政府は、2021年度の医師国家試験(国試)の実技試験を当初の9月1日から8日に1週間延期することにした。文在寅(ムン・ジェイン)大統領まで出て来て「政府と国会での協議」を約束するなど、医学部の定員拡大や公共医科大学の設立などを巡り医師団体と対立していた政府が一歩引いた格好だ。しかし、交渉のカギを握る大韓専攻医協議会(大専協)が「政策撤回」という当初の主張ばかりを繰り返しており、集団休診の事態が直ちに終わる可能性は高くないように見える。
保健福祉部のキム・ガンリプ次官は31日午後、予定になかった会見を開き、「1日に開始の予定だった医師国家試験を1週間延期することに決めた」とし、「多くの学生の未来が不必要に毀損される副作用を懸念し、今後の病院の診療能力や国民の医療利用にも支障をきたすことがありうるという問題も考慮した」と述べた。国試受験を取り消した医大生や医学専門大学院生が90%近くになると見積もられたが、政府は同日の午前までは、試験の準備をしていた学生の被害を懸念し国家試験を計画通り履行すると明らかにしていた。
会見に先立ち文大統領は、大統領府で開かれた首席・補佐官会議で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況が落ち着いた後、政府が約束した協議体と国会が提案した国会内の協議機構などを通じ、全ての人が共感を表明した医療サービスの地域不均衡の解消、必須医療の強化、公共医療の拡充、医療界が提起する問題まで、共に協議できるだろう」と述べた。これまで医師団体の集団休診を強く批判してきたのに比べると、交渉に力を添えたということだ。これに関連してキム・ガンリプ次官は会見で「国会の保健福祉委員会委員長や医療界の重鎮らに加え、大統領までが約束した協議を信じ、これで専攻医団体が速やかに医療現場に戻ることを要請する」と述べた。
気流が急旋回したのは、大韓医師協会(医協)や大専協との相次ぐ交渉で譲歩を繰り返してきた政府が、さらにもう一度引くことにより、ますます悪化する集団休診事態の“出口”を探ろうとする試みだと見られる。政府の業務開始命令や命令に応じない場合の告発に対応し、「世論総攻勢」を展開している大専協に加勢し、全国専任医非常対策委員会もこの日、「すべての医療政策関連の法案は、医協と大専協が参加する国会内の協議機構で事前協議を行った後に推進し、与野党の合意の下で表決処理をせよ」という要求を出した。ソウル大学病院本院、ポラメ病院、盆唐(プンダン)ソウル大学病院など3カ所では、専攻医895人と専任医247人が団体で辞表提出の行列に参加した。専攻医の集団休診を支持する教授級の医療スタッフの初の団体行動も予告され、ソウル聖母病院の外科教授は9月7日の丸一日、外来診療と手術を中断すると明らかにした。
このように対立の度合いがますます強まり、多くの医学部の学部長や教授など医療界全体の重鎮らが「学生や専攻医の復帰を説得するので、国試を延期してほしい」と政府に要請し、政府がこれを受け入れたというのが大統領府と福祉部の説明だ。医療界の重鎮らはこの日、保険福祉部のパク・ヌンフ長官とチョン・セギュン首相に相次いで会い、事態解決のための意見を述べたりもした。福祉部は大専協と1日に実務協議を進めることにした。
政府が医師団体にボールを再び渡したが、集団休診が直ちに終わるとは見られていない。この日に福祉部が研修機関200カ所中151カ所で集計した資料によると、専攻医の83.9%と専任医の32.6%が診療を拒否した。この日で11日目になる集団休診を行っている専攻医の場合、直前の集計である28日(75.8%)より休診率がさらに高くなった。大専協のパク・ジヒョン非常対策委員長はこの日の政府の国試延期の発表の直後に声明を出し、「医療界と相談なしに一方的に推進した医療政策を撤回し、医協と共に原点から再議論せよ」とし、「政策撤回」と「原点再検討」という既存の主張を繰り返した。
医協も7日から無期限の3次集団休診に入ると意気込んだ。医協のチェ・デジプ会長はこの日フェイスブックに「告発された10人の専攻医全員に対し、弁護士の選任のための準備を全て終えた」とし、「皆さんの医師免許と抵抗できる権利を、必ず守って保護する」と書いた。
医療空白の最大の被害者である韓国白血病患友会や韓国1型糖尿病患友会など6つの患者団体はこの日、大専協に公開書簡を送り、懇談会を提案した。患者団体は「ひとまず医療現場に戻った後で政府と交渉してほしい。患者を人質にとるような集団行動は、誰からも支持を得ることはできないだろう」と批判した。