大韓民国政府の違法行為を認め、セウォル号惨事で亡くなった犠牲者遺族の損害に対する賠償を命じる裁判所の判決が初めて下された。しかし、裁判所はセウォル号惨事に対する政府の初期対応と犠牲者の救助失敗は違法と見なさず、限界を露呈した。
ソウル中央地裁民事30部(裁判長イ・サンヒョン)は、2014年4月のセウォル号惨事で亡くなった檀園高校生徒117人と一般人乗客2人の遺族が、政府と清海鎭海運を相手に起こした損害賠償訴訟で、19日に原告勝訴判決を言い渡した。裁判所は「清海鎭海運の役員や従業員らが貨物の過積載や固縛不良の状態でセウォル号を出港させた行為、セウォル号の船長や船員たちが乗客に対する救護措置もなく退船した行為により、犠牲者を死亡に至らしめたことが認められる」としたうえで、「清海鎭海運の役員や従業員らの行為は違法行為であるだけでなく、清海鎭海運の業務執行行為に当たるため、原告らについて損害賠償責任を負担する」と明らかにした。
しかし、裁判所はセウォル号惨事に対する国家責任はほとんど認めず、公務員のうち唯一業務上過失致死容疑で懲役3年を言い渡された当時木浦(モクポ)海洋警察署所属の警備艇123艇のキム・ギョンイル艇長の過失だけを認めた。裁判所は「123艇は速やかに乗客に対する退船措置を実施し、生命を保護する義務があったにもかかわらず、それを行わず、業務上の注意義務を違反した」とし、「大韓民国には123艇の職務執行上の過失による違法行為により、原告らが被った損害を賠償する責任がある」と明らかにした。遺族は「珍島(チンド)沿岸海上交通管制センターの管制失敗行為や救助本部の不適切な状況指揮、航空救助士らが船内に進入しなかった行為、国家災難コントロールタワーの未作動なども職務上違法行為に該当する」と主張したが、裁判所は「違法とはみなせず、犠牲者らの死亡と因果関係があると見ることができない」と判断した。「4・16セウォル号惨事被害者家族協議会」のユ・ギョングン執行委員長は裁判後「惨事の原因を解明し、政府と企業の法的責任を具体的に明示するために損害賠償請求訴訟を開始した」という立場を明らかにしただけに、このような裁判所の判断は議論を呼ぶものと見られる。
裁判所は、犠牲者1人当たり2億ウォン(約2千万円)や家族1人当たり5000万~8000万ウォン(約500万~800万円)の慰謝料、犠牲者たちの予想収入(逸失収入)の支給を命じた。慰謝料は交通事故を基準として議論になった「4・16セウォル号惨事の賠償と補償審議委員会」の慰謝料(1億ウォン)より多い。2016年に大型災害・事故の基本慰謝料を2億ウォンに決めた最高裁(大法院)の判例に従ったものと見られる。
しかし、最高裁の慰謝料の算定方法によると、大型災害・事故の慰謝料は、故意の犯罪行為による事故など、特別な事情があれば2倍の4億ウォン(約4千万円)まで支給できるように規定している。2014年の高陽(コヤン)総合バスターミナル火災事件による死亡慰謝料は3億2000万ウォン(約3200万円)、2015年の慶尚北道慶州(キョンジュ)マウナオーシャンリゾート事故の死亡慰謝料は3億ウォン(約3千万円)だった。セウォル号沈没の惨事が、犠牲者304人に及ぶ前例のない大型災害・事故であることを考慮すると、この慰謝料の額も十分とは言えないという声もあがっている。しかも、裁判所はセウォル号惨事の責任と無関係な国民からの寄付金を慰謝料額の算定に考慮した。「セウォル号事故が韓国社会に及ぼした影響が重大かつ広範囲に及んでいただけではなく、二度とこのような事故が発生しないように予防する必要があるなど、一般的な事故とは異なるセウォル号事故の特殊な事情」を考慮したという裁判所の立場が説得力に欠けるのも、このためだ。