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[ニュース分析]トランプを真似た安倍の5つの“勘違い”

登録:2019-07-23 10:56 修正:2019-07-25 11:46
文在寅政府をやり込めようとし、激しいグローバル逆風を招く
あるスーパーの売場の外に日本製製品の販売中止を知らせる垂れ幕が貼られている。韓国の中小商人自営業者総連合会は7月15日、日本製品の販売拒否運動を全国に拡大し、品目も100種余りに拡大すると明らかにした/聯合ニュース

 日本の輸出規制が触発した韓日摩擦の熱は一向に冷める気配がない。最も外交的でなければならない日本の外相が、公開の場で韓国政府は無礼だと非難する“無礼さ”を見せるほどだ。今回の事態がいつ、どのように終わるかは断言できない。しかし、両国の退路なき攻防は当分は避けられそうにない。日本は手ぶらで引こうとはしないだろうが、日本の当初の期待どおりに事態が進まないことだけは確かだ。

 大阪の主要20カ国・地域(G20)首脳会議が終わるやいなや輸出規制のカードを切った日本は、この処置が“会心の一撃”になると期待したようだ。景気の鈍化で頭を悩ませている輸出中心の韓国に直撃弾を撃ったからだ。輸出の割合が圧倒的に高い半導体産業に絶対的に必要な材料の供給を閉ざすことで、たやすく韓国政府の譲歩を引き出せるという計算だった。

 日本政府の先制攻撃は迅速かつ鋭利だったが、精巧ではなかった。電撃的な輸出規制の大義名分と理由を説明する最初の段階からガタつきはじめた。日本の主張は矛盾を呼び、韓国の反論で説得力が落ちた。攻撃の大義名分が弱くなるにつれ、指揮部である首相官邸と行動部隊である経済産業省の間でも足並みが乱れた。

 日本政府が右往左往している間に、韓国では不買運動が激しく起きるなど「反日隊伍」が固まり、国際世論は日本に批判的に動き始めた。このような様相の展開は、安倍晋三首相をはじめとする日本首脳部の判断に誤りがあることを示している。安倍首相がどのような“勘違い”で2019年7月の「経済空襲」を断行したのかを考えてみるのは、今回の事態の展望を探るのに役立つ。

1.安倍はトランプではない

 日本の輸出規制は多目的カードだ。参議院選挙用の性格もあるが、気に入らない文在寅(ムン・ジェイン)政府に思い知らせてやるという意図が一番大きい。韓国政府を揺さぶり、その後に日本にとって馬の合う韓国の保守勢力に政権が交代するのに一役買うのならなおさら良い。日本政府の強い反発にもかかわらず朴槿恵(パク・クネ)政府時期に両国が結んだ「日本軍慰安婦合意」は紙切れになった。韓国最高裁(大法院)で勝訴した強制徴用被害者らは、三菱の国内資産の売却に乗り出す構えだ。首脳会議で露骨に冷遇するまでに気分を損ねた安倍首相としては、文在寅(ムン・ジェイン)政府に思い知らせてやりたい気持ちでいっぱいだった。日本政府はこうした状況を「両国の信頼関係が損なわれた」と表現した。

 問題は信頼が損なわれたという政治外交懸案に対し貿易報復という「経済的武器」を使った点だ。強制徴用問題などで信頼が損なわれたと明らかにしておきながら、輸出規制が報復ではないというので、ステップが絡まらずにはおれない。そのため、日本のメディアも日本政府の主張を受け入れられない。

 輸出規制と韓国のホワイト国(輸出手続きを簡素化する安保上の信頼国家)からの除外が「恩恵をなくしただけだから原状復帰にすぎない」という主張も同じ脈絡だ。ナイフで刺したが傷害を負わせたわけではないというようなものだ。その後に打ち出した対北朝鮮輸出管理の不備も、日本側がより深刻であることが明らかになり、ひんしゅくを買わざるを得なかった。

 同じようなやり方で「華為(ファーウェイ)封鎖」に出たドナルド・トランプ米大統領は、貿易報復を公然と騒ぎ立てる。全面的に貿易戦争を繰り広げ、一貫して力で相手を屈服させてきた。しかし、安倍首相はそうではない。彼は大阪でのG20首脳会議でも自由貿易を強調した。トランプの真似をして力を誇示しながらも、苦しい弁解をせざるを得ない。それが安倍氏とトランプの決定的な違いだ。

2.日本は米国ではない

 トランプが国際秩序を曇らせる「ならず者」のように行動できるのは、米国が覇権国だからだ。基軸通貨のドルと先端兵器を両手に持つ米国が好き勝手に振る舞っても、国際社会が制御するのは難しい。米国が第2位の大国である中国をあからさまに圧迫しても、主要国は米国側につく。米国の一方主義は今始まったわけではないが、これを最も攻撃的に活用する大統領がトランプだ。

 日本は米国と「体格のクラス」が違う。経済大国ではあるが超強大国ではない。一時、中国と北東アジア地域の覇権をめぐって対立する様相を見せもしたが、かなり昔の話だ。世界貿易の規範を破ってもびくともしない国は、米国と中国ぐらいだ。日本が貿易報復をカードとして使いづらいのはそのためだ。

 さらに日本は韓国に劣らず、世界経済に占める輸出の割合が大きい国だ。米国のような万年貿易赤字国ではない。米国は最大の輸入国であるため、いつでも報復関税という「実弾」をぶちまけることができる。米国が中国との貿易戦争でも余裕を見せるのはそのためだ。一方、日本は国際社会が例外として認めるほど強い国ではなく、貿易戦争をするほど武器が十分にあるわけでもない。

3.サムスンは華為ではない

 米国と日本の輸出規制の共通点は、主要な技術や材料・部品の供給を遮断し、相手国の主要企業を強打することだ。自国企業にもかなりの損失が避けられない「自害」方式だ。最先端5世代(5G)通信のトップランナーに浮上した華為に対し米国が感じる危機感と不快感は、半導体とディスプレイ市場を掌握したサムスンに対し感じる日本の感情とそれほど変わらない。技術覇権を脅かす競争国を踏みつけたいという欲求が強く働く。

 日本は2000年代初めからデジタル量産技術でリードしたサムスンに家電、半導体、ディスプレイなどで次々と世界1位の座を奪われ、鬱憤をためてきた。1980年代に日本が80%のシェアを誇っていた半導体市場の70%以上を、現在はサムスンとSKハイニックスが占めている。

 しかし、サムスンは華為に比べるとまだ余裕がある状況だ。華為の封鎖には他国の主な企業も参加した。自力開発でなければ封鎖網を突破するのが非常に難しい。このため華為は大きな負担を抱え、チップからOSまで代替技術を独自開発してきた。サムスンは事情が違う。最も影響の大きいエッチングガス(高純度フッ化水素)にしても時間がかかるだけで、日本以外から代替材を調達するのは不可能ではない。

 また、5G通信はいま始まった段階だ。華為が弱みをつかまれたことで5G通信の拡散が遅くなるだけで、すぐに他国の企業と消費者が被害を受ける心配は大きくはない。華為が世界経済で占める割合はサムスンとは比べものにならない。サムスンの生産の支障は直ちに世界市場の不安要素として働く。半導体などの価格が急騰し、世界のITサプライチェーンが連鎖して打撃を受けざるを得ない。サムスンを叩けばそれらも一緒に被害を受ける。サムスンは華為のように“一人ぼっち”ではない。

河野太郎外相が7月19日、東京千代田区の外務省にナム・グァンピョ駐日韓国大使を呼び、韓国最高裁判所の強制徴用賠償判決と関連して日本が要求した「第3国依頼仲裁委員会設置」に韓国が応じていないと抗議している=東京/時事・聯合ニュース

4.計算が違った

 日本の内外で、今回の輸出規制が墓穴を掘る行為だという指摘が出ている。英国の経済週刊誌「エコノミスト」が最新号で、日本の輸出規制は「経済的に近視眼的」であり、無謀な自害行為だと非難したのが代表的だ。先日、ニューヨークタイムズも似たような趣旨の記事を掲載した。国際世論を反映する有力メディアが特に問題視したのは、「トランプモデル」の拡散に対する憂慮だ。世界経済と貿易を政治道具に使う“卑劣な秩序”のことをいう。

 安倍首相は、国際世論戦ですでに敗北した状態だ。日本の輸出規制が公正な世界貿易秩序を害する経済報復という点が事実上公認された。日本政府がそのような負担を抱えて韓日貿易戦争を長引かせるのは容易ではない。

 次は実利的な計算だ。サムスンの被害は一時的な生産支障に過ぎない。サムスンの供給遅延で「ドミノ被害」を被るアップル、アマゾン、グーグルなど世界IT企業の非難は、日本政府に向かうことになる。また、韓国は自然な流れで自国での開発や日本以外の国を通じて材料と部品の調達窓口を確保する。その被害はそのまま日本企業に降りかかる。

 日本の半導体専門家である湯之上隆・微細加工研究所所長は、専門サイトのコラムで「この対韓輸出規制により、日本の多くの企業のビジネスが毀損され、競争力が削がれる」とし、「要するに、日本政府は、墓穴を掘ったのである。もう二度と、日韓の関係は元に戻らないだろう」と警告した。サムスンなど韓国企業が「不安な取引先」である日本に完全に依存することは、もう再びあり得ないということだ。

5.韓国はそれほど甘くない

 日本は韓国に最も打撃が大きな1~3位の化学製品を人質にした。不純物の洗浄剤や感光剤など敏感な工程に使われるこれらの製品の日本産の割合は41.9~84.5%に上る。短期的には致命的な影響が予想される。韓国のホワイト国からの除外は、日本政府が輸出統制の手綱を握り続ける意図と思われる。

 ここまで来れば、適当な対応手段がない上に最低賃金を巡る議論、景気の鈍化などで窮地に追い込まれた文在寅政府がすぐに降参するだろうと“誤判断”したのだろう。韓国の不買運動は長続きしないだろうと言ったユニクロの役員の主張も似たような脈絡だ。こうした戦略は、華麗に咲いては散る日本の「桜文化」や過去の経験とも無関係ではない。日本は清・露との戦争で短期的な集中攻撃で簡単に勝利を収めた。

 しかし、日中戦争のように長期化の段階に入れば、状況は正反対に変わる。今がそのようなありさまだ。韓国にとって日本の輸出規制は経済侵略と同義語になっている。韓国経済を揺るがすための挑発と映る。さらに、事態の発端である強制徴用問題は、日本帝国主義の侵略の産物だ。激しい不買の熱気はそのような認識に基づいている。熱しやすく冷めやすくもあるが、一度感情に火がつけばどの国民よりも強力なエネルギーを発するのが韓国人だ。政治外交と歴史の問題を経済的圧迫で解決しようとした安倍首相の“火遊び”が成功するのは難しく危険だというのはそのような背景からだ。

パク・ジュンオン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/902772.html韓国語原文入力:2019-07-23 08:20
訳M.C

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