マイク・ポンペオ米国務長官は7日午前7時頃、東京を発ち平壌に向かった。そしてこの日午後5時13分に烏山(オサン)の在韓米空軍基地に降りた。東京から平壌までは2時間以上かかり、平壌から烏山までも1時間以上かかる。ポンペオ長官が平壌に留まった時間は7時間に満たないことになる。
ところが、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長とポンペオ長官が共に過ごした時間は5時間30分余り(午前面会2時間、昼食1時間30分、午後面会2時間)だ。平壌国際飛行場(順安(スナン)空港)と百花園迎賓館の間を行き来した時間を除けば、ぜんぶ金委員長とポンペオ長官が一緒にいたことになる。金委員長が全面的にポンペオ長官を相手にしたという話だ。金委員長が朝米の膠着局面を突破するために前面に出たという意味でもある。元高位関係者は「金委員長が対米交渉に直接関わるという意志」だとし、「対米関係と関連して金委員長の真剣さと真正性を表わそうとするきわめて重要な信号」と指摘した。
金正恩委員長の“総力戦”を象徴するもう一つの場面がある。金正恩委員長とポンペオ長官の“談話”(接見)の北側倍席者として、金委員長の実妹である金与正(キム・ヨジョン)労働党中央委第1副部長が新たに投入されたという事実だ。金与正副部長は、ポンペオ長官の1~3回目の訪朝交渉には直接参加しなかった。労働新聞が8日付1面に公開した関連写真を見れば、北側は金委員長の左側に金与正第1副部長、右側に通訳が座っている。米国側はポンペオ長官の左側にスティーブン・ビーガン国務省対北朝鮮政策特別代表、右側にアンドリュー・キム中央情報局(CIA)コリアミッションセンター長が座った。キム・ウィギョム大統領府報道官は「金委員長とポンペオ長官が会った時間は5時間30分と伝えられた」として「午前と午後の面談で(北側から)金委員長、金与正第1副部長、通訳の3人だけがいたという」と明らかにした。
このような変化は、金委員長の“格別の措置”に近い。今回、面会陪席者から外れた金英哲(キム・ヨンチョル)労働党中央委副委員長兼統一戦線部長は、ポンペオ長官の1~3回目の訪問時の交渉相手だっただけでなく、米国を訪問し6月1日にドナルド・トランプ大統領に金委員長の親書を初めて伝えた当事者だ。今年、朝米関係の急変過程でポンペオ長官がトランプ大統領の代理人の役割をしたとすれば、金英哲副委員長は金委員長の代理人と呼ばれた。キム・ヨンチョル副委員長は7日、百花園迎賓館での昼食にだけ参席した。
陪席者交替の意味は、単純に代理人交替の水準を超える。金英哲副委員長が1990年代初期からいわゆる「核問題」を取り扱ってきた「老獪でイデオロギー的な正統官僚」とするならば、金与正副部長は金委員長の血縁で、その地位と役割が明確に異なる。金与正副部長は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と金委員長の1~3回の首脳会談過程で「制限なき接近権限」があることを如実に立証している。
しかもポンペオ長官は、交渉相手の金英哲副委員長に対して様々な方式で不満を隠さなくなっていたところだ。ポンペオ長官の3回目の訪朝での交渉決裂以後、朝米の膠着が深刻化した点に関する叱責の意味が含まれているという指摘もある。元高位関係者は「陪席者として金与正副部長を新たに投じて、金英哲副委員長を外した金委員長の選択が、トランプ大統領とポンペオ長官にきわめて強い印象を残すだろうと見る」と指摘した。
これと関連して、金正恩委員長とポンペオ長官の昼食時に「朝米首脳会談の成功と朝米関係発展のために双方間のコミュニケーションと接触往来をいっそう活性化していくうえで興味深い意見が交換された」という労働新聞8日付の報道内容が目を引く。低い次元では多方面での交流活性化、高い次元では連絡事務所、何より朝米交渉の責任者問題など様々な議論がありうる。文大統領は9月25日(現地時間)、米国のフォックスニュースとのインタビューの時「寧辺(ヨンビョン)核基地を廃棄することになれば、米国側に長期にわたる参観が必要になるはずで、その参観のために平壌に連絡事務所を設置することも(相応の措置として)考えてみることができる」と提案した。
これと共に金正恩委員長とポンペオ長官は「2回目の朝米首脳会談準備のための実務交渉を早期に開催することで合意」し、「これに関連する手続き・方法も議論された」と労働新聞は伝えた。