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[ルポ]防疫対策は見直したが…凍える手に布手袋だけの“クーパン酷寒センター”

登録:2020-06-08 09:02 修正:2020-06-08 14:12
[クーパン物流センター一日就職現場] 
バスで体温計り、サーモグラフィー機器も 
労働者ら、ひそひそと「変わったみたいだ」 
 
防寒服支給時は「距離置き」の監督はおらず 
マイナス18度に防寒服と使い捨てカイロ、手袋は与えず 
眼鏡が曇るので「あごマスク」するしかない 
 
職員はマスクをつけずに「早く早く」催促 
食事時間を除いては体を温める暇もない
今月4日、京畿道のある物流センターの地下2階に並んで待つクーパン物流センターの労働者の様子//ハンギョレ新聞社

 眼鏡についた氷を削り落とした。目の前が見えるようになったのもつかの間、マスクの間から息が吹き出すたびに、零下の温度のためすぐに眼鏡のレンズに霜が下りた。前を見るためには、レンズが曇らないようマスクをあごまで下ろしたまま働くしかない。「あごマスク」だ。周りを見回すと、眼鏡をかけた人の大半があごマスク姿だった。

 しかし、防疫に対する恐れは後回しだった。外は初夏の気温であることが信じられない冷凍倉庫の寒さのためだ。京畿道のあるクーパン物流センター冷凍チームの日雇い労働者として就職した4日、わずか2時間で凍りついた右手の指先は感覚が消えた。ぎゅっと押さえてみたが、痛みさえ感じられなかった。まつげまで凍ってまばたきをするのも容易ではなかった。顔を上げると、凍えて真っ赤になった耳に使い捨てカイロを当てて運搬用リヤカーを押す同僚が見えた。他の労働者たちと同じく彼の髪の毛も白く染めたように一本一本凍りついていた。「マイナス18.2度」。ロシアの酷寒期を彷彿とさせる冷凍倉庫で、労働者は皆少しずつ凍りついていた。

 先月24日、京畿道富川市(プチョンシ)のクーパン物流センターで労働者の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)集団感染が起きた上、4日後の28日には仁川物流センターの契約職労働者がCOVID-19と関係なく作業中に死亡した事実などが確認されると、クーパン物流センターの労働環境に対する憂慮が大きくなった。一部では、クーパン物流センターの労働実態に対する調査が必要だという主張も出ている。ハンギョレは4日から5日まで、あるクーパン物流センターを訪ね、午後班(午後5時~午前2時)の冷凍チームで働きながら労働環境などを見て回った。

今月4日、京畿道のある物流センターの地下2階に並んで待つクーパン物流センターの労働者の様子//ハンギョレ新聞社

 集団感染問題をめぐり非難の声が上がった後なので、防疫対策は改善されたようだった。4日、物流センターに到着すると、通勤バスに一人の職員が乗り、体温を測り、咳や喉の痛みをそれぞれ書かせた。「今日から変わったみたいだ」。バスに乗った労働者はひそひそ話した。作業前の待機場所ではサーモグラフィーも設置され、「距離置き」のため廊下の床には足跡ステッカーも一定間隔で貼られていた。しかし、首都圏全域からバスに乗ってきた短期労働者が密集しているにもかかわらず、「距離置き」指針は徹底して守られはしなかった。作業前に携帯電話を提出したり、防寒着を受け取るためにぴったり寄り合って立つ彼らに、「距離を置くように」と監督する者はいなかった。

 劣悪な労働環境も防疫に影響を及ぼすものと見られる。冷凍区域外の常温で商品の分類作業をする労働者は2人1組で働くことが多いが、「ロケット配送」(クーパンの自社配送によって早く配達するサービス)に合わせてスピードを上げるため、マスクをあごまで下げて荒い息をしていた。マスクもつけていない職員が頻繁に「早く処理しよう」と叫びながら催促する姿も見えた。ある契約職労働者は「富川物流センターが閉鎖されて、品物がうちのセンターに集中したが、COVID-19が怖いのか志願者が少なくて業務の強度が高くなった状態」と伝えた。

冷凍センターの労働者に支給された共用防寒靴、綿手袋、使い捨てカイロ。マイナス18度の場所で夜通し働くが、耳当ても防寒手袋もない//ハンギョレ新聞社

 防疫対策はそれでもましなほうだ。厳しい労働環境にもかかわらず、安全教育もなく仕事を始めたうえ、マイナス18度の冷凍センターで働く労働者のための防寒対策は限りなく不十分だった。冷凍チームの職員たちのために支給された防寒用品は防寒靴、防寒服と綿手袋、使い捨てカイロだけだった。極寒に最も弱いのは指先だが、厚い手袋、耳当てなどは支給されなかった。こうした事実を知っている契約職員らは自分で用具を用意してきたが、「冷凍センターで働く」という告知を受けなかった日雇い労働者らは寒さに耐えるのに苦労していた。手が冷たすぎて管理者に「厚い手袋はないか」と聞いたところ、「悪いけどない」という返事だけがすまなそうな表情と共に返ってきた。初日、一日中耳を真っ赤にして働き、凍傷にかかると心配していた40代の日雇い職員の“兄さん”は、翌日出勤しなかった。クォン・ドンヒ労務士(「仕事と人」法律事務所)は、「産業安全保健基準に関する規則に基づき、『寒冷』作業を行う場合、防寒服、防寒帽、防寒靴、防寒手袋を支給することになっている。防寒手袋を最初から支給しなかった場合、5年以下の懲役または5千万ウォン以下の罰金に処すことが可能だ」と指摘した。

 食事時間を除いては、しばし体を温める時間もなかった。ある日雇いの同僚は「夜10時までご飯を食べろという指示もないなんて」と不満をもらした。午後5時勤務のためソウルから午後3時30分に出発したので、おなかがすいて当然だった。遅くなって管理職員が駆け込み「食事してくれ」と叫ぶと、5時間も休まず凍りついた労働者10人余りが重い足取りでゆっくりついていった。しばし対話を交わした契約職の同僚は「防寒用品なしに働いて頭痛がして咳がひどくなったから、今日は完全武装して来た」と言い、「ここで働いて手首の痛みがぶり返した」と話した。

 そうして冷凍人間として9時間しのぎ、午前2時になってやっと仕事を終えた。防寒服を返して通勤バスに乗ってソウル駅に着くと、午前3時20分だった。1時間分の時給の1万ウォン(約900円)をはたいてタクシーに乗った。2日前まで丈夫だった体に悪寒が走った。「ウイルス」のせいでなくとも病気になりそうだった。

文・写真 チョン・グァンジュン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/948284.html韓国語原文入力:2020-06-07 21:52
訳C.M

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