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サービス世界1位、非正規職世界1位の仁川空港 「選挙後は改善するだろうか」

登録:2017-05-08 22:49 修正:2017-05-09 14:53
ゴールデンウィークに空港守る労働者
間接雇用の非正規職 6831名
過労・雇用不安・低賃金に“あえぐ“
警備・消防など安全も外注化  
正規職化の公約に「かすかな期待」
第2旅客ターミナル、交通センター、アクセス道路など、主要施設の工事が3月末に終わるなど総合工程率90%を超えた仁川空港第2旅客ターミナル建設現場。10月末オープンする予定だ//ハンギョレ新聞社

 24時間ひっきりなしに航空機が離陸し着陸する仁川(インチョン)国際空港は、ときめきの空間である。空港リムジンバスから日差しにきらめく空港庁舍のガラスの外壁が目に入って来れば、そのときめきは倍加される。

 12年連続世界の空港サービス評価1位、年間乗客5700万人と貨物270万トンを処理する仁川国際空港は、先月29日から今月9日の大統領選挙までのゴールデンウィークの間に179万人の利用客を迎える予定だ。連休期間に空港を利用する乗客は一日働くか二日働くか、いつ旅行に出るかで悩むが、空港で働く労働者たちは一日休むことができるか、二日休むことができるかが問題だ。連休を二日後に控えた先月27日夜、ハンギョレが訪ねた仁川空港はいつものように夜間作業の真っ最中だった。一方ではエスカレーターを整備し、他方では電光板を手入れしていた。制服を着た保安警備員が巡察して歩き、別の方では清掃カートが床を掃いていた。

 夜10時、空港の清掃をする労働者たちが班長から区域の割り当てを受けた後、装備を持って担当区域へと散っていった。50代の女性労働者イ・スヒョンさん(仮名)も装備を持って外に出て清掃を始めた。彼女の受け持った仕事は、薬品を使って床の汚れを取り、またワックスを塗ってツヤを出す仕事だ。油のために滑って尻餠をついたり、ブルブルと動く機械の振動で手にけいれんが来ることも多い。空が白むころ汗ばんだユニホームを着替え、朝7時に空港を出る。

 イさんは 30年ほど前に田舎から仁川に出てきた。工業団地の縫製工場の“シタ”(下働き)として働き始め、貯めたお金で夫と共に小さな店を運営したが、儲けがはかばかしくなく空港に勤めることになった。夜間手当てを含めて受け取るお金は月230万ウォン(約22万8000円)余り。夜間労働を自ら選択したのもお金のためだった。

 イさんは週に一日を除いて6日間働く。彼女の願いは「週休2日制」と「雇用不安のない正規職になること」だ。彼女は仁川国際空港公社所属の労働者ではなく、公社と委託契約を結んだ下請会社所属だ。委託契約は3年に1度締結され会社の実績によって2年間延長するか否かを決めるのだが、この時期が労働者にとって最も不安な時期だ。政府の「用役勤労者保護指針」により多くは雇用承継が成立するが、もしや人員が減りはしないか、新しい会社の管理者が勤務方式を変えて労働条件が変更されはしないか、と不安にかられることになる。2001年の開港以来十数年間勤務する間に、委託会社が4~5回変わった労働者もいる。「大学を出た娘も非正規職労働者」と言うイさんは、大統領選挙を控えて「貧乏は親から譲り受けたが、こんなもの(非正規職雇用)まで子どもに継がせたくない」と話した。

 空港で手荷物管理業務を担当して3組2交代勤務をしている30代の男性労働者チェ・ソンミンさん(仮名)の願いも、母親くらいの年のイさんと同じだ。未婚のチェさんは「空港公社の委託費制限のため、10年以上働いた人と新入職員との間で賃金差が月10万~20万ウォン(約1万~2万円)にしかならない」として「今200万余りもらっているが、このお金で独身生活はできても結婚をして子を生むのは大変なレベルだ」と話す。彼は「仕事に対する責任感は会社のビジョンから生まれるのに、何年働いても賃金の上がる見こみもほぼないから意欲も落ちる」と話した。

仁川空港雇用形態別人員の現況(単位:人、資料:仁川国際航空公社)//ハンギョレ新聞社

■ 世界1位の空港、非正規職は84%

 仁川空港には彼らのような非正規職労働者が去年10月末基準で6831人、全職員の84.2%にのぼる。環境美化・施設管理はもちろん、空港庁舍で巡察を担当する特殊警備員も、チェックイン後入国場に入る時に検査をする職員も、手荷物を飛行機まで運ぶシステムを管理する職員も、航空機で救急患者や火事が発生した時出動する消防隊員も皆非正規職だ。この非正規職の数は今年末に第2旅客ターミナルが開港すれば 1万人に迫ることになる。

 非正規職労働者が正規職化を希望するのは自分たちの処遇のためだけではない。空港業務の公共性と、非常時における初動対処能力を高めるためにも、間接雇用形態ではない直接雇用の正規職化が必要だと労働者は主張する。去年1月、仁川空港は「空港手荷物総合管理システム」の部品の故障から数十台の航空機が遅延となる「手荷物騒動」を経験した。このシステムを維持管理する委託会社で働くソン・デチョルさん(仮名)は「システムが導入されて16年になるので故障はしばしばあったが、孫請け会社-下請会社-空港公社-航空会社の間でちゃんとした疎通ができず発生したものだ」として「下請会社が解決方法を正確に速かに伝えられる条件だけでも整っていたら、それほど大きなことにならずに済んだことだった」と指摘した。

 服装や装備、仕事の内容まで消防公務員とまったく同じだが身分は間接雇用非正規職である空港消防隊応急救助士のチョ・ソニョンさん(仮名)も、委託会社所属で仕事をするのには困難があると吐露した。SARSやMERSのような国境を超えて移動する伝染病が猛威をふるった時に防疫の最前線で働いたチョさんは、「MERSの時は本当に殺伐としていた。空港区域があまりにも広くて保護服を着てあちこち行き来するのも非常に大変だったが、空港検疫所や空港公社と有機的な協力作業が必須なのに委託会社所属なので直接疎通することができず、報告と許可を経る段階が多いので対応が遅れざるを得なかった」と説明する。

 仁川空港非正規職労働者の組合である公共運輸労組仁川空港地域支部(労組)のパク・テソン支部長は「非正規職問題の解決は公共機関が模範を示すべきであり、特に公共機関の中で収益も多く労働者の数も多い仁川空港から始めなければならない」として「賃金はさておくとしても、委託会社変更の度に労働者が不安にかられるような事のないように、本当の使用者である空港公社が労働者を直接雇用しなければならない」と話した。 仁川空港公社は去年9649億ウォンの当期純益を上げている。

■ 大統領選候補者たち「公共部門の非正規職改善」を公約

非正規職労働者が空港庁舎内部の電灯の球を取り替えている=運輸労組仁川空港地域支部提供//ハンギョレ新聞社

 これまで労働界は公共機関の間接雇用非正規職問題の解決を絶えず主張して来た。空港公社関係者は「非正規職を正規職化したいと思っても、政府の定員と予算問題に引っかかって解決の方法がない」と吐露する。結局、非正規職処遇を改善しこれを通して公共性を高める問題は政府の意志にかかっている。今年国会が間接雇用非正規職であった清掃労働者を直接雇用し、去年ソウル市がソウルメトロと都市鉄道公社の安全分野の間接雇用非正規職を直接雇用した事例は、決定権者の意志が重要であるという事実を示している。

 9日の大統領選挙を控えて主要候補者たちは皆、公共部門の非正規職処遇改善公約を出している。共に民主党の文在寅(ムン・ジェイン)候補は、公共部門の常時業務における間接雇用非正規職を正規職に切り替えると公約した。 国民の党の安哲秀(アン・チョルス)候補は、公共部門に「職務型正規職」を導入して雇用不安を解消するとし、正義党のシム・サンジョン候補も常時持続業務は正規職に切り替え、その転換に障害となる公共機関総額人件費制と経営評価制を廃止すると約束した。どれも、2015年基準で約6万9千名にのぼる公共機関の間接雇用労働者に希望を持たせる公約だ。

 しかし労組が2月に所属組合員2360人のうち1719人を対象に実施したアンケート調査の結果によれば、「政権交代すれば非正規職問題が解決されるだろう」と回答した人は7.2%に過ぎなかった。「政権交代しても難しいだろう」と回答した人が45.5%、「政権交代以後も労組が努力しなければ解決されない」という回答が42.7%だった。 「バラ色」の公約に対する不信が既に始まっているわけだ。

 空港非正規職労働者にとって忙しく大変な時間だった連休の終わりは、大統領選挙の日だ。連休と大統領選挙が終われば、彼らの生活は変わるだろうか。

永宗島/パク・テウ記者 ehot@hani.co.kr

https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/793359.html?_fr=mt2  訳A.K

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