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[記者手帳]カン外相の夫の“マイウェイ”渡航…公職者の家族の社会的責任はどこまで

登録:2020-10-06 09:35 修正:2020-10-06 11:04
「他の人のために譲歩しなければならないのか」 
イ・イルビョン氏の発言、国民感情とは程遠い 
 
「公人の家族も同じ言動が必要?」 
根深い家族主義の問題の指摘も 
「防疫・自由制限」の限界について議論が必要
2017年、大統領府で開かれたカン・ギョンファ外交部長官の任命状授与式に出席したカン長官と夫のイ・イルビョン教授/聯合ニュース

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡散を防ぐため韓国外交部が特別旅行注意報を発令している中、カン・ギョンファ外交部長官の夫のイ・イルビョン延世大学名誉教授がヨットを買いに米国に向かったという事実が伝えられ、物議を醸している。基本権に属する集会と移動の自由すら防疫のために制限されている状況で、「自分の人生を生きるのに他人のために譲歩しなければならないのか」というイ教授の発言は、世論に油を注いだ。

 カン長官はすぐに謝罪したものの、与党内でも「イ教授の行動は不適切だ」とする意見が多数だ。全国民に旅行の自粛を求める省庁の長官の家族が、趣味のために「新型コロナ危険国」である米国へ向かったというのは批判に値する。しかもカン長官は、機会あるごとに市民の自発的な参加に基づいた「K-防疫」の優秀性を積極的に宣伝してきた。

 しかし、今回の論議はただ非難して終わらせるには、指摘すべき部分が少なくない。「自分の人生を他人のために譲歩しなければならないのか」というイ教授の言葉は、韓国社会の平均的な感情とはかけ離れているが、高位公職者の家族に求められる社会的責任はどこまでなのか、改めて考えさせられる。共に民主党のチェ・インホ首席報道担当者は5日、ラジオ番組で「長官の配偶者であり大学の名誉教授として在籍しているので、公人と見ることができる」とし「公人意識を持つべきだと思う。旅行自粛を破ったことは非常に残念だ」と話した。一方、正義党のパク・ウォンソク政策委議長は、親族の結婚のような重要事でも出国を自粛している状況で、イ教授の行動について国民としては批判的にならざるを得ないとしながらも、「イ教授は公人の配偶者にすぎず、公人に要求される言動を同じように要求されるわけではない」と主張した。

 これまで韓国社会では、家族構成員の行動を取り締まり、強制することが高位公職者の当然の義務のように考えられてきた。カン長官が旅行に行ったわけでもないのに、「なぜ夫を止められなかったのか」とカン長官に責任を負わせようとする雰囲気は、「修身斉家 治国平天下」(心身を修め家を整え、国を治め世界を平安にする)に象徴される儒教的公職倫理の遺産だ。今回はカン長官が女性ではあるが、これまでこうした家族主義は政治家の「妻」たちに適用されるケースが多かった。

 「新型コロナは1、2日以内になくなるわけではないのに、毎日家にばかりいることはできず、普通の生活をある程度しなければならない」というイ教授の発言も、悩みを残す。民主党のキム・ナムグク議員はイ教授に対し「個人の逸脱行動」と批判したが、国民の力のイ・ジュンソク元最高委員は、「私たちは防疫の基準を考えなければならない時期に来ている」と反論した。同氏は「一般国民にあまりにも強い基準を設定しておいて、それとは逆の行動をしたためにこのように(議論が起こることに)なったわけで、これからは基準自体を少し調整する必要がある」とし「この方が米国に行って隔離、そして韓国に帰ってきて隔離期間をちゃんと守ったとしたら、防疫の観点からこれが大きな問題になるほどのことなのか」と語った。

 長引くコロナ禍の中で、皆が少しずつ譲歩し節制しながら、共同体を安全に守っている毎日だ。皆が少しずつ疲れてきている今、「防疫の持続可能性」について考え、容認可能な「自由の犠牲」と「譲歩」はどこまでなのか、熾烈な討論を経て社会的合意を形成してはどうか。

イ・ジヘ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/assembly/964526.html韓国語原文入力:2020-10-06 02:46
訳C.M

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