16時間20分。ユン・ソクヨル検察総長に対する停職2カ月の処分の停止を命じる裁判所の決定をめぐり、大統領府の公式反応が出るまでにかかった時間だ。前日の“沈黙”に続き、25日に5つの文章に圧縮された立場発表が行われるまでにかかった時間から、大統領府の苦悩がうかがえる。
■「人事権者としてお詫び申し上げる」
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「裁判所の決定を尊重する」だけではなく、国民に謝罪の意も表明した。カン・ミンソク大統領府報道官が同日午後、書面ブリーフィングを通じて伝えた文大統領の発言で特に目を引くのは「不便と混乱を招いたことに対し、人事権者としてお詫び申し上げる」と述べた部分だ。大統領がチュ・ミエ法務部長官とユン・ソクヨル検察総長の人事権者であるにもかかわらず、二人の対立を政治的に解決せず長期間放置し、政局の混乱が大きくなったことに対する責任感を示したものだ。二人の対立に距離を置いていた文大統領は、機会があるごとにチュ長官を間接的に後押しした。ただし、ユン総長に対する法務部検事懲戒委員会が開かれる前の3日になって、懲戒委の「手続き上の正当性と公正性」を強調した。チュ長官が要請したユン総長に対する停職2カ月の処分を裁可し、懲戒手続きを進めたが、裁判所がこの決定を覆したことで、「手続き上の正当性」までも失われてしまった。文大統領が裁可した「ユン総長懲戒」はブーメランとなり、かなりの政治的負担となって返ってきた。
文大統領は二人の対立が続いた7日には「国民に申し訳ない気持ち」と遠まわしに表現したが、今回は国政混乱事態をさらに拡大させてはいけないという懸念からか、「お詫び申し上げる」として、より明確に謝罪の意を示した。
■それでも“検察改革”は進める
しかし、文大統領は謝罪とともに検察改革について言及することも忘れなかった。このすべての目標が「検察改革」のためだという正当性と名分は失わないという意志の表れだ。特に、ユン総長の懲戒がまるで検察改革の本質であるかのように映るのも警戒する意図もあると見られる。文大統領が同日、検察の判事査察問題や過度な検察権に触れ、捜査権改革などを同時に取り上げたのも、そのような背景から出たものと見られる。文大統領はこの日「検察も公正で節制された検察権の行使に対して省察するきっかけになることを期待する」とし、「捜査権の改革などの後続措置を滞りなく進めていかなければならない」と強調した。
ただ、文大統領は前日に裁判所の決定が下された直後、司法府への不満をあらわにした与党とは異なり、「裁判所の決定を尊重する」と述べた。“与党と司法府の対立”で戦線がさらに広がった場合、三権分立を損ねるなどの議論を呼ぶだけでなく、世論に悪影響を及ぼしかねないという懸念が反映されたものとみられる。
■大統領府に“残ったカード”とは
大統領府が謝罪を通じて事態の収拾に乗り出したが、最近、大統領の支持率が40%を切ってから、上昇の契機をつかめず、世論の支持で突破口を見出すのも困難な状況だ。さらに、保守野党は文在寅政権に対する攻勢を強め、任期末の“レームダック”を狙っている。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない状況で、野党がワクチンの接種問題などを集中的に攻略することも大統領府には大きな負担となっている。ユン・ソクヨル総長が職務に復帰した後、現政権を狙ってライム・オプティマス事件や月城(ウォルソン)原発1号機の経済性評価改ざん疑惑など主要捜査に拍車をかけるという見通しも示されている。
大統領府内部では、新型コロナの感染拡大を抑え、国民生活の困難を軽減する支援対策などに集中するとともに、国政の核心課題である検察改革を制度的に完成する過程を見せることで、難局を打開するしかないという意見が多い。来年1月に高位公職者犯罪捜査処(公捜処)を設置し、早ければ来年旧正月前にチュ長官を含めた追加の内閣改造を断行することで、巻き返しを図るものとみられる。これと共に、大統領府秘書陣の再編が同時に進められる可能性も取りざたされている。大統領府関係者は「来年1月から検察と警察の捜査権調整が本格的に施行されるが、まだ検察に残っている直接捜査を完全になくすことが目標」だとし、「いわゆる『検察改革シーズン2』を任期内に完了し、完全な検察改革を成し遂げれば、支持層も結集すると思う」と見通した。
しかし、支持率下落を食い止めるためには、不動産価格の安定化や新型コロナの感染拡大の鎮静化、景気回復など国民の生活分野での進展を同時に進めなければならない。そうでなければ検察改革だけで支持率を回復するのは困難というのが大方の予想だ。来年4月のソウル市長と釜山(プサン)市長の補欠選挙もこれに影響されるものと見られる。