リ・ヨンホ北朝鮮外務相が29日(現地時間)の第73回国連総会で行った基調演説で、最も多く登場したキーワードは「信頼」と「平和」だった。「経済」や「非核化」、「制裁」も頻繁に取り上げられた。この5つの単語の連結網にリ外務相が強調しようとする「北朝鮮の対外戦略の基調」が盛り込まれている。
1100単語余りの15分間の演説で、リ外務相は「信頼」を12回、「不信」を5回言及した。二つを合わせると、「平和」に触れた回数(17回)と同じだ。北朝鮮の対外戦略の基調で、(朝米間の)「信頼」は(朝鮮半島の)「平和」とほぼ同じ重さということだ。リ外務相が「経済」を7回も口にした事実も特記すべきだ。「非核化」に言及した回数(7回)と同じだ。
まず、リ外務相は、4・20労働党中央委7期第3回全員会議で、(経済・核武力建設の並進路線の終了を宣言し)「社会主義経済建設への総力集中」を「新しい戦略路線」として採択した事実を想起させ、「経済的発展のためには、平和的環境が必要だ」と力説した。1978年に中国が改革開放路線を採択して以来、これまで固守してきた経済と安保の相関関係に対する認識と全く同じだ。北朝鮮が4・20労働党全員会議の前には一度も公開的に駆使したことがない論法だ。「(経済発展のために)直ちに平和が切実に必要である」というメッセージは、注目に値する。
さらに、リ外務相は「(6・12)朝米共同声明を徹底的に履行すること」に朝鮮半島の平和と安定がかかっていると強調した。また「朝米共同声明を徹底的に履行しようとする共和国政府の立場は確固」であるにもかかわらず、「それに相応する米国の肯定的な回答を私たちは(まだ)見ていない」とし、「(米国の)制裁が我々の不信感を増幅させることが問題」だと指摘した。
彼は「朝鮮半島の非核化も、信頼形成を優先することに基本をおいて、平和体制の構築と同時行動原則で、段階的に実現していくべきというのが我々の立場」だと明らかにした。非核化と相応措置の「均衡・同時・段階的実践」という公式方針の再確認だ。「米国に対する信頼」と「わが国の安全に対する確信」がなくては「一方的に先に核武装を解除することは絶対にありえない」と強調したのも、このような認識の延長線上にある。
これと関連し、「もし非核化問題の当事者が米国ではなく、南朝鮮(韓国)だったなら、朝鮮半島の非核化問題も今のような膠着状態に陥ることはなかっただろう」という言及が目を引く。70年間にわたる分断の歴史上前例のない発言だが、2回目の朝米首脳会談の架け橋になろうとする文在寅(ムン・ジェイン)大統領の涙ぐましい努力に対する感謝の表れであり、北朝鮮に対する米国の不信感を狙ったものと指摘されている。
リ外務相は、北朝鮮が望む主な相応措置も、遠まわしに表明した。「米国は制裁と圧迫をさらに強めており、終戦宣言の発表まで反対している」という指摘がそれに当たる。「制裁」関連の言及は、6・12朝米首脳会談以降、金正恩国務委員長や対米交渉責任者の金英哲(キム・ヨンチョル)労働党中央委副委員長をはじめ、北朝鮮の高官がこれまで一度も表明していないという点で、異例のことだ。ただ、リ外務相は「米国は○○をしなければならない」という直接的な要求はしなかった。その代わり、「多くの制裁決議を行った国連安全保障理事会だが、その(核試験とロケット)実験(発射)が中止されてから1年になる今日まで、制裁決議は解除されたり緩和されることなく、少しも変わっていない」と不満を示した。国連安保理に制裁の緩和・解除の決議を進めることを促すための間接話法だ。
元政府高官は「リ外務相の演説は、北朝鮮の対外戦略の基調を明らかにするものであり、水面下で進められている朝米交渉に直接的影響を与えるためのメッセージが込められているわけではない」としたうえで、「制裁に関する言及も、直ちにそれを解除すべきという主張として受け止めてはならない」と指摘した。