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[静かな虐殺を止めよう] 「今年まで生きていよう」…韓国の20代女性の物語

登録:2020-12-05 10:30 修正:2020-12-06 08:08
ゲッティ・イメージバンク//ハンギョレ新聞社
「静かな虐殺を止めよう」//ハンギョレ新聞社

 韓国の20代は、男女共に生きづらい。数年間続いた雇用市場の停滞に、今年は新型コロナウイルス感染症という災害が重なった。このような状況は、20代の女性にとってさらに過酷な結果につながった。統計庁月別雇用動向によると、新型コロナの第1波の影響が大きかった今年3~4月の20代女性就業者は、昨年同期に比べ24万1000人減少した。20代男性就業者の減少幅(9万3000人)の2.6倍にもなった。

 20代女性の自殺率は急増している。20代男性の10万人当たりの自殺数は20.8人(2017年)→21.5人(2018年)→21.6人(2019年)と大きな変化はないが、20代女性の自殺数は11.4人→13.2人→16.6人と2年間で急増している(統計庁)。2020年上半期の20代女性の自殺死亡者は、昨年同期に比べ43%増加した(保健福祉部)。

 特定の年代だけで自殺率が急増しているのは、危機警報でありSOS信号でもある。数字は危機に追い込まれている20代女性を示していたが、社会は注目しなかった。見えない20代女性たちは、社会で静かに居場所を失っていった。ハンギョレは20代女性の声をはっきりと伝える。その声に答えがあるからだ。「静かな虐殺」は、もう止めなければならない。

「負けずにちゃんと生きたい」

 就職活動中の95年生まれのJさんは数カ月前、精神健康医学科でうつ、不安、強迫、無気力いずれも高い数値だという診断を受けた。毎晩処方された薬を飲んで眠りにつく。2週間に一度、病院に行っている。

 「病院では私の不安点数がほぼ満点だと言われました。薬を飲んでも不安なので、薬が役立っているのかどうかよくわかりません」

 先月20日、ソウル麻浦区(マポグ)のあるカフェで会ったJさんは、未来に対する漠然とした気持ちや不安が、学校に所属している時より就職活動生となった今、よりひどくなったと話した。「もともと会社で女性を採用する割合が少ないと聞いてたのに、新型コロナのせいで採用市場が冷え込んで全体の採用人数自体が減ったので、そこで女性のパイはどれくらいだと思いますか。もう私の入る余地はないと思います」

 Jさんは周りの友達にこのような悩みを打ち明けるのも難しい。「書類で落ち続けてもなかなか言えません。友達はみんな就活する20代女性で、自分の悩みだけで十分憂うつな人たちだから」

 現在、Jさんはソウルで一人暮らしをしながら、月110万ウォン(約10万円)前後の事務補助アルバイトをしている。5坪のワンルームに住むのに、毎月の生活費は70万~80万ウォンほどかかる。職場でも頑張って働き、就職活動も一所懸命だが、最近は「あまり希望がない」という気がする。不動産ニュースを見た時や、採用不正のニュースを見た時に特にそう感じる。

 Jさんはうつに負けたくないと言った。病院で治療を受けに行ったのも、乗り越えたかったからだ。「世の中にうんざりしても、私は成功していい暮らしがしたいという欲も同じくらいあるんです。現実はどん底だけど、本当にちゃんと生きたい。ちゃんと暮らせる方法を探すために病院に行ったんです。それでも私、一所懸命生きたいのに…」

「今年まで生きていよう」

 91年生まれのAさんは1年後、3年後のことを考えない。しょっちゅうだめになる計画を立てるのは意味がないからだ。自分に失望する理由になるだけだ。「ひたすら、今月まで生きよう、今年まで生きよう、そう思うんです」

 Aさんは3年前に命を断とうとしたが、思いとどまった。最近再びとてもつらい時、またそんな考えが浮かぶ。両親が自分の名義で借金をしたために常にAさんにつきまとった負債を返済しようと、20代はずっと苦労してきた。昨年やっと借金を清算したものの、いつも生活費に追われている。「1年でも安定した生活費があれば就職の勉強ができるのに…」。最近、収入の良い2カ月のアルバイトを見つけた。所得が200万ウォン(約19万円)得られるチャンスだったので逃せなかった。

 「これがものすごく大きなジレンマです。生活費を稼がなければならないので(より良い職のための)勉強を後回しにして、仕事をしていると勉強をしないようになるし、そうすると安定した職のための勉強はできなくて、また仕事を選ばず働くようになって…この繰り返しです」

 精神健康医学科専門医のアン・ジュヨンさん(マインドマンション院長)は、20代の女性たちと診療室で会う。アン院長はハンギョレの電話取材に対し、現在20代の女性たちの間では「セルフヘルプ」(保健・医療伝達体系で供給者ではなく消費者が主導する形態)になりつつあると話した。

 「いま20代の女性たちは、隣りで友達が辛そうに見えたら『診療を受ける必要がある』とお互いに話し、一緒に病院に行こうと支えてあげます。彼女たちは青少年期に学校でうつ病の検査を受けた最初の世代で、うつ気味なら治療を受けなければならないことを知っている最初の世代です」

 以前の保健室のように、2008年から小・中・高校にはカウンセリング室の「ウィクラス」が設置された。いまの20代はこれを初めて経験した世代だ。「多くの人が病院を訪れるのは、いまの20代が『死なないようにしよう』とセルフヘルプをし合っているから」。それでアン院長の病院には「友達が紹介してくれた」と訪ねてきたり、友達同士や恋人同士で一緒に病院を訪れてくるケースもよくあると語った。また、若い女性たちの間で「どこどこの病院がいいよ」といったうつ病の診療情報が、まるで生活情報のように通用しているのが現実だという。

 このように、20代の女性たちが必要だと感じれば、積極的に精神医学科を訪れるのが彼女たちの強みだとアン院長は診断する。うつ病がある程度回復した後は、社会的環境が重要だ。ところが、女性嫌悪の文化や就職の際にぶつかる性差別的な構造など、20代女性にストレスを与える状況はなかなか改善されていない。

 このような状況の中でも、20代の女性たちは「現実の壁」を打ち破り、乗り越えたいという意志が強い。20代女性の自殺率急増を取り上げた映像「スラップ」には、互いを励まし合うコメントがぎっしりと書かれている。「自分だけがつらいのかと塞いでいた気持ちが和らぐ。こんなに多くの人が一緒に解決策を探しているということが慰めになる。一緒に頑張って生き残ろう」(Aさん)、「最近は一人でいい暮らしをするより、一緒にいい暮らしをしたいという思いが強くなった。女性が幸せで元気に、みんなで幸せに生きたい。死なずに一緒に生き残りたい」(Jさん)。アン院長は、精神的な健康の危機に直面した20代の女性たちには、このような応援がとても必要だと強調した。「孤立したり家庭で支援を受けられない20代女性には、社会的なつながりと歓待が必要です」

キム・ミヒャン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/women/972429.html韓国語原文入力:2020-12-02 19:31
訳C.M

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