文在寅(ムン・ジェイン)大統領の就任演説で最も頻繁に登場した言葉は「対話」だ。原稿用紙17枚の分量の長くない演説文に「対話」という表現が4回も使用された。近い意味の「討論」、「疎通(コミュニケーション)」という言葉もそれぞれ2回、3回言及された。一方、選挙運動期間によく口にした「積弊」という言葉は一度も登場しなかった。「清算」という表現も「権威的な大統領文化を清算する」という部分で1回使用するに止まった。文大統領の就任演説は、「国民向けコミュニケーション宣言」と呼んでもよさそうだ。
このように「コミュニケーション」を強調したのは、前任の朴槿恵(パク・クネ)政権の失敗が「権威主義」と「コミュニケーション不在」に起因したとみる文大統領の現実認識と関連が深いとみえる。文大統領のこのような考え方は、就任演説で「旧時代の誤った慣行と果敢に決別する」、「低い姿勢で働く」、「主要事案は大統領が直接メディアにブリーフィングする」と言った部分によく表れている。このような文大統領のコミュニケーションを取ろうとする意志が最も象徴的に集約された表現が「光化門(クァンファムン)大統領」だ。
文大統領は「大統領から新しくなる。準備が終わり次第、今の大統領府から出て光化門大統領時代を切り開く」とした。「密室型権威主義」の象徴である大統領府ではなく、「ろうそく民心」の発祥の地である光化門広場近くに執務室を設け、「コミュニケーションする国政」を作っていくという意味だ。「帰宅する際、市場に立ち寄り、出会った市民たちと隔てのない対話を分かち合う。ときには光化門広場で大討論会を開く」という部分では、国民を「一方的統治対象」ではなく「双方向的な政治主体」として向き合うという考えがうかがえる。「君臨して統治する大統領ではなく、対話し、疎通する大統領になる」という誓いもやはり同じだ。過去、金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府時代に試みた「国民との対話」形式のコミュニケーションの窓口を活性化するという意味にも捉えられる。
国民との直接的なコミュニケーションに劣らず、文大統領が強調したのが「野党との対話」だ。国政運営の基調を明らかにし、「野党は国政運営の同伴者だ。対話を定例化して随時会う」とした。大統領候補時代、自由韓国党の大統領弾劾に反対した旧与党の主流勢力を「清算されるべき積弊勢力」と規定したこととは相反する態度だ。この日、顯忠院訪問後、一番先に自由韓国党の汝矣島(ヨイド)党本部を訪れたのも象徴的だ。「与小野大」である国会議席分布を考えるとき、100席を超える自由韓国党の協力がなければ、円滑な国政運営が不可能だという現実的判断が反映されたものとみられる。就任演説の序盤の「今回の選挙では勝者も敗者もいない。私たちは新しい大韓民国を一緒に導いていかなければならないパートナー」と言及したのも同じ脈絡だ。彼は、選挙運動の過程で他のライバル候補に向かって「積弊勢力の支持を受ける候補」と話したことがあるが、この日は「今日から私はすべての国民の大統領になる。私を支持しなかった国民一人一人も私の国民であり、私たちの国民として仕えたい」と強調した。
文大統領が公言した野党とのパートナー関係構築は、この日候補者を指名した国務総理(首相)と大統領府秘書室長の人事に続く大統領府と内閣の後任人事で一次的試験台に上がるものとみられる。彼は就任演説でも「全国的に平等に人材を登用する。能力と適材適所を人事の大原則としたい」とし、「私を支持する・しないに関わりなく、有能な人材に三顧の礼で仕事を任せる」と明らかにした。能力中心の人事を行うが、出身地域と政治性向を均等に配分するということだ。