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[記者手帳]商人の取引術…トランプ大統領が得たものと失ったもの

登録:2018-05-29 07:16 修正:2018-05-29 10:10
「会談取り消し」声東撃西で取引術を披露 
北朝鮮の態度変化もたらし、中国も押し出したが 
北朝鮮の核問題という難題解決する基盤となる“信頼”揺らぐ
ドナルド・トランプ米大統領 //ハンギョレ新聞社

 「誰しもゲーム(取引)はするものだ」

 ドナルド・トランプ米大統領は25日(現地時間)、朝米首脳会談を開催するかどうかを問う記者団の質問にこう答えた。前日、6月12日にシンガポールで予定されていた首脳会談の取り消しを書簡で通知したのも、その2時間後「首脳会談が開かれる可能性もある」と述べたのも、すべて“取引術”ということだ。このような態度には、自称「取引の達人」としての自負心が窺える。実際、トランプ大統領は22日(現地時間)、ワシントンで行われた韓米首脳会談で、文在寅(ムン・ジェイン)大統領を横に座らせたまま、記者団にしばらく“説教”を続けた。「あなたたちは取引(deal)のことが分かっていない。100%確実に見えていた取引が失敗に終わったり、全く可能性がなさそうだった取引が実現されたりもする。私は数多くの取引を成功させてきた。私は誰よりも取引についてよく知っていると思う」。トランプの“独り舞台”のおかげで、1泊4日の日程で太平洋を渡った文大統領とトランプ大統領の同席者のない単独会談は、わずか21分で終わった。

 トランプ大統領にとって“礼儀”はそれほど重要ではない。自分が望むものが得られれば満足だ。世の中の全てのことが“取引”だ。彼が好んで繰り出す取引術は、相手が自分の“カード”と“思惑”が予測できないよう、揺さぶりをかけることだ。東アジア人に親しみのある四字熟語に喩えれば、声東撃西だ。東で騒ぎを起こして視線を集中させ、西を攻撃する。トランプ大統領のこのような外交行動が「不動産業者の取引」だと囁かれているのもそのためだ。しばらく交渉した後、やっぱり買わないと立ち上がり、帰り際に気が変わったら電話するようにと名刺を渡す不動産業者の駆け引き。トランプ大統領が朝米首脳会談を扱う方式が典型的だ。

 これまで、少なくとも表面的には、トランプ大統領は“望んでいるもの”を手に入れた。第一に、マイク・ポンペオ米国務長官が8~9日に訪朝した際、首脳会談の準備に向けてシンガポールで実務会談を開くことで合意したにもかかわらず、2週間近く姿を現わさず、交渉を拒否したという北朝鮮の態度が一変した。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は「キム・ゲグァン外務第1副相談話」を通じて、「いつでもどんな方式であれ、問題を解決する用意がある」と確約し、それだけでは不安だったのか、文大統領との29日ぶりの南北首脳会談(26日、板門店)を通じて、朝米首脳会談と非核化に向けた「確固たる意志」を再確認した。

 第二に、トランプ大統領がこれ見よがしに「目の上のたんこぶ」の扱いをしてきた中国の習近平国家主席の存在感が一気になくなった。トランプ大統領は22日に文大統領との会談で「二度目の訪中後、金委員長の態度に変化があったのは事実だ。あまりいい気はしない」として、あからさまに習主席に照準を合わせた。

 それから“中国”が姿を消した。大統領府は韓米首脳会談の結果発表の時「南北が合意した終戦宣言を朝米首脳会談以降、3カ国が宣言する案について意見を交換した」とし、文大統領は27日、南北首脳会談の結果を発表する記者会見で、「朝米首脳会談が成功した場合、南北米3カ国首脳会談を通じて終戦宣言が推進されればいいという期待を持っている」と明らかにした。「恒久的で強固な平和体制構築に向けた南北米3者または南北米中4者会談の開催を積極的に推進していくことにした」とした南北首脳の「4・27板門店宣言」とは、明らかに異なる態度だ。トランプ大統領の“暴走”を防ぎ、何としても朝米首脳会談を実現させようとする南北首脳の苦肉の策だ。

6月12日、シンガポールで歴史的な朝米会談を行うドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長//ハンギョレ新聞社//ハンギョレ新聞社

 世の中にいい事尽くめはそうないものだ。得るものがあれば失うものもある。固く握りしめた拳では新しいものを掴めない。トランプ大統領は、特有の不動産業者流の声東撃西で、すでに多くのものを得た。それで意気揚々としている。しかし、目に見えない決定的な政治的資産を失った。信頼だ。トランプ大統領の行動に倫理の物差しを突きつけようとしているわけではない。咸鏡北道吉州郡豊渓里(プンゲリ)の「北部核実験場廃棄儀式」を終え、元山(ウォンサン)に戻ってくる特別専用列車の中で「朝米首脳会談中止の書簡の発表」の知らせを聞いた北側関係者がこう言ったという。「トランプ大統領に期待が大きかったが、気まぐれすぎる」。元高官はこう嘆いた。「トランプのことが心配で、もう情勢予測ができない」。予測不可能性は外交と交渉の基盤を崩す。

 誰もが認めているように、金正恩委員長とトランプ大統領は、70年間にわたる朝米敵対の歴史の中で、誰も解決できなかった問題の解決に乗り出した。難題中の難題が彼らの前に置かれている。簡単ではないからこそ、これまで誰も解決できなかったのだ。トランプ大統領は「完全で検証でき、不可逆的な核の廃棄」(CVID)を望んでいる。金委員長は「体制保証」(対北朝鮮敵対政策と軍事的脅威の解消)を切に望んでいる。実務者らによる技術的アプローチでは、短期間では決して答えが見つからないというのが専門家の見解だ。

 だからこそ、世界が「金正恩-トランプ談判」を首を長くして待っているのだ。両首脳の高い相互信頼を前提とした政治的決断による「トップダウン」方式の解決策を。そうだとしても、首脳会談のテーブルで「完全な非核化」と「体制保証」の交換が一気に実現するわけではない。実践には相当な時間が必要だ。その過程であらゆる障害を越えなければならない。そのためには、「非対称相互主義」、たとえ今は自分が少し損をしても、長い目で見て「利益のバランス」を合わせられるという信頼がなければならない。このような信頼は不動産取引のルールではない。友人関係のルールだ。特に“敵”同士だったが、友人になろうとする彼らが忘れてはならない内容だ。

 トランプ大統領が金正恩委員長を信じなければ、金正恩委員長もトランプ大統領を信じようとしないはずだ。それではトランプ大統領の好きな“取引”はなかなか実現しないだろう。私たちが懸念しているのはまさにその点だ。

イ・ジェフン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/846566.html韓国語原文入力:2018-05-28 22:16
訳H.J

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