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「補欠市長選まで100日」韓国、女性の自治体長0人…今回「ジェンダー選挙」なるか

登録:2020-12-28 10:41 修正:2021-01-01 09:05

 来年4月7日に予定されているソウル市・釜山市の市長補欠選挙が、12月28日でちょうど100日後に迫る。次期大統領選挙を11カ月後に控えて行われる今回の補欠選挙は、今後の大統領選までの世論の大きな流れを見るバロメーターとして考えられる。特に関心が集まるのは、政権4年目に行われる補欠選挙での「審判論」の方向性と強度だ。

 保守野党は先に行われた2018年の地方選挙と2020年の国会議員総選挙で、“ダブルスタンダード”や所得主導成長など政策の失敗を挙げて文在寅(ムン・ジェイン)政権を審判すると訴えたが、民心は冷ややかだった。しかし、今回は違ったムードが感じられる。何よりも今回の補欠選挙の原因が、与党所属のパク・ウォンスン、オ・ゴドン前市長の権力型性暴力によるという点だ。高騰する家賃やマンション価格も与党内の悪材料となっている。 野党は新型コロナのワクチン問題を機に、政府与党が掲げた「K防疫」の亀裂を狙っている。野党は反転の機会を得点につなげることができるのか。与党は能力と責任を見せる政権勢力として再信任を受けられるのか。

韓国女性政治ネットワークをはじめとする青年・女性団体のメンバーが9月28日午前、ソウル市庁前で開かれたパク・ウォンスン性暴力事件対応に関するソウル市公開質疑書提出記者会見で、ソウル市に提出した公開質疑に明確に答え責任を負うよう求めた=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社

 1995年に韓国で第1回同時地方選挙が実施されて以来、これまで17の広域自治体の中で女性の自治体長は一人もいなかった。今回、男性の自治体長らの性犯罪によって補欠選挙が行われることになり、男性がほぼ独占してきた政治権力構造を変えなければならないという声がいつになく高まっている。与野党いずれも補欠選挙の勝利戦略として「女性候補掲げ」を考えている。「ジェンダー選挙」の場が開かれただけに、ソウルと釜山で初の女性市長が誕生するかにも関心が集まっている。

与党も野党も「ジェンダー選挙」準備戦

 与党出身の2人の元市長の性犯罪によって行われることになる今回の補欠選挙は、野党に“先攻”の場を与えた。次期市長候補者の最も重要な資質として「性認知感受性」を掲げながら、パク前市長の性犯罪の過誤を喚起し続け、「世論の審判」を誘導するという計算だ。

 共に民主党より早く補欠選挙の党内候補選準備委員会を設置し選挙局面に突入した野党「国民の力」は、「性認知感受性」(ジェンダー・センシティビティ)を前面に押し出した厳しい検証計画を発表した。国民の力の候補選準備委は先月12日、権力型性犯罪などの性不正▽脱税▽暴言・パワハラなど候補者の公職適格性全般を厳格に検証する「自己検証書」を提出させるという計画を発表した。

 ハンギョレが同党の候補選準備委から入手した自己検証書によると、「両性平等及び性不正関連」項目に「本人、配偶者または子どもが性売買などの犯罪で調査または捜査を受けたことがありますか」「本人、配偶者または子どもが異性に対する発言や行動などに関し公開的に抗議が提起されるなど問題になったことがありますか」などの11項目がある。国民の力の候補選準備委のパク・スヨン議員はハンギョレの電話取材で「性犯罪に対する候補者の認識とジェンダー感受性検証を優先するという趣旨で関連項目を追加した」と話した。

 共に民主党は今月21日、4月7日の補欠選挙の公職選挙候補者検証委員会を設置した。委員長と副委員長を含めて計9人の検証委のうち、外部委員5人を女性で構成した。女性対象の犯罪である性犯罪や家庭内暴力の場合、起訴猶予を含めた処罰前歴があれば無条件で不適格の判断を下すことにした。国会女性家族委員長を務める民主党のチョン・チュンスク議員は「性暴力問題は実際、権力と代表性の問題だ。女性に機会を与え、女性が権力を握った時、どのように変わるのか可視的に示さなければならない」とし、「女性候補推戴論」も掲げた。しかし、党内の一部では、野党が敷いた「ジェンダー選挙」に引きずられる結果を生む可能性があるとして反発も出ている。

ソウル市長選の女性候補。上列左から民主党のパク・ヨンソン氏、国民の力のナ・ギョンウォン氏、パク・チュンヒ氏、ユン・ヒスク氏、イ・ヘフン氏、チョ・ウンヒ氏、正義党のクォン・スジョン氏、開かれた民主党のキム・ジネ氏、基本所得党のシン・ジヘ氏//ハンギョレ新聞社
釜山市長選の女性候補。民主党のパク・イニョン氏(左)と国民の力のイ・オンジュ氏//ハンギョレ新聞社

初の女性市長、誕生するか

 これまで政治は女性に対して特に狭き門の分野だった。中央選挙管理委員会の資料によると、女性国会議員の割合は、第17代国会の13%から小幅に増え続けているが、第21代国会でも19%にとどまる。地方自治体を見ると、性別の不均衡がいっそう深刻だ。女性の広域自治体首長は0人であるだけでなく、2018年の地方選挙でも女性の基礎自治体首長当選者はたったの3.5%だ。

 このように男性中心的だった政治の舞台で、女性候補たちの出馬が次々とあらわれるのはポジティブな現象だ。審判論を掲げた野党陣営ではそのムードがよりいっそう熱い。ナ・ギョンウォン元議員(当選4回)、イ・ヘフン元議員(当選3回)、二期目の区長であるチョ・ウンヒ瑞草(ソチョ)区長、パク・チュンヒ前松坡(ソンパ)区長、「私は賃借人です」の5分発言で認知度が上がった初当選のユン・ヒスク議員など、女性候補群が豊富に現れている。与党では世論調査で支持率1位のパク・ヨンソン中小ベンチャー企業部長官が挙げられる。正義党ではソウル市議会のクォン・スジョン市議員が出馬の意思を明らかにした。開かれた民主党のキム・ジネ議員も27日に公式に出馬を宣言し、基本所得党のシン・ジヘ代表はすでに予備候補登録を終えた。釜山では二期議員務めた国民の力のイ・オンジュ前議員が出馬を宣言し、民主党所属のパク・イニョン釜山市議長も候補に名前が挙がっている。

 しかし、単純に女性対男性として対抗する性別対決の局面に選挙が流れることは警戒しなければならないという意見もある。性別対決の構図で前任の男性市長らとの差別化を際立たせたに結果、女性候補らは焚き付け役だけに使われ尻つぼみになる可能性もある。前両市長の事件の背景が、自治体首長に莫大な権限が与えられ、これを私有化することが黙認されている構造に依拠しているという点を考慮すれば、女性であれ男性であれ、次期市長はこの権力構造問題を正す意志が検証されなければならないということだ。

 ジェンダー政治研究所のクォン・スヒョン代表は「これまで補欠選挙が行われるようになった原因を見ると、必ずしも性犯罪でなくとも男性の政治家の過ちによる選挙が多かった。これは女性政治家がこれまで政治に介入する程度が低かったためという理由もある。女性が権力を握ったからといってすべてが解決されるわけではない」とし「“性別”そのものより、性犯罪の容疑で終わった市政をどう変えるのか、”ビジョン”を見なければならない」 と話した。またクォン代表は「このような点から見て、両党で単に人気のある女性政治家を後押しする形で話が出るのは適切でない」と指摘した。

 仁荷大学政策大学院のパク・サンビョン招聘教授は「候補者の性認知感受性と、何よりも今の若い女性たちが持つ不安をどのように解消するのかを検証しなければならない」と述べた。

 クォン・スヒョン代表は「男女平等の観点が入った具体的な問題解決策や代案なしに有名な政治家だけを前面に出すなら、問題解決に役立たない。また、(2人の前市長の性犯罪の)状況によって女性の候補が利点を得たと認識されかねない」と述べた。政策と代案なしに「性別」だけを前面に押し出す選挙は「豊富な候補、乏しい結果」に終わる恐れがあるということだ。

オ・ヨンソ、ノ・ヒョヌン、チョン・ファンボン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/assembly/976074.html韓国語原文入力:2020-12-27 21:32
訳C.M

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