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「道徳的優越感」は毒薬だ【寄稿】

登録:2024-11-30 07:09 修正:2024-11-30 08:31
カン・ジュンマン|全北大学名誉教授
ドナルド・トランプ次期米大統領が大統領選挙翌日の11月6日(現地時間)、フロリダ州ウェストパームビーチ・コンベンションセンターに現れ、支持者たちを指差している=ウェストファームビーチ/ロイター・聯合ニュース

 20年前に米国で出版された『カンザスでいったい何が起こったのか(原題:What's the Matter with Kansas?)』という本を読み返している。ドナルド・トランプの勝利で終わった米大統領選挙の結果を吟味してみたいからだ。ジャーナリストである著者のトーマス・フランクは、一時は米国の革新勢力の産室だったカンザスが今や極右地域に変わったとし、こう語る。「カンザスはすべてが平均である土地だが、その平均の特性は逸脱と好戦性、怒りだ。今やカンザスは日常生活の隅々まで反動のプロパガンダに点綴された保守主義の聖地となった」

 なぜそうなったのだろうか。フランクの本では民主党の偽善に対する怒りとともに堕胎問題など社会文化的価値と宗教的な原因が挙げられているが、同書が保守に対してあまりにも敵対的な態度を取っているとして批判を受けたことにも留意する必要がある。すなわち、カンザスに何が起こったのかを探求したこの本自体が、そのような変化の原因といえる特性を含んでいる。

 心理学者のキース・E・スタノビッチは同書について「こうした主張を展開する教育を受けた自由主義者は、おそらくこのような立場を取っているようだ」とし、「他の有権者は絶対に彼らの金銭的利益に反する投票をしてはならないが、自分がそうするのは非合理的ではない。なぜなら、自分は意識の高い市民だから」と皮肉った。フランクの立場をそこまで批判することには反論もありうるかもしれないが、「私は意識が高いが、あなたは愚かだ」という風に考える有権者が多く、彼らが傲慢な勘違いをしていることには快く同意できる。

 2003年に米民主党の大統領選候補指名戦に名を連ねたジョン・エドワーズは「この数十年間、民主党が犯してきた罪悪は(他人に誇示することを好む)俗物根性だった」と述べたが、民主党の最大の問題がまさにそのような「道徳的優越感」という指摘は以前からあった。それでも変わる気配が全く見えなかったため、それが民主党の属性あるいは本質かもしれないという考えまで抱かせる。

 2016年の大統領選挙でトランプと対戦したヒラリー・クリントンは「極めて一般的な観点からして、トランプを支持する人たちの半数は嘆かわしい(deplorable)集団と呼べる」、「トランプの後ろに立った人たちの半数は救済できない状況に至った」などいった最悪の失言を並べた。そのような「傲慢の悪夢」が2024年の大統領選挙でも蘇った。トランプのニューヨーク遊説で賛助演説に立ったコメディアンが、米国領プエルトリコを「ゴミの島」と呼んだことを受け、大統領のジョー・バイデンは民主党候補のカマラ・ハリスを後押ししようと「唯一のゴミは彼(トランプ)の支持者だけ」と言ったのだから、救いようがない。

 重要なのは、それらの失言そのものというよりは、失言の母胎となった道徳的優越感だ。ワシントン・ポストはハリスの敗因として「トランプがどれほどひどい人間なのかに焦点を合わせた選挙運動を行った」と指摘した。実際に道徳的優越感に浸っていると、「暮らしに密着した問題」よりは、道徳的比較優位を発揮できる社会文化的イシューに重点を置きやすい。ビル・クリントン政権で労働部長官を務めたロバート・ライシュは、そのような優越感は政治的毒薬でありうるということを次のように指摘した。

 「既得権政治勢力は現実を否定している。彼らはトランプの当選を政治的被害妄想、外国人嫌悪症、白人キリスト教右派、人種主義、女性嫌悪のせいにしている。彼らは間違っている。2016年に続き2024年にもトランプは工場が廃業し良質の雇用が消えてしまった地域に住む数百万の労働者の票を獲得することに成功した」(ハンギョレ21、2024年11月15日分)

 冒頭で取り上げたフランクの本は、韓国では2012年に『なぜ貧しい人々は金持ちのために投票するのか』というタイトルで翻訳・出版されたが、もはやそのタイトルは有効ではないかもしれない。今回の米大統領選挙を経て「もう民主党は高所得層の政党、共和党は低所得層の政党になった」という話まで出ているからだ。これを取り上げた米国政治学者、パク・ホンミンが書いた「韓国日報」のコラムのタイトルが興味深い。「ほらを吹くトランプよりも、説教を並べ威張るハリスの方が嫌われた」

 民主党の政治分析家であるクリス・コフィニスは「民主党は死んだ」とし、「この国のエリートたちは『トランプを倒すための議題より、私たちの問題に集中してほしい』という労働者と中産階級の有権者の4年にわたる叫びに耳を傾けなかった」と批判した。韓国系として初の連邦上院議員に当選した民主党下院議員アンディ・キムは「私たちの中の傲慢さを捨てよう」とし、「私たちがすべての答えを持っていると考えずに、街に出て市民の話を聞こう」と呼びかけた。韓国の政党も直ちに実践しなければならない言葉だ。

//ハンギョレ新聞社
カン・ジュンマン|全北大学名誉教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1168988.html韓国語原文入力:2024-11-25 08:41
訳H.J

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