2泊3日の平壌(ピョンヤン)首脳会談期間中、最も“型破り”だった日程は、平壌市民に向けて行った文在寅(ムン・ジェイン)大統領の演説だった。南側の大統領としては初めて北側で大衆演説に出た文大統領が「平和」を語った時、平壌の綾羅島5・1競技場を埋め尽くした15万の北朝鮮住民からは大きな反響が巻き起こった。野党は異例にも「朝鮮半島が新しい時代に大転換するという象徴的な事件」と評価した。
「綾羅島演説」には内容以前に“場面”自体がもたらした衝撃があった。“凍土”だった平壌で、10万人を超える市民が見守る中、南側の指導者が政治演説に立ったからだ。文大統領の演説を見守っていた北側の住民らは「我々はこのように、共に新しい時代を作っている」という文大統領の言葉に、熱い拍手喝采を送った。正しい未来党のハ・テギョン最高委員は、今回の演説を「朝鮮半島が新しい時代に大転換するという象徴的な事件」だと評した。「これまで社会主義圏の指導者もそんなに多くの(北朝鮮)住民の前で大衆演説を行ったことがない」ということだ。そして、ハ最高委員は「このような大きな変化の波に、韓国の野党と保守陣営は(行動を)共にしなければならない」と述べ、野党の前向きな態度を求めた。
演説内容も話題になっている。文大統領は今回の演説で「両首脳は朝鮮半島でこれ以上戦争はなく、新たな平和の時代が開かれたことを8000万の民族と全世界に厳粛に宣言した。白頭(ペクドゥ)から漢拏(ハンラ)まで、美しいわが山河を、永久に核兵器と核脅威のない平和の地にし、子孫に残すことを確約した」と述べた。平壌市民たちの前で「核のない朝鮮半島」を明確に約束したのだ。彼はまた、演説で「わが民族は一緒に暮らさなければならない。私たちは5千年間一緒に暮らしてきて、70年間を離れて暮した」としたうえで、「わが民族は強靭だ」と、“民族”を強調した。これに対し、チョン・セヒョン元統一部長官は「交通放送」(TBS)とのインタビューで「一緒に暮らさなければならないという内容は、単なるレトリック(修辞的表現)ではない」とし、「金正恩委員長の非核化の意志と、南北関係の改善、軍事的な敵対行為の終息に対する確信なしには表明できない内容」だと話した。
北朝鮮住民たちに向かって「今回の訪問で私は平壌の驚くべき発展を目にした。難しい時代にも民族の自尊心を守り、自分の力で立ち直ろうとする不屈の勇気を見た」と述べたことに対しても、「思慮深い演説」だったと評価されている。「苦難の行軍」に代表される窮乏を耐え抜いた北朝鮮住民たちのプライドを守ったのだ。北朝鮮住民たちもこの部分で大きな拍手を送った。脈絡は異なるが、今回の演説が、東ドイツの住民に向かって「皆さんの決定を尊重する」と述べたドイツのコール首相のドレスデン演説に比肩されるのもそのためだ。