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[ルポ]氷点下16度、ビニールハウス暮らしで働く移住労働者の「遠い春」=韓国

登録:2021-01-12 09:13 修正:2021-01-12 11:51
現場で|移住労働者と過ごした一夜 

すきまから冷たい風が吹き込み 
ボイラーをつけても微かに温かいだけ 
8~10時間働いても最低賃金未満 
寮費も説明なく差し引かれるのが常 
雇用許可制のために転職も難しく 
宿舎を全数調査するというが…「春はまだ遠い」
Aさんが携帯電話の通訳アプリを通じて語った内容。「寒くても我慢する」と書いてある=チョン・グァンジュン記者//ハンギョレ新聞社

 すきま風がビニールハウスと一重窓、窓に貼られている新聞紙を順に貫いて絶えず吹き込んでいる。寒波がピークに達した今月8日、東南アジア出身の移住労働者Aさんの9.9平方メートル(3坪)の部屋には冷気が漂っていた。ボイラーもヒーターも、氷点下16度・体感温度氷点下22度の中、しぶとく浸透してくる冷気を完全に防ぐことはできなかった。別の移住労働者のBさんが「ボイラーが故障したようだ」と言った。床からの冷気を防ぐために三重に敷かれた敷布団の下に手を入れてみると、かすかな温もりが感じられた。幸いボイラーは故障していなかった。しかし、体は温度計の水銀柱が指す13℃という数字になかなか適応できなかった。

 最近、ある移住労働者がビニールハウスの宿舎で死亡しているのが発見された後、雇用労働部が発表した実態調査によると、移住労働者の69.6%がコンテナ、ビニールハウスなどの仮設施設で暮らしながら働いている。彼らが暑さと厳しい寒さに耐えて育てた農作物が私たちの食卓に上る。すでに久しい話だが、あまり知られていない現実だ。毎日「家でない場所」で寝泊りしながらきつい労働をする人たちの心情はいかなるものだろうか。彼らの気持ちを少しでも理解するために、8~9日、京畿道北部のある農場のビニールハウスを訪ねて夜を過ごした。

Aさんが過ごす京畿道北部のある農場のビニールハウスの天井。氷点下16度の寒波のためビニールハウスが凍っている=チョン・グァンジュン記者

 8日夜7時ごろに会ったAさんの頬は赤黒くほてっていた。厚めの服を重ね着したBさんとCさんの顔も同様だった。外で凍りついた水タンクを溶かしてきたところだった。宿舎に帰ってもすぐには体は温まらない。ビニールハウスの下には15センチ余りのすきまがあり、冷たい風がびゅうびゅう吹きこむ。浴室のお湯はなかなか出てこない。同僚みんながシャワーを浴びるまでかなり待たなければならない。

 先月20日、ビニールハウスの宿舎で死亡した移住労働者の名前を出すと、低いため息がもれた。「どう思うか」という質問に、比較的韓国語を話せるBさんが答えた。「寝る時は寒いです…。それでもここは他の農場よりはまし。社長は良くも悪くもなく、普通です」。「普通」の基準は何だろうか。「社長」は彼らに部屋とガスだけを提供した。「布団は買ってくれなかったのか」という質問に、移住労働者たちは笑う。「布団や電気カーペット、ヒーターはすべて私たちが買ったもの。でも社長は電気がもったいないと言います」

 夜10時ごろ、移住労働者らが寝床を整えながら布団2枚を用意してくれた。通訳アプリでAさんに話しかけた。韓国でつらい時間を耐える理由を尋ねた。「貧しいから」。2019年に韓国に来た後、母国にいた彼の父親が亡くなった。「私が(家族の中で)お金を一番たくさん稼ぐんです」。Aさんは故国の家族に月給165万ウォン(約15万7000円)のうち120万ウォン(約11万4000円)を送る。食材費20万ウォンと健康保険料(地域加入)13万2千ウォンを差し引けば、Aさんの手元に残るのは10万ウォンちょっとだ。たまに市内に出てUFOキャッチャーをするのが彼の趣味だ。寝具の隣に置かれているポケットモンスターや熊のぬいぐるみ4、5個が目に入った。

 冬は1日8時間、夏は10時間ほど働くが、Aさんの給料は常に最低賃金に及ばない165万ウォンだ。Aさんは社長が「寮費」を月給から差し引くからだと推察する。抱川(ポチョン)移住労働者相談センター代表のキム・ダルソン平安教会牧師は「京畿道地域の農場は、普通月に20万~25万ウォン(約1万9000~2万4000円)を寮費として取る。いくらなのか知らせず、月給から差し引いて払うことも多い」と話した。

 Aさんはここを離れることも考えてみた。しかし「雇用許可制」が彼の足を引っ張った。使用者の承認があるか、賃金未払いなど労働基準法違反行為がなければ事業所は移れない。移ろうとして未登録状態に転落すれば、家族に送金することができない。

Aさんが携帯電話の通訳アプリを通じて語った内容。「韓国は、雇用主が労働者のためにより良い空間をつくる法を作ってほしい」とある=チョン・グァンジュン記者//ハンギョレ新聞社

 夜11時、Aさんは電気を消して横になり、「お母さん」にテレビ電話をかけた。毎日家族の顔を見てつらい一日を終える。しかし、Aさんは母親に正直に言えない。通話が終わった後、寒いという話をしたかと聞くと、彼は「(家族は)知らない」と短く答えた。通訳アプリに「家族の元へ無事に帰って自動車整備所を開きたい」という内容が表示された。「(亡くなった)父の病院費の借金のためにお金を貯められなかった」という文章が続いて表れた。Aさんはいつの間にかいびきをかき始めた。

 記者は午前1時と午前3時の2回、目が覚めた。ビニールハウスを引き裂くように吹きすさぶ風と、Aさんのいびきの音がひときわ大きく聞こえた。Aさんと同僚たちは早起きして農作物のサンチュを摘みに出なければならない。

 最近、雇用労働部はビニールハウスの宿舎を提供した場合、雇用許可を出さないという対策を出しており、京畿道は農漁村地域の移住労働者の宿舎の全数調査に入る方針だ。しかし、Aさんと同僚たちにとって、春はまだまだ遠い。

チョン・グァンジュン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/978336.html韓国語原文入力:2021-01-1207:17
訳C.M

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