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新型コロナ再拡散にも…“経済性”の基準で消される地域医療院

登録:2020-06-22 09:52 修正:2020-06-22 17:33
[新型コロナ2次流行に“アラート”、最前線の公共医療緊急診断] 
(2)不安な医療脆弱地 

壁にぶつかった大田医療院 
MERSの悪夢を経て推進したが 
企画財政部、「経済性が低い」と設立にブレーキ 
 
釜山の西部山医療院も難航 
公共医療の収益性は高くなりえないのに、 
政府「金になる病院を作れ」という基準 
 
公共病院は「社会的便益」が先決 
橋の建設事業などとは異なる評価をすべき

全国保健医療産業労働組合の組合員たちが16日午前、ソウル永登浦区の国会議事堂前で記者会見を開き、医師人材の拡大と公共医大設立法の立法を求めている。彼らは医師不足のために看護師が被害を受けており、新型コロナにも十分に対応できない現実を批判した=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社

 大田(テジョン)で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡散傾向が早く進むなか、地域医療体系がまもなく過負荷になるとの懸念が出ている。大田には他の地域とは違って地方医療院がないため、感染病患者の治療のために迅速に投入する病床資源が少ないためだ。大田市は2015年のMERS(中東呼吸器症候群)事態を経て地方医療院の新設を推進してきたが、経済性を追求する企画財政部の予備妥当性調査によって足止めされている。大田市医療院の設立は文在寅(ムン・ジェイン)大統領の大統領選挙の公約であった。

 大田では、21日午前0時までのここ6日間で計36人の確定感染者が出た。今月15日に1カ月ぶりに市中感染が再発生した後、1日に3~7人ずつ患者が増え、20日には1日で10人が陽性判定を受けるなどスピードが速くなっている。最近の集団感染の最初の患者の感染ルートが確認されておらず、地域社会で「静かな伝播」がすでにかなり進行している可能性が提起されている。特に、感染者のうち60歳以上の高齢層が23人(63.8%)だという点で、重症患者が増える懸念も少なくない。

 しかし20日現在、大田で重症患者が発生した場合、すぐに入院できる陰圧病床は3つしか残っていない。計13床の重症患者治療用の陰圧病床はすでに10床が埋まっている状態だ。通常、新規感染者数の5~10%が重症患者であることを考えれば、今のような伝播スピードが維持された場合、大田の重症患者用の陰圧病床は数日内に足りなくなる可能性がある。一般患者用の陰圧病床も42床のうち現在入院可能な病床は13床だけだ。政府が地方医療院がない代わりに国軍大田病院、大田報勲病院など小規模な公共機関を大田地域の感染病専門病院に指定しておいたが、ちゃんとした陰圧病室や感染内科医療スタッフがいるわけではなく、治療よりは隔離施設の性格にとどまる。

 この問題を解決するためには、地方医療院を急いで設立しなければならない。大田市は2015年のMERS事態の際、地方医療院がなかったため対応が困難になり、被害も大きかったという市内外の診断を受け、地方医療院の設立を推進してきた。当時、高齢者疾患専門病院の大青病院と、同じく高齢者患者が多く集まっていた建陽大学病院の2カ所だけで17人の感染者が出た。高危険群が集まっている施設から感染者が多く出たため、病床の資源不足問題がさらに深刻になった。全国の死亡者38人のうち12人が大田から出た。大田市のパク・ヒヨン保健政策課主務官は、「当時、民間病院に患者を受け入れてほしいと頼み、医療スタッフが不足していたため軍医や看護将校も投入して対応したが、被害が大きかった」と語った。

 その後、大田市は東区側の17万8000平方メートルの敷地に300床規模の医療院を2025年に開院する事業計画を樹立し、保健福祉部と協議した後、企画財政部に予備妥当性調査を申請した。予備妥当性調査は、政府の財政を大規模に投入する事業の政策的・経済的妥当性を事前に評価するものだ。しかし、2018年に予備妥当性調査対象事業に選定され、同年5月から調査が始まったが、2年以上結論が出ていない。企財部の依頼を受けて予備妥当性調査を行う韓国開発研究院(KDI)は昨年7月、大田市の地方医療院設立事業の「費用対便益」が1.0を下回り、事業基準値を超えないという暫定調査結果を出した。

 当時、便益推定項目には利用者の移動時間や交通費の節減、応急死亡を減らす便益などが含まれていた。大田市の要求で大田市医療院が担当することになる結核や自殺予防事業も「便益」の試算に追加された。しかし、新型感染症への対応は、「間欠的に発生する」という理由で「社会的便益」項目には反映されなかった。暫定調査結果について大田市と地域の市民社会団体は、「地方医療院の公益的性格をきちんと反映できなかった結果」だとし、経済性をあらためて算定するよう要求している。大田市立病院設立運動本部のウォン・ヨンチョル共同代表は「国民の命と直結した事案を、このように経済性中心の便益だけで計算してはならない」と主張した。

 大田市立病院設立運動本部執行委員長を務めたナ・ベクジュ・ソウル市市民健康局長(元建陽大学予防医学科教授)は、「公共病院の予備妥当性調査の項目が、地域に橋を建設する事業と同じように設定されており、公共病院の公共性の部分が評価に反映されない」とし、「大統領の公約事項だった大田市医療院の設立がもっと早く行われていたなら、COVID-19事態で大きな役割を果たすことができただろう」と指摘した。パク・ヒヨン主務官は「COVID-19患者が少しでも増えれば、地域内の病床資源では手に負えなくなり、MERSのときの悪夢が繰り返されるのではないか」と懸念を示した。

 釜山(プサン)の事情もさほど変わらない。首都圏の次に人口規模の大きい地域だが、地方医療院は1カ所(釜山医療院)しかない。国立中央医療院の資料によると、2018年現在、釜山の全医療機関386カ所のうち、公共医療機関は10カ所にとどまる。公共医療機関の割合は2.6%に過ぎず、全国平均(5.7%)に及ばないだけでなく、全国の市・道のうち蔚山(1.0%)に次ぐ低い水準だ。特に釜山西部圏にある沙上区(ササング)・沙下区(サハグ)には応急医療機関がひとつもない。これを受け、釜山市は西部山医療院の新規設立を推進するために調査を申請し、2018年12月に調査対象事業に選ばれ、評価結果を待っている。元保健所長を務めた医師出身のアン・ビョンソン釜山市健康政策課長は、「公共医療院の特性上、収益性が高くはなりえないのに、(KDI側では)体の大きなゾウを冷蔵庫に入れるような方法を持ってくるように言うのでもどかしい」とし、「公共病院は学校や図書館のように予備妥当性調査免除事業になるべきだ」と語った。

 全国的なCOVID-19の拡散傾向が続き、公共病院の予備妥当性の評価項目を変更するか、最初から予備妥当性調査を免除しようという主張が説得力を得ている。釜山市議会は先月28日、「地方医療院の予備妥当性調査免除」を求める決議案を採択しており、第21代国会には公共病院は予備妥当性調査を免除できるようにする国家財政法改正案が発議されている。保健福祉部のノ・ジョンフン公共医療課長は、「地方医療院は数字では計算できない社会経済的便益があるため、大田市や釜山市と協議し、(予備妥当性調査を通過できるよう)財政当局を説得する」と語った。

チェ・ハヤン、ファン・イェラン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/health/950316.html韓国語原文入力:2020-06-2 02:37
訳C.M

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