「教会を出てみて分かりました。騙された方も騙された方ですが、牧師たちが恩恵という名のもとに人を利用したんです」
先月25日、ハンギョレと会ったキム・ミョンベさん(59)は、8年6カ月の歳月を振り返り、ため息をついた。キムさんは妻のソ・スナムさん(58)と京畿道河南(ハナム)のS教会で2010年3月から9月まで「管理執事」として働いた。2010年に経営していた食堂をたたんで500万ウォン(約50万円)の借金を負い、ソウル開浦洞(ケポドン)の長屋に移住した。その時、S教会がキムさん夫妻に私宅を提供し、管理執事を任せたという。
キムさん夫妻は毎朝4時に教会の門を開いた。終日、教会施設の維持・補修に関するあらゆる仕事をこなした後、午前0時頃に門を閉めた。休日もなかった。このように“仕事”をして受け取ったお金は、2人合わせて月70万ウォン(約7万円)、多くても150万ウォン(約15万円)程度だった。
信者500人余りを持つS教会には牧師が3人いる。全員家族だ。父親が元老牧師、母親が首席牧師、娘が担任牧師だ。2010年に教会がソウル良才洞(ヤンジェドン)から河南に来た時、母親が務めていた担任牧師職は娘が受け継いだ。キムさん夫妻と同じ“奉仕者”の身分である担任牧師には、月400万ウォン(約40万円)の給与以外に、業務推進費、K9乗用車のガソリン代などが出る。元老・首席牧師には150万ウォン(約15万円)ずつ給与が支給される。洗濯機を置く所もない教会内の8坪(26.4平方メートル)の狭い私宅に住んでいたキムさん夫妻と違い、牧師家族は50坪台の住商複合マンションで暮らす。
夫妻はこれまで劣悪な待遇と割に合わない給与に不満がなかったわけではない。牧師らはキムさん夫妻が少しでも不満を言うと「神に油を注がれた(選ばれて任務を受けた)しもべ(牧師)をなじるのは、神をなじることだ」「血を流して十字架で犠牲になったイエスを思えば、私たちがしているこの苦労は何でもない」などと、厳しく叱責したという。ソさんは「牧師の言うことには無条件に従う奴隷と同じだったと思う」と話した。
夫妻の“仕事”は教会だけに限らなかった。夫妻は京畿道楊平(ヤンピョン)にある修養館の5千坪の農場の管理と1万2千坪の樹木園の造成・管理までした。米作りをはじめ、白菜や大根、唐辛子、キュウリ、ナス、カボチャ、トマト、サツマイモ、ゴマ、エゴマの畑まで作った。雑草取り、芝刈り、農薬散布、造園管理など、1年中“重労働”が絶えなかったという。良才洞にある教会所有のアパート(18世帯)の管理も任された。賃貸者が入ってくる時、壁と床の張り替えをはじめ、水が漏れたり排水口がふさがっていても夫妻が呼ばれた。1週間に2回、教会付属の保育園の車の運転もキムさんの仕事だった。
献金はまた別に回収された。夫妻が月100万ウォン(約10万円)をもらえば、「十分の一税」として10万ウォン(約1万円)を払った。毎週1人当たり1万ウォンずつ日曜献金も出した。宣教会長を担当していた夫妻は、毎月おやつ代6万ウォン程も負担した。献身礼拝のような行事があれば、必ず20万~30万ウォンずつ会費を出した。昨年11月、キムさんとソさんは按手執事、勧士に職位が上がったが、教会は献金500万ウォンを要求し、夫妻はカードローンで500万ウォンを払わなければならなかった。
結局、夫妻は9月に教会を飛び出した。キムさん氏は「8年間返済できなかった借金も、教会を出た後は私たちがアルバイトもし、信用保証財団の支援を受けて2カ月も経たないうちにすべて返済した。按手執事になるときの借金500万ウォンだけ返済すれば済む」と話した。
S教会側は「キムさん夫妻は『勤労者』ではなく『奉仕者』だった」という立場だ。S教会関係者はハンギョレの取材の大使、「行くところのない人たちを教会の恵みで引き受けただけだ。2人が自ら望んで奉仕志願書にチェックして奉仕し、これを立証する証拠もある」と話した。また「夫妻が主張する仕事時間には、礼拝まで含まれている。他の信者たちも一緒に仕事(礼拝)をしたのに、すべての信者に賃金は払えないではないか」と反論した。
S教会が属している大韓イエス教長老会総会憲法は「教会の有給従事者らは勤労者ではない」と規定している。教会側は「恵み深い奉仕」だと主張するが、管理執事の待遇問題は韓国のキリスト教界では珍しいことではないという。教会改革実践連帯のキム・エヒ事務局長は「大半の管理執事が劣悪な状況に置かれていると把握されているが、労働者地位確認のための法的闘争に乗り出すことはほとんどない。権威的で家父長的な韓国の教会の特性上、信者でもある管理執事は担任牧師に手向かうのを極度に避ける」と分析した。キム事務局長は「教団が関心を持って実態調査に乗り出す必要がある」と指摘した。
管理執事の問題は、信者の減少傾向ともつながっているという。第3時代ギリシャ教研究所のキム・ジンホ研究室長(牧師)は「信者が100~200人でも管理執事を置くが、彼らの劣悪な待遇は昨日今日のことではない。みんなが知っているが、そのまま蓋をしている問題」だとし、「信者が減る状況で、教会は彼らをつなぎとめるための様々なイベントやサービスを提供する。ここで犠牲になる代表的な人が管理執事」だと述べた。
夫妻は29日、「教会法」ではなく「世俗法」に頼ることにした。この日、城南(ソンナム)雇用労働支庁に教会を相手に滞った賃金と退職金を求める陳情を出した。夫妻の相談に乗ったハンギョル労働問題研究所のキム・サンボン所長は「社会通念による正当な労働の代価が必ず支払われなければならない」と述べた。