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[ニュース分析]日常に入り込んだウイルス…早期診断・病床の拡充、時間との戦い

登録:2020-02-21 06:37 修正:2020-02-21 14:47
市中感染始まる 
 
自覚症状ない初期にも感染力ある 
選別診療所を増やし、速やかな治療が必要 
公共病院の病床、10%にも及ばず、 
混乱防ぐためには、急いで拡充すべき
主な呼吸器感染病の感染・死亡者数の現況(単位:人、カッコ内は致死率)//ハンギョレ新聞社

 韓国で初めてCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)患者が発生してから1カ月が経った。これまで一日一人の割合で増加した患者数は、ほとんどが中国など外国旅行客や彼らと接触した人たちだった。しかし、最近には感染源がはっきりしない「市中感染」が疑われる事例が増え始め、19~20日に大邱(テグ)・慶尚北道地域を中心に70人以上の患者が大量に確認された。これからは日常的な感染が全国的に現れる可能性を念頭に置かなければならない。韓国政府が20日、「地域社会での感染の始まり」を公式化した理由も、このためだ。伝染病に対する恐怖は、ウイルスの正体が不明であるほど高まる。しかし、今はCOVID-19の実体がかなり明らかになった。感染力が強いだけで、危険度はそれほど高くないということだ。市中感染を恐れるよりは、COVID-19の特性に合わせて行動基準を守りながら医療陣と政府の防疫対策に協力し、感染の拡散速度や規模を最小化することが重要だと、専門家たちは指摘する。すでに同様のやり方で感染症を克服した経験もある。2009年の「新型インフルエンザ」がそうだ。当時、韓国国民は徹底した手洗いや咳のマナーなど、衛生管理の習慣を守り、病院は積極的な早期診断や治療に取り組んだ。それから間もなくワクチンが開発され、大規模な被害なく克服することができた。

■早期発見と適切な治療が防御戦略

COVID-19行動基準//ハンギョレ新聞社

 新型感染病中央臨床委員会のオ・ミョンドン委員長(ソウル大学感染内科)は同日、「COVID-19は患者が自覚症状のない初期にもウイルスの排出量が多い」という分析結果を発表した。知らないうちに人にウイルスを広げかねないということで、これは市中感染を防ぐのに最も不利な要素だ。一方、致死率はそれほど高くない。これまで全世界で7万5749人(20日現在)が感染したが、死亡した人は2129人(2.81%)だ。中国以外の国では1050人が感染し、そのうち6人だけが死亡しており、致死率は0.6%にとどまっている。国内では同日まで104人が確認され、1人が死亡した。患者87人の状態も安定的であり、16人は完治して退院した。2015年のMERS(中東呼吸器症殿軍)や2002年のSARS(重度急性呼吸器症侯群)の時より遥かに低い。SARSは全世界的に9.6%、MERSは韓国だけでも21%の致死率を記録した。MERSなどに比べてCOVID-19の致死率が低いといって、安心することはできない。高齢者や他の疾患を持つ人が感染した場合、肺炎など合併症を引き起こすリスクが高い。このため、迅速な診断と早期治療が重要だ。呼吸器症状が現われれば、海外渡航歴の有無とは関係なく、医師の判断を経て検査をしなければならない。今も行われているが、市中感染段階では町の医院などでも検査や適切な治療ができるよう、保健当局のさらなる支援が必要だ。

■COVID-19は新型インフルエンザと違うのか?

 SARSは、韓国国内では公式的な発生患者がいない。2015年、186人が感染したMERSは2018年になって追加の患者が発生した。中東諸国とは異なり、市中感染が発生していないのだ。一時大流行(パンデミック)を引き起こし、恐怖の対象だった新型インフルエンザは今、どうなったのだろうか。新型インフルエンザは2009年、国内だけで74万1千人以上が感染し、263人が命を落とした。全世界的には7億人以上が感染し、そのうち0.02%が死亡した。翌年にも韓国に上陸した新型インフルエンザの名前は「カリフォルニアA型インフルエンザ」に変わっていた。しかし、依然として強い生命力を持っているものの、危険度は著しく下がった季節性インフルエンザとして生き残った。

 COVID-19は人類の前に姿を現して間もない。人間の免疫システムが新しいウイルスに対処するためには、ある程度時間が必要だ。このため、初期には多くの死者が発生すると懸念されていたが、中国以外の地域では危険性はそれほど高くない。これはこのウイルスそのものの特性と見ることもできる。新しいウイルスは初期に高い致死率を示す。これはウイルスにとっては不利な条件だ。増殖が難しくなり、広がらないためだ。したがって、時間が経つほど重症度は低くなり、その代わり感染力が強くなる。徐々に気温が高くなる時期であり、低温で活動性が高くなるCOVID-19の勢いが弱まる可能性がある。

■入院患者などへの感染予防策が求められる

ソウル鍾路区でCOVID-19患者が増えた今月20日午前、ソウル中区の国立中央医療院選別診療所前に設置された現場応急医療所で、救急車で運ばれたCOVID-19の感染の疑いのある患者が検査を受ける準備をしている=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社

 COVID-19の迅速な診断と早期治療のためには、呼吸器症状を持った患者が病院で受診し、検査を受けることが重要だ。しかし、その前に必要なのは、病院にいる医療陣や入院患者の感染を防ぐことだ。病院に独立的に設置された選別診療所を大幅に増やす必要があるのもそのためだ。病院には医療専門家が働いているが、彼らも新たな感染病には対処が不十分である可能性が高い。政府の徹底した支援が求められる。しかし、市中感染段階で感染拡大を防ぎ、被害を減らす最も重要な主体は国民だ。だからといって、日常活動に大きな制約を設ける必要はない。診断者が訪れた場所でも、消毒すれば何の問題もない。些細に見えるかもしれないが、感染を防ぐための手洗いや咳が出る際のマナーの重要性は、さまざまな研究結果からも立証されている。新型インフルエンザが流行した当時、手洗いだけでも30~40%ほどの感染を防ぐことができた。個人衛生基準は自分自身を守るためにも必要だが、感染に弱い高齢者や身体的弱者への感染拡大を防ぐためにも、必ず守らなければならない。

■脆弱な公共医療の強化策作り

 最近、新たな感染病の「5~6年周期説」が話題になっている。実際、ジカウイルス、鳥インフルエンザ、エボラなど、新しいウイルスが絶えず登場し、たとえ南米やアフリカ地域で発生したとしても、過去よりはるかに速い速度で移動して韓国の人々の健康まで脅かしている。国家間の交流や人的移動が急速に増えることを考慮すれば、新しい感染病の出現は早まる可能性がある。COVID-19患者の治療は、これまで同様、ほとんどが公共病院で行われている。COVID-19の感染が地域社会でさらに拡大していけば、治療病床の不足で大きな混乱が起きる可能性もある。すでに大邱(テグ)・慶尚北道地域は治療病床の不足事態が現実化している。いくつかの公共病院をCOVID-19対応専門病院に活用できるが、これは根本的な解決策ではなく、その病院に入院している患者たちに被害を及ぼす。国内の公共病院の病床数は全体の10%にも及ばない。民間医療が大きな比重を占める米国の20%台よりもはるかに低い。中長期的課題だが、公共病院を拡充し、疫学調査官や検疫人員など、感染病に備えた医療陣を増やさなければならない。

キム・ヤンジュン韓国保健福祉人力開発院教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/health/929091.html韓国語原文入力:2020-02-21 05:00
訳H.J

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