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若者100人のうち「人生で最も大事なものは成功」と答えたのはたった1人

登録:2019-12-12 09:31 修正:2019-12-12 14:25
[もし韓国の若者が100人だったら](4)それでも私たちは生きていく 

各自図生、行く道は険しいが… 
「将来の暮らしは改善の可能性ある」と回答69人 
悲観的な回答は100人のうち5人のみ 
いちばん大事なものは「健康、経済的な安定」 
成功への期待より失敗への恐怖の方が大きい
韓国の若者が考える現在の暮らしと未来//ハンギョレ新聞社

 若者の暗鬱とした現実についての言説は、2007年に発刊されたウ・ソクフンとパク・クォニルの共著『88万ウォン世代』から本格化した。2011年、京郷新聞は若者たちが恋愛と結婚、出産を放棄しているという意味で「3放(ポ)世代」という造語を作った。3放世代はその後、就職とマイホーム購入、人間関係と希望、健康と見た目管理、人生まであきらめるという「10放世代」に進み、しまいには無限大を意味する「n放世代」に拡張した。増え続ける「あきらめなければならないもの」は、逆説的に若者たちがそれらをあきらめないために吐き出す断末魔の悲鳴のようなものだと言える。

 「もし韓国の若者が100人だったら」は、地域と性別、学歴と学閥などに分化されている19~23歳の若者100人がこのような言説について実際にどう考えているのか聞くため、深層インタビューとアンケート調査に取り組んだ。ところが、ちょっと意外ではありつつ、よく考えてみればうなずけるような結果が出た。100人に「人生で最も大事なものは何か」(複数回答)と聞くと、127個のそれぞれ違う回答項目のうち、「健康」(35人)と「経済的安定」(34人)が圧倒的に多く選ばれた。その次に「家庭」が15人と続いた。「自己実現」と「成功」「成長」はそれぞれ1人だけだった。それでも「成就」が10人で、四番目に多かった。

 生活の中で健康と経済的な安定が最も大事だという考えには、成功への期待よりも失敗への恐怖の方が大きいという現実が反映されているものと見られる。家庭がその次に挙がっているのも同じだ。健康と経済的安定、家庭が挙げられたのは、暮らしを支える支柱が社会の医療や福祉支援体系ではなく、自己管理と最小限の経済的環境、そして家庭という空間に限られているという意味だ。それだけ韓国社会が各自図生(各々が生き残る道を探すこと)と自力救済に依存しているということだ。

 にもかかわらず、若者たちはうなだれていなかった。100人の若者に「将来は自分の暮らしが改善される可能性があると思うか」と聞くと、69人が「そう思う」と答えた。「普通」と答えた人は26人で、「改善される可能性がない」と考える人は5人だけだった。大半の若者は、社会が灯す照明のない場所でも、激しく自分の人生の場面を作っていた。ビューティーショップでバイトをする20歳のソン・スギョン(仮名)も、そのような若者のうちの一人だ。ソン・スギョンは将来の暮らしは今よりも良くなると思うかという質問に対し、「非常にそう思う」と答えた。ソン・スギョンは30歳頃にソウルの清潭洞(チョンダムドン)に自分の名前を掲げたメイクアップショップを構えることが夢だ。ソン・スギョンはその夢のために大学の代わりにキャリアを選んだ。「メイク業界は学歴よりキャリアが重要です。4年制より2年制を出た人たちの方が多いのですが、むしろ2年間キャリアを積んだ方がよいと周りのデザイナーの方たちが教えてくれました。(それで)早くから始めることにしたんです」

 彼女は1週間に3日は夕方6時30分から夜10時まで、専門学校でメイクアップを学ぶ。現場実習も行う。週末にはビューティーショップでバイトをする。メイクアップの国家資格と民間で発行するまつ毛エクステンション資格2級を取り、就職の準備もしている。専門学校でもっと学んで実力を認められれば、すぐに就職できるとソン・スギョンは信じている。もちろん、ソン・スギョンは公正な社会が訪れるかどうかは分からないと言った。韓国社会は常に不公正だったが、もっと努力したからといってがらりと変わるとは思わないからだ。だが、自分の未来くらいは変わると信じている。「今の努力と血と汗が、いつかは報われると思います。確信してます」

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「自分の体一つをうまく保てる人生」を夢見る

 忠清南道天安(チョナン)の祥明大学で写真を専攻する22歳のユ・スミンの夢は、フリーランスの写真作家だ。幼い頃、父親のDSLRカメラで写真を撮って興味を持った。ユ・スミンは「成功したい」と言った。しかし、ユ・スミンが語る成功は、韓国社会で一般的に成功だと考えられている「他人の上に君臨する人生」のような大げさな概念ではない。「人生で大事なことはすごくたくさんある。お金も大事だけど、私は自分の名誉が一番大事です。お金と名誉というから大げさなようだけど、大したことじゃないんです。金持ちになることを望むのではなく、自分の体一つをうまく保てたらいいと思います。食べたいものを食べて、買いたいものを買える程度。名誉も同じく、ただ自分の分野で安定した地位を得られれば十分」

 韓信大学に通う21歳のアン・ドヨンも「やりたいことをあきらめなくても良い程度の経済力」を口にした。当初、美大の受験を準備していたアン・ドヨンは、浪人生活を送りながら「就職や学歴のためではなく、自分が本当にやりたいこと」に遅ればせながら気づき始めたという。「哲学を勉強したくなったんです。それで哲学科がある大学の随時選考に全部応募して、いまの大学に合格しました。入ってみると、友達も教授も皆とても良くて満足しています」

 アン・ドヨンは大学生活の満足度を問う質問に、10点満点中9点と回答した。アン・ドヨンは文章を書く仕事がしたい。マスコミ各社への入社準備ももうすぐ始めようと思っている。「ムンソンハムニダ」(文系学科の就職難を皮肉って「文(ムン)科ですみません(チェソンハムニダ)」を略した言葉)の代表とされる哲学科に通うが、それほど心配はしていないようだった。「やりたいことをやるのが楽しい人生なのに、それがすごく難しい。生きるために興味のない仕事をするのは嫌なんです。やりたいことをやりながらお金を稼ぐか、それがダメなら、やりたいことをあきらめない程度の経済力を持つ人生を送るのが一番大事だと思います」

 「もし韓国の若者が100人だったら」で、100人の若者に出会って感じたのは、彼らの多くが「ブロックバスター映画」の主人公のような人生を望んではいないという点だ。彼らはただ自ら熱中できる仕事をすること、そしてその熱中を手放さなくてもいい経済的安定を成功や成就と考えていた。4人の記者が1万キロを行き来しながら彼らに会って帰る列車の中で、こんな思いを交わした。このくらいの人生を夢見る若者たちすらまともに支えられない社会を、果たして社会と言えるのだろうか。彼らを各自図生と自力救済の深い穴に、これ以上放置してはならないのではないか。

キム・ヘユン、キム・ユンジュ、ソ・ヘミ、カン・ジェグ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/920530.html韓国語原文入力:2019-12-12 06:55
訳C.M

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