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アカデミー候補ドキュメンタリー『不在の記憶』…セウォル号の記憶が世界の人の記憶に

登録:2020-02-19 09:47 修正:2020-02-19 17:45

韓国初の短編ドキュメンタリー部門ノミネート 
イ・スンジュン監督、帰国報告懇談会 
受賞は逃したものの、海外メディアでは「最高の作品」 
候補作の上映会でも現地の人々から好評 
 
同行した遺族のキム・ミナさん、オ・ヒョンジュさん 
「パーティーに子どもたちを連れて行くのに 
堂々としていなきゃと言って同胞たちが応援… 
マンハッタンでの集会も関心もたれて嬉しい」 
 
イ監督「いま振り返ればすべてが良かった 
海外に知らせるという約束を守れて嬉しい… 
セウォル号の話をたくさんするきっかけになれば」

第92回アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門に『不在の記憶』がノミネートされた。9日、アカデミー授賞式で檀園高の生徒の似顔絵と共にレッドカーペットに上がったキム・ゴヌ君の母キム・ミナさん(右)とチャン・ジュンヒョン君の母オ・ヒョンジュさん=イ・ジョンア記者//ハンギョレ新聞社

 「アカデミー賞は受賞できなかったけれど、良かったと思います。ここまで来られたのも良かったし、『416記録団』とセウォル号家族協議会と一緒に最初からずっと来られたのも良かったし、アカデミー賞候補に上がったことも良かったし、良い反応を得られたことも良かった。今振り返れば、(すべてが)本当に良かったです」

 短編ドキュメンタリー映画『不在の記憶(In the Absence)』のイ・スンジュン監督が18日、ソウル中区(チュング)の韓国言論会館で開かれた「帰国報告記者懇談会」で語った。彼は9日(現地時間)に行なわれた第92回アカデミー賞授賞式に出席してきた。セウォル号惨事を扱った『不在の記憶』は、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』と共に韓国映画で初めてアカデミー短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。受賞こそ逃したものの、世界の人々に存在を知らせることだけでも大きな成果という評価が出ている。

 イ監督は先月26日に米国に渡り、公式行事、上映会、インタビューなどの日程をこなした。短編ドキュメンタリー候補作5本をすべて上映する席で、『不在の記憶』に対する反応が特に良かったという。「上映後、私のところに来て『自分はアカデミー会員だが、『不在の記憶』に投票する』と言った人もいました。ニューヨークタイムズ、ガーディアン、インディワイヤーなど外国メディアでも『不在の記憶』を最高作に挙げる記事が出ました。でも、賞を取ることはできませんでした。それでも多く知られたとことは明らかです。海外に出て広く知らせると言った遺族との約束を守ることができて満足しています」

1日(現地時間)、米国ニューヨークのリンカーンセンターで開かれた『不在の記憶』上映会でポン・ジュノ監督と記念写真を撮った。左からキム・ミナさん、カム・ビョンソクPD、オ・ヒョンジュさん、ポン・ジュノ監督、イ・スンジュン監督=イ・スンジュン監督提供//ハンギョレ新聞社

 授賞式にはプロデューサーのカム・ビョンソク氏をはじめ檀園高校のキム・ゴヌ君の母キム・ミナさん、チャン・ジュンヒョン君の母オ・ヒョンジュさんも出席した。2人の母は檀園高校の生徒たちの名札をつけ、生徒たちの似顔絵を描いたスカーフを広げて持ち、レッドカーペットを歩いた。同日の懇談会に出席したキム・ミナさんは「レッドカーペットの参加はもともと予定になかった。監督とプロデューサーの配偶者の方々まで私たちに譲ってくれて可能になった」と説明した。「普通のスーツを持って行ったら、同胞の方々が『パーティーに子どもたちを連れて行くのに、お母さんたちが堂々として行かなきゃ』と言って、ドレスも貸してくれたり化粧もしてくれました。授賞式会場には母ではなく子どもたちの立場で入りました。そこで有名な俳優を見たことよりも、子どもたちの顔を掲げて写真を撮ったことが一番幸せでした」

 オ・ヒョンジュさんは現地の韓国人の話を伝え、『不在の記憶』が成し遂げた結果を強調した。「私たちが米国で初めて行ったのがニューヨーク上映会でした。現地の同胞たちが来て、たくさん応援してくれました。マンハッタンでセウォル号関連の集会を続けてきた方々が『昨日も集会を開いたが、道行く米国人たちがもっと近付いてきて関心と応援を送ってくれた』と言うんです。『不在の記憶』のおかげだと思って、嬉しかったです」

『不在の記憶』英文ポスター=イ・スンジュン監督提供//ハンギョレ新聞社

 『不在の記憶』は米国のドキュメンタリー制作・配給団体「フィールド・オブ・ビジョン」の提案から始まった。当初、朴槿恵(パク・クネ)大統領弾劾ろうそく集会に関するドキュメンタリーを作ってほしいという要請を受けたイ監督は、セウォル号の話を逆提案した。同僚の独立PD(プロデューサー)らが参加した「416記録団」から数千時間に達する膨大な記録を受けとり、遺族の助けを得て追加撮影を行った。これを事故当日から時系列で再構成し29分に圧縮したドキュメンタリーは、2018年のニューヨークドキュメンタリー映画祭で大賞を受賞したのに続き、アカデミー賞候補にノミネートされた。

 「416記録団」のハン・ギョンスPDは「セウォル号惨事が起きて3日目から撮り始め、行方不明者の捜索が終わった11月まで撮影をした。最初は作品を作ることが目標ではなかった。マスコミに対する不信が高まっている状況で、いま記録しなければ永遠に消えかねない、という心境で記録した。15TBにのぼる膨大な記録をイ監督と家族協議会に渡した。『不在の記憶』のようにセウォル号の真相究明のための作品を作るのにいくらでも使ってほしい」と話した。

9日(現地時間)、米ハリウッドのドルビーシアターで開かれた第92回アカデミー賞授賞式のレッドカーペットに上がった『不在の記憶』のイ・スンジュン監督(左から)、オ・ヒョンジュさん、キム・ミナさん、カム・ビョンソクPD=イ・スンジュン監督提供//ハンギョレ新聞社

 懇談会には4・16セウォル号惨事家族協議会のチャン・フン運営委員長も出席した。「国もマスコミも誰も信じられない時、数人の若い監督が来て撮影すると言いました。既存のマスコミのようにカメラを突きつける代わりに、一緒に痛みを分かち、共感しながら人間的に近づいてきました。私たちの言葉を歪曲せずにありのまま伝えてくれました。今日ばかりは遺族ではなく独立PDの皆さんがスポットライトを浴びるのが当然だと思います。痛みを撮るということはとてもつらく、トラウマも残る仕事ですが、それを受け入れて作品を作ってくれた監督に感謝します。他の人たちもセウォル号を様々な視点で見る作品をたくさん作ってほしいです」

 イ監督は「今日の懇談会の後は『不在の記憶』に対する関心が冷める可能性もあるが、これが始まりであってほしい。この作品を通じて、もう一度セウォル号の話をたくさんしてほしい」と述べた。現在『不在の記憶』はYouTubeで見られるが、映画館で上映する案も話し合われている。彼は「オンラインで見ることと集まって一緒に見ることとでは大きな差がある」とし、「劇場上映は私一人で決められる問題ではないので、プロデューサー、配給会社などと一緒に考える段階」だと伝えた。

ソ・ジョンミン記者westmin@hani.co.kr(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/928722.html韓国語原文入力:2020-02-19 02:35
訳C.M

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