11日午前、ヤン・スンテ前最高裁(大法院)長官がソウル中央地検庁舎前で記者団のカメラの放列にさらされることとなった。歴代の最高裁長官の中でももっとも強い権限をふるった彼を検察庁15階の取調室に座らせたのは、いま韓日両国間で最大の懸案となっている日帝戦犯企業強制労役事件で損害賠償を命じた判決だ。
「帝王的最高裁長官」だった彼は、最高裁長官執務室において訴訟当事者である戦犯企業側の弁護人とじかに会うなど、妨げられるものがなかった。検察の中枢に近い関係者は7日、「強制労役裁判遅延は終始ヤン前長官が主導したと見てよい」と述べた。検察の捜査を見ると、2013年に最高裁において迅速に処理すべき裁判を5年以上引き伸ばしていた過程に「ヤン・スンテ」という名前は欠かせない。
2013年7~8月、最高裁に再上告された2件の強制労役事件は、審理不続行(最高裁判事が審理せずに上告を即時棄却すること)により簡単に終わるはずの事件であった。そのわずか1年ほど前の2012年5月、最高裁は同じ事件について「日本企業が被害を賠償せよ」との判決を下している。当時の李明博(イ・ミョンバク)政権は外交通商部を通じて「最高裁判決を歓迎する」という立場を表明している。1年少々で裁判の結果を変更するいかなる理由もなかった。
「朴槿恵(パク・クネ)政権」そのものがその「理由」だった。2013年9~10月、大統領府は外交部を通じて「国際的影響を考慮して判決を遅らせ、(この事件の審理を)最高裁全員合議体に移して慎重に判断するよう」との要請を裁判所事務総局に数次にわたって伝えたという。検察は「当時の朴槿恵大統領の父親である朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領が1965年に韓日請求権協定を主導した当事者だという点などを意識して、判決を覆そうとしたもの」と判断した。日本は朴正煕政権との間で結んだ請求権協定により、被害者に対する賠償はすべて解決済みと主張している。
当時、事務総局は大統領府の望みどおり「審理不続行が可能な期間(4カ月)が過ぎてから判断を下すのが妥当」との意見を出し、実際に最高裁の担当する裁判部は2015年になるまで何の審理も行わず、時間のみ浪費した。検察はこの過程でもヤン前長官の指示があったことをつかんだ。再上告審の裁判長であったキム・ヨンドク元最高裁判事(大法官)は最近の検察の調査において「ヤン前長官から、強制労役判決が原告勝訴で確定すれば国際法上問題になるだろうとの話があった」という趣旨の陳述をおこなったという。2014年6月からこの裁判の裁判長を担ったキム元判事は、昨年1月の退任まで結論を出さなかった。
4カ月が過ぎて審理不続行で処理できなくなった2013年12月、チャ・ハンソン裁判所事務総局次長(最高裁判事)はキム・ギチュン大統領秘書室長の官舎で大統領府と外交部の立場を余すところなく聞いた後、「なぜこのような話を2012年の判決の際にしなかったのか」と述べたという。検察はチャ元判事から、当時の非公開会合の内容をヤン前長官に報告したとの陳述を確保したという。
2014年10月にはパク・ビョンデ事務総長(最高裁判事)が再びキム・ギチュン秘書室長などと会い、対策を協議した。検察はイム・ジョンホン元事務総局次長の起訴状の中で、当時パク元判事などが「再上告事件の結論の変更は全員合議体における判決でのみ可能」として、全員合議体へ審理を移すよう誘導する方策を協議したと述べている。
その後、最高裁は2015年1月、従来の判決を覆すことを望む外交部が再上告審に意見を提出できるよう最高裁規則を改定した。訴訟当事者でもない外交部の意見を裁判に反映させる道を開いたわけだ。最高裁規則改定はヤン前長官が参加する大法官会議で行われた。
それでも外交部は「国民感情」を考慮し、すぐには意見書を出せずにいた。特に2015年12月、「不可逆的」なる「韓日慰安婦合意」が締結されるや、世論の逆風がいっそう強まった。怖気づく外交部の尻をたたいたのは「ヤン・スンテ最高裁」だったという。2016年4~5月ごろ、事務総局は「最高裁長官の任期(2017年9月まで)を考えると、これ以上手続きを遅らせるのは困る」との意見を外交部に伝えた。特にその年の9月、イム元次長は外交部のチョ・テヨル外交部第2次官に会い、「ヤン前長官から全員合議体に移す計画を聞いている」として、裁判を進める計画を伝えた。「外交部が遅くとも11月初めまでに意見書を送ってくれれば、全員合議体への移管手続きを最大限すすめる」とのことだった。検察はこのような内容を外交部の強制捜査などを通じて確認した。
ヤン前長官も下からの報告を受けていただけではなかった。日本企業の代理人を務めるキム&チャン法律事務所のハン・サンホ弁護士と最高裁長官執務室などで数次にわたって会っていたことが、検察の同法律事務所に対する強制捜査で確認されている。ヤン前長官は事件を最高裁判事全員が参加する全員合議体に回すかどうかを決める「全員合議体回付小委員会」の委員長でもある。キム&チャンが作成した内部文書には、ヤン前長官がハン弁護士に「『全員合議体に回す』と確認してくれた」との内容が書かれているという。
その後、最高裁は2016年10月から翌年2月まで全員合議体に移管するための検討作業を本格化させた。しかし、国政壟断事件と大統領弾劾によって、3年余りにわたった「裁判介入」は目標を達成できずうやむやになった。強制労働事件の再上告審は最高裁長官が交替し、昨年10月にようやく「原告勝訴」で終わった。その間にも強制労働被害者の大多数が亡くなっている。