本文に移動

バイデン政権、「ブリンケン発言」からうかがえる朝米対話促進の3大ヒントは?

登録:2021-01-22 02:54 修正:2021-01-25 07:09
政治BAR_キル・ユンヒョンのそこが知りたい
21日、ソウル駅で市民がバイデン米大統領就任についてのニュースを見ている/聯合ニュース
//ハンギョレ新聞社

 トランプ政権が残していった激しい混乱と分裂の中で、ジョー・バイデン氏が米国の第46代大統領に就任しました。バイデン大統領は20日午前11時52分(現地時間)、ワシントンの議事堂前に設けられた演壇から世界に向けて、21分にわたる就任のあいさつを読み上げました。

 この日の就任演説でバイデン大統領が訴えたことは、大きく分けて二つです。1つ目は、お互いに対する怒りと憎悪によって引き裂かれた米国社会の対立を癒すという「団結」のメッセージ、2つ目は、トランプ前大統領の「米国第一主義」によって傷ついた主要国をなだめるという「同盟再建」の必要性でした。バイデン大統領は「我々は同盟を回復し、再び世界と関与する。我々は単に力を示すやり方ではなく、模範を示すやり方で(世界を)リードしていく。我々は平和・進歩・安全のための強くて信頼されるパートナーとなる」と約束しました。普段から持論として語ってきた「同盟重視路線」を米国の外交政策の最優先として位置づけ、実践していくという考えを明確にしたものです。

 「朝鮮半島の恒久的平和」を望む韓国人が最も注目する問題は、バイデン政権が今後打ち出すであろう対北朝鮮政策です。残念ながら、バイデン大統領は就任演説で朝鮮半島について特に触れてはいません。バイデン政権がどのような北朝鮮政策を取るのかヒントを得るには、新国務長官に指名されたアントニー・ブリンケン氏の、19日の上院外交委員会の人事承認公聴会での言及を見なければなりません。その日午後2時から行われた人事承認公聴会では、北朝鮮の核問題に関する質問が出はしました。しかし、米国の対中政策や対中東政策など、他の懸案に押され、深い議論が行われることはありませんでした。北朝鮮核問題について質問したのはエド・マーキー上院議員(民主党)ただ一人で、問答が交わされた時間は、4時間にわたる同公聴会のうちの3~4分にすぎませんでした。

バイデン政権の国務長官に指名されたトニー・ブリンケン氏が19日(現地時間)、上院外交委員会人事承認公聴会に出席し、議員の質問に答えている/AP・聯合ニュース

 では、ブリンケン氏の発言内容を具体的に見てみましょう。

 まず、マーキー議員はブリンケン氏に、北朝鮮の非核化という最終目標のために、北朝鮮の(核)兵器プログラムの「検証された凍結」と「制裁緩和」を交換する「段階的合意」という考えを支持するのかを問います。マーキー議員が言及した「検証された凍結」とは何かを正確に定義するには、韓米そして朝米の間で長い討論が必要です。そして厳しかったこれまでの北朝鮮核協議の歴史を考えると、この言葉を定義する段階で会談は決裂するかもしれません。ひとまず、ここではこの難題についての論議は飛ばして、ブリンケン氏の回答を聞いてみることにします。ブリンケン氏は即答を避け、次のような原則論を述べます。

 私は、米国が北朝鮮に対して取ってきたあらゆるアプローチと政策を再検討(review)すべきだと考えており、再検討する考えだ。なぜなら、これは多くの政権を苦しめた難問であり、この問題は改善されていないだけでなく、実際にいっそう悪くなっている。私は、この問題は始めるのが難しいということを認めるところから始めるつもりだ。だから、我々がやろうとしており、また喜ばしいと思うことは、我々にはどんなオプションがあるのか、そしてそれが北朝鮮を交渉のテーブルにつかせるという点から圧力を強化することが効率的なのか、あるいは他の外交的アプローチも可能なのか、再検討して協議しうるということだ。我々の同盟とパートナーたち、特に韓国、日本、その他の国々とあらゆる方策を検討するところから始めるつもりだ。

 この発言から我々が得られる教訓は3つです。

 1つ目、政権に就いたばかりのバイデン政権にとって、北朝鮮の核問題の解決は最優先の懸案ではありません。バイデン政権は、将来の覇権をめぐって対立している中国をいかに相手にすべきかという難題に対処しなければなりません。バイデン政権の主な人物たちは、トランプ政権が進めてきた「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」の大枠を継承しつつも、中国の助けが必要な新型コロナウイルスや気候変動への対応といったグローバルな課題については協力する、という立場を明らかにしてきました。その次には、バイデン大統領が副大統領時代に直接かかわった「イラン核合意」などの中東政策を新たに構築せねばなりません。バイデン政権にとって前任のトランプ政権が一方的に破棄した「イラン核合意」は復活させるべき重要な遺産ですが、トランプ政権がそれなりに成果を収めた北朝鮮の核問題は、わずらわしい厄介者に過ぎません。韓国政府はこの点に留意しつつ、北朝鮮の核問題が米国の最優先の外交課題となるよう、戦略的に意思疎通を強化しなければなりません。

 2つ目、ブリンケン氏は、北朝鮮の核に対する政策を樹立する過程で韓国と協議することを明らかにしています。もう1つの肯定的な言及は、北朝鮮が対話に応じるように「圧力を強化」する強硬策だけでなく、別の外交的選択肢があるのかも検討すると述べていることです。これ関して文在寅(ムン・ジェイン)大統領は18日の年頭記者会見において、トランプ政権が残した2018年6月12日の「シンガポール合意」を朝米対話の出発点としてほしいとの意見を明らかにしています。バイデン政権がこれをそのまま受け入れる可能性は高くなさそうですが、韓国と協議すると言ったからには、韓国政府の主張を真剣に傾聴するでしょう。今後、次期外交部長官に指名されたチョン・ウィヨン氏、ソ・フン大統領府国家安保室長らが、対話相手のブリンケン氏やジェイク・サリバン国家安保担当大統領補佐官と、どれほど生産的な意思疎通をしていくのか、注目しなければなりません。

外交通商部長官に内定したチョン・ウィヨン氏が21日午前、鍾路区の都染ビルディングの事務所に出勤し、記者団の質問に答えている/聯合ニュース

 3つ目、ブリンケン氏は、対北朝鮮政策を確定するうえで、韓国だけでなく日本とも協議することを明らかにしています。2018年初めに始まった第1期「朝鮮半島平和プロセス」は、2019年2月28日の「ハノイ・ノーディール」により事実上止まってしまいました。この過程で「ジャパン・パッシング」を恐れた日本が非常に否定的な役割をしてきたことは、ジョン・ボルトン元国家安保担当大統領補佐官の『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』などを通じて、すでに詳細に公開されています。安倍晋三前首相は、一日中ゴルフを共にプレーするなど、随時トランプ大統領と意思疎通を図り、「北朝鮮に中途半端な譲歩をしてはならない」という意見を注入し続けました。日本がこうした姿勢を示したのは、北朝鮮に対する和解が困難な韓日の「戦略的な見解の違い」のためですが、この時期に両国関係が史上最悪のレベルにまで悪化し、両国にとって虚心坦懐な意思疎通の機会がなかったことも大きく作用しています。韓国が「朝鮮半島平和プロセス」を再稼動しようといくら熱心に米国を説得しても、日本が強く反対すれば、米国も簡単には決心しにくいのです。インド太平洋地域で米国の第一の同盟相手は誰が何と言おうと日本であり、韓国はそれに次ぐ第二の同盟相手です。南北関係を改善するとともに朝米対話を促進し、朝鮮半島に恒久的な平和を作りだすには、米国だけでなく日本を包摂せねばなりません。さらには中国とも緊密に協力しなければなりません。

 これらの点をよく見ると、バイデン政権の対北朝鮮アプローチはトランプ式の二国間対話を通じた「トップダウン」ではなく、韓中日などの関連国とも積極的に協力する「ボトムアップ」方式の多国間対話ではないかと予測できます。任期終了を1年4カ月後に控えた文在寅政権は、この難しい高次元方程式を解くことができるでしょうか。展望は明るいとは言えないでしょうが、可能なあらゆる手段を総動員して最善を尽くさねばなりません。

キル・ユンヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/979786.html韓国語原文入力:2021-01-21 14:57
訳D.K

関連記事