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[インタビュー]「セウォル号」記録映画もアカデミー賞候補に…「辛くても語り続ける」

登録:2020-01-17 06:29 修正:2020-01-17 07:49
『不在の記憶』を作ったイ・スンジュン監督 
 
初めてアカデミー賞短編ドキュメンタリー候補に 
「罪悪感から逃れようと2018年に完成 
外国に広く広めてほしいという遺族との約束果たした 
傷が癒えていないのに、やめるわけにはいかない 
鈍くなったら繰り返される…辛くても語り続けるべき」
セウォル号惨事を取り上げたドキュメンタリー映画『不在の記憶(In the Absence)』でアカデミー賞最優秀短編ドキュメンタリー部門にノミネートされたイ・スンジュン監督=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 イ・スンジュン監督は2014年4月16日の“その日”をはっきり覚えていた。「ドキュメンタリー編集作業の真っ最中でした。しばらくベランダで風にあたりながら携帯電話をいじっていると、突然セウォル号のニュースが流れました。心配しましたが、『全員救助』の速報が出て、胸をなでおろしました。後になって、そうではないことを知ったのです」。15日、ソウル麻浦区(マポグ)のハンギョレ社屋で会ったイ監督が語った。

 多くの同僚たちが珍島(チンド)に向かった。放送や新聞などメディアに対する不信感がピークに達し、独立プロデューサーたちが「私たちが直接記録する」と乗り出したのだ。イ監督にも要請が来たが、断った。ドキュメンタリーの後半作業に追われていたが、それよりも自信がなかったからだ。「ニュースもあまり見ていませんでした。娘が当時、中1でしたが、道端で制服を着た子どもたちを見るだけでも、つらくて仕方がありませんでした。カメラを持って撮る自信がありませんでした」。これは彼にとって深い罪悪感として残った。

 彼はヒューマン・ドキュメンタリー作りに定評がある。障害者カップルの愛を取り上げたドキュメンタリー映画『カタツムリの星』で、2011年「ドキュメンタリーのカンヌ映画祭」と呼ばれるオランダのアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭でグランプリを受賞するなど、世界的に認められた。2016年末、米国のドキュメンタリー製作・配給団体「フィールド・オブ・ビジョン」に、朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾を求めるろうそく集会に関するドキュメンタリーの制作を提案された。彼はカム・ビョンソク・プロデューサーと話し合い、「ろうそく政局につながるセウォル号の話はどうか」と逆提案した。「罪悪感から逃れるチャンスだと思いました」

 真実を暴くより、その日の苦しみに集中することにした。同僚たちが参加した「416記録団」から膨大な現場記録を借り、遺族の協力を得て子どもたちの携帯電話の撮影映像も手に入れた。ダイバーと遺族もインタビューした。淡々と再構成したその日、その苦しみの始まりには「国家の不在」があった。本来の機能を果たせなかった国家が、子どもたちを死に追いやったのだ。29分にまとめたドキュメンタリーに『不在の記憶(In the Absence)』というタイトルをつけたのも、そのためだ。

『不在の記憶(In the Absence)』のポスター//ハンギョレ新聞社

 2018年9月、映画が完成した後、遺族を集めて上映会を開いた。遺族たちは、船を見ることも辛そうだった。途中で出ていく人もいた。映画が終わった後、ある遺族が近づいてきて言った。「監督、外国に行って(セウォル号のことを)広めてください」。イ監督は「そうする」と約束した。2018年11月、米国のニューヨーク・ドキュメンタリー映画祭で大賞を受賞した。米国の雑誌「ニューヨーカー」がYouTubeのアカウントに掲載した映像は240万回以上の再生回数を記録した。「米国の観客に理解してもらえるかどうか、心配しましたが、上映会に行ってみると杞憂でした。船長1人で脱出する場面や大統領府で大統領報告用の映像だけを求める場面では、観客がざわめきます。何が問題なのか分かっているのです。上映後、電気がつくと、皆目が潤んでいました。『私たちにも似たようなことがある』、『他の人にも見せたい』という人もいました」

 ニューヨーク・ドキュメンタリー映画祭の受賞のおかげで、米アカデミー賞審査に自動的に含まれた。結局、13日(現地時間)に第92回アカデミー賞最優秀短編ドキュメンタリー部門候補にノミネートされた。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』とともに韓国映画史上初の快挙だ。「複雑な気持ちでした。嬉しい反面、(悲劇を素材にしただけに)ただ喜ぶべきことなのかという思いがありました。それでも、遺族との約束を果たすことができだと思うと、少し気が楽になりました」

 このニュースを受け、国内でセウォル号への関心が再び高まっている。映画が公開されているYouTubeには「映画を見てから、また辛くなった。今の時代のトラウマ。でも、こんなふうにずっとつらいからこそ、忘れずに覚えていられるのだろう」などのコメントが寄せられた。「もうやめようと言われるのが一番怖いです。まだ傷が癒えていないのに、どうやってやめられますか。(この辛さに)鈍くなってしまうと、繰り返されるしかありません。辛くても語り続けなければならない理由です」

ソ・ジョンミン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/924681.html?_fr=st1韓国語原文入力:2020-01-17 02:30
訳H.J

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