという問題もあらわにした。人権委は「自治体首長が持つ社会的地位、資源、権力と、被害者との不均衡がひどく、内部セクハラ苦情処理システムを利用した場合、秘密維持がなされない可能性が高い」とし、専門性を備えた外部単位で事件調査を担当する必要があると勧告した。

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加害者の業績・勢力に関わらず原則に従うという信頼を取り戻すには

 「『パク市長はそんなことをするような人ではない』という認識が、通常の性暴力事件への対応ルールを完全に崩してしまう結果となった」

 パク前市長事件を巡り、女性界からはため息が漏れる。性暴力事件の代理経験が多いある弁護士は「パク前市長事件がもたらした深刻な被害の一つは、加害者の政治的地位が高ければ権力型性犯罪被害に対する救済手続きが歪曲されうるという社会的不信を生んだ点」だと指摘した。結局、韓国社会に与えられた課題は、加害者の「社会的業績」や「政治的勢力」とは無関係に、性的暴行事件の対応は法と制度に規定された「被害者保護」と「真相究明」という原則のもと、手続き通り進められるという信頼を取り戻すことだ。「そんな人ではない」などということはあり得ないからだ。

 人権委はこのように結論を下す。「パク市長は9年間ソウル特別市長を務め、次期大統領選候補として名前が挙がる有力な政治家だったが、被害者は下級公務員であり、このような上下関係と性的役割の固定観念に基づいた組織文化の中では、セクハラはいつでも発生する蓋然性があった。本事件も例外ではなかった」

イム・ジェウ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/980351.html韓国語原文入力:2021-01-2607:10
訳C.M

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