武装団体に拉致された2人の韓国人が最近釈放されました。リビアで拉致されてから315日がたった16日に釈放されたJ氏(62)は、18日に帰国します。14日には西アフリカのブルキナファソで武装勢力に拉致された40代の韓国人女性のA氏が帰ってきました。A氏は、世界旅行中だった今年1月、北アフリカのモロッコに渡りセネガル、マリ、ブルキナファソを経てベナン共和国に移動する過程で拉致されたといいます。いずれも韓国政府が指定した「旅行警報」地域でした。幸い、A氏とともに捕まっていたフランス人2人と米国人1人は拉致28日後に無事救出されましたが、救出作戦に投入されたフランス軍特殊部隊員2人は遺体で帰ってきました。このためフランスでは、危険地域を旅行した人質たちに対する非難の世論が起こりました。フランスのジャン=イヴ・ル・ドリアン外相が「(彼らが)なぜそのような危険な所に行ったのかを説明しなければならない」と言い、「拉致被害者責任論」が加熱したのです。
こんにちは。統一外交チームで外交部を取材しているキム・ジウンです。今回の事件で「旅行警報」制度に対する関心が再び高まったようです。外交部は特定の国や地域への訪問・滞在時、特別な注意が必要な所を指定し、危険水準を案内する旅行警報制度を施行しています。韓国の「旅行警報」は、紺色警報(旅行留意)-黄色警報(旅行自制)-赤色警報(撤退勧告)-黒色警報(旅行禁止)の4段階に分けられます。旅券法によって、黒色警報が指定された旅行禁止国家に政府の許可なしに訪問・滞在する場合には、刑事処罰(1年以下の懲役または1000万ウォン以下の罰金)の対象となりますが、その他の旅行警報の地域については特別な規制はありません。また、旅行禁止国家でも外交部長官の許可を例外的に受ければ滞在することができます。現在、リビア、イラク、アフガニスタン、イエメン、シリア、ソマリア、フィリピンの一部地域など7カ所が旅行禁止国(地域)です。最近、米国が自国の公務員の撤退命令を下したイラクは、韓国人1500人ほどが例外的な許可を受けて滞在しています。
A氏が拉致されたブルキナファソ南部は、2段階の旅行自制地域でした。これに先立ってA氏が泊まったというマリは、赤色警報が下された撤収勧告地域です。これに対し、フランスと同様に韓国内でも「A氏が被害を自招したのではないか」「危険地域への旅行者に対する処罰を強化すべきだ」などさまざまな議論が起こりました。A氏が拉致された地域の旅行警報が危険レベルをちゃんと反映させられていなかったとし、政府の責任を問う声も上がりました。
昨年7月に拉致されたJ氏は、旅行禁止国であるリビアで大人工河川庁傘下のANCという水路建設会社で勤務中に捕まりました。別途の許可も受けていない状態でした。外交部はJ氏の帰国費用について、リビア大人工河川庁との協議が円滑でないうえ、家族とも協議が必要であるため、税金で支援するかどうかの決定に時間がかかると述べました。告発など行政措置は検討しない立場です。これについても一部では「自己責任論」を強く提起しています。2014年のリビア内戦後、黒色警報を発令した政府の撤退勧告を無視して滞在していて捕まった人に国民の税金を使うのは不当であり、無断滞在者であるためにむしろ処罰が必要だというのです。
ところが、この事件の背後には無視しがたい他の側面も存在します。リビアはJ氏が20年以上生計を営んできた基盤でした。J氏の拉致後にもリビアには韓国人4人が撤退せずに残っています。彼らのうち3人もJ氏と同じANCの所属です。彼らはいずれも60代の韓国人で、韓国に帰国しても生計のための他の仕事を見つけるのは難しいため、とどまっているといいます。政府は4月に彼らに対して旅券無効化処置をし、旅券法違反の疑いで告発しましたが、強制的に彼らを撤退させる方法はありません。
民主主義国家では個人の居住・移転の自由が保障されなければなりません。また一方では、政府は国民の生命・身体・財産を保護するために強制力を動員する権利を持っています。この二つの間のバランスを取ることは思ったより難しい問題だということを、二つの拉致事件は示しているようです。