最近、瑞草洞(ソチョドン)は大統領の指先ばかりを見ている。彼が指したところに「キム・ハグィ捜査団」というものが生まれた。投入された検事は13人にもなり、春川(チュンチョン)地検一つ程度の規模がそっくり生まれたようなものだ。いつか似たようなことがあったのかと思うが、あらゆる“興行要素”が混ざり合った事件なので、世論の関心は真夏の砂浜のように熱い。ある調査では、回答者の67%が大統領の指示が適切だったと答えた。「党代表を弾圧するための不適切な措置だと思う」という回答を反対側の選択肢に置いたのでこのような結果が出たのだろうが、それを議論するほど暇ではない。
改めて引き出して読んだ最高権力者の捜査指示文には、むき出しの怒りがにじんでいる。「非常に強力な疑惑」は数行後には「真実が甚だしく隠ぺいされてきた事件」となっていて、すでに結論が出ている。大統領は「ポケットの中をひっくり返すように明々白々に…集中的な捜査と調査が必要だ」と、包青天(包拯、北宋の政治家)のような表情で命令した。「法務部長官と行政安全部長官がともに責任をもって、疑惑を逐一究明してほしい」
長官2人の首をかけろという厳かな仰せに慌てた検・警察、興味津々なニュースに引かれている世論を見て、ほくそ笑んでいる顔がただ一人浮かぶ。「司法府改革」論議が消えた今の現実を誰よりも喜んでいる人、前任者が犯した犯罪容疑の“本山”(裁判所事務総局)をほぼそのまま継承して運営している人、その本山を打破すると幾度も約束したにもかかわらず、いざ国会には「裁判所事務処」に看板だけ変えると宣言した人、それが、キム・ミョンス最高裁長官だ。
彼は自ら約束した。昨年9月20日に「談話文」まで出した。「上告審制度の改善、前官優遇の論争が続く裁判制度の透明性確保案など、司法府の根本的な改革措置について、立法府と行政府および外部団体が参加する民主的かつ推進力のある『より大きな』改革機構の構成案も近々まとめて明らかにします」。自分が決断すれば十分にできることだ。しかし、半年経っても彼が明らかにした「方案」はない。
改革立法に責任のある国会はもとより、大統領府も関心外だ。執権与党はいわゆる「ファストトラック」(迅速処理法案)から司法改革案をそもそも排除した。どの野党も異議を唱えなかった。それについて議論するとして別途設けた司法改革特別委員会は、開店休業状態だ。来年4月の総選挙に近づくほど、立法は遠ざかる。司法改革のアイコンを自認するチョ・グク大統領府民政首席は、高級公職者犯罪捜査処と検警捜査権の調整を何度も強調しながらも、司法府の改革は後回しにした。捜査指示まで直接行う大統領も、この問題だけは久しく沈黙している。
「裁判請託をしたというソ・ヨンギョ議員らを見よ。裁判所事務総局があれば苦情を解決してくれるだろう。ひとこと言えば全部自ら処理してくれるのだから。こんな便利な解決師がいなくなってみろ、全国に散らばる多くの裁判部にどうやって直接ロビー活動をするのか。事務総局がなくなれば、真っ先に大統領府が困るだろう」と、判事出身の弁護士が皮肉った。
裁判所事務総局の改革は司法改革の半分以上だ。選出職でない最高裁長官の強大な権限は、裁判所事務総局を通じて作動した。人事や予算をテコに裁判官を動かした。政界の裁判請託を聞き入れ反対給付を得ることも、裁判所事務総局があってこそ可能だった。ヤン・スンテ前最高裁長官の裁判は「司法権の独立」という煌々とした幕の後ろで牽制を受けない絶対権力の実相を確認することだ。しかし、ヤン・スンテ個人の処罰を超え制度の変化へと一歩さらに進まなければならない時に、司法府改革は死角に放置されたイシューになってしまった。
司法府改革はキム・ハグィ捜査ほど興味深くもなく、バーニングサン事件のようにホットでもない。しかし、呼吸のように私たちの生活に深く直結している。判事のひとことが拘束と非拘束を分け、家族を壊すこともある。皆が憤る「無銭有罪・有銭無罪」も司法府改革なしでは繰り返されるばかりだ。今のままでは、10秒で審理が終わる最高裁判所の上告審で首をくくり、「印鑑代」で3千万ウォンするという元最高裁判事の威力に涙を流して、偽りを真実に化けさせる前官優遇の前に挫折する現実を清算する見込みは立たない。ゴールデンタイムが過ぎつつある。