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[ニュース分析]70歳か、65歳か…5年目を迎えた「それが問題だ」

登録:2017-01-08 21:54 修正:2017-01-09 11:42
「深刻な問題」高齢者年齢引き上げ 
韓国の高齢者年齢基準による高齢者人口比重//ハンギョレ新聞社

政府「今年下半期に社会的議論推進」発表 
調整されれば、高齢者比重↓生産人口比重は↑ 
基礎年金など高齢者福祉負担も減少 
高齢者貧困問題深刻で、福祉減少に反発大きく 
国民年金の受給開始年齢調整など容易でない 
市民団体「高齢者の働き口解決が先」

 韓国政府が現行65歳以上の高齢者年齢基準を、70歳以上に引き上げるための社会的議論を今年推進することにした。政府が5年前に推進を明らかにして以来、進展はなく空回りを繰り返してきた「深刻な問題」を再び持ち出した内心は何か?

■毎度の発表「高齢者年齢引き上げ」、なぜ?

 企画財政部は昨年12月29日「2017年経済政策方向」を発表して、高齢者年齢基準に対する社会的議論を今年下半期から本格化すると明らかにした。今回が最初ではない。すでに企画財政部は2012年「中長期戦略報告書」でも高齢者基準変更を検討すると明らかにした。続いて2015年に出された「第3次少子化・高齢社会基本計画(2016~2020年)」にも、これと関連した社会的合意方案を用意するという内容を盛り込んだ。

 根拠としては、まず平均寿命の延長と70代にまで延びた実際の引退年齢(72.1歳)が議論されている。現在、国連(UN)や経済協力開発機構(OECD)など国際社会で通用する高齢者基準は65歳だ。1889年、世界で初めてドイツが老齢年金を導入し、その受給開始年齢を65歳と決めたところから始まった。韓国では人口推計が始まった1964年に65歳という基準ができた。企画財政部関係者は「統計庁が期待寿命を推計し始めた1970年、当時の出生児の期待寿命は62.3歳に過ぎなかったが、昨年の出生児の期待寿命は82.1歳まで延びた。もはや65歳という高齢者基準は現実に合わない」と話した。高齢化を先に体験している日本政府も、高齢者年齢を65歳から70歳以上に引き上げる方案を検討中という点も考慮された。

 企画財政部はこれに先立つ2012年の発表時には「急速な高齢化」に対する対応方案(適正人口管理方案)というやや直接的ないいわけをした。「2060年になれば人口10人に4人が高齢者になり“1対1扶養時代”に突入する」という人口展望を勘案する時、「高齢者基準を70歳か75歳に上方修正する場合、人口構造が大きくは悪化しない」という趣旨だった。70歳に引き上げる場合、2050年の高齢者人口比重が37.4%から29.7%に低下し、生産人口比重は52.7%から60.3%に高まるという展望値も提示された。政府としては、ますます仕事をする人が減り扶養人口は増える高齢化に対する対応方案として、高齢者基準を変えるカードを持ち出したのだ。こうすれば急増する福祉支出負担を減らすことが出来る。

 韓国保健社会研究院が保健福祉部からの研究受託で作成した「人口構造変化にともなう高齢者福祉政策の発展方向」報告書(2016年発刊)によれば、この報告書作成に参加した専門家23人のうち大多数も最近の高齢者年齢基準をめぐる議論の背景に「高齢者の健康状態改善など特徴変化」(4.3%)や「高齢者に対する否定的社会認識」(4.3%)よりは、「高齢者規模の増大にともなう福祉負担」(91.3%)を挙げた。報告書によれば、基礎年金の場合、現行通り需給年齢を65歳以上で維持すれば、2024年の受給者が2014年より218万5千人(50.2%)増加する反面、70歳に引き上げれば32万3千人(7.4%)の増加にとどまるとしている。代表的敬老優待政策の地下鉄無賃乗車(65歳以上)の利用者も、原稿基準どおりならば2024年に393万5千人だが、70歳に引き上げれば228万3千人になると推定された。2014年基準では289万6千人なので、現在より減るわけだ。少子化・高齢社会基本計画を樹立する主務部署である福祉部は、今回の報告書を今後の高齢者年齢基準調整議論の際に活用する方針だ。

■先決課題を解決せずには推進困難

韓国の主要高齢者福祉政策の年齢基準//ハンギョレ新聞社

 高齢者基準の検討方針が出るたびに論議が増幅され、政府はむしろ5年前以上に慎重な態度だ。「高齢者貧困が深刻なのに、福祉をさらに減らそうとするのではないか」という反発を意識してのことだ。そのため企画財政部は公式に高齢者基準を高めるとは言わずに「高齢者年齢基準再確立」という中立的表現を用いている。福祉部担当者も「高齢者年齢を引き上げることを前提に議論するのではない」と明らかにした。

 企画財政部は内部的に高齢者関連統計を出す際に使う年齢基準を先に引き上げる方案も検討中だ。今すぐに高齢者福祉適用対象に影響を与えかねない基準に触る代わりに、社会的議論を促進させる効果を狙うということだ。昨年発表された統計庁将来人口推計(2015~2065年)を基にハンギョレが分析した結果によれば、高齢者年齢を70歳に引き上げれば「超高齢社会」(全人口のうち高齢者比重が20%以上)への突入時点を2025年(65歳基準時)から2034年に9年程度遅らせることができる。

 実際、高齢者年齢基準をどこからどのように引き上げるのかという各論に入れば、越えなければならない関門が少なくない。最も主要な老後所得源である国民年金受給開始年齢基準は現在61歳であり、今後段階的に1歳ずつ引き上げ、2033年以後には65歳になる。年齢基準を上方修正する計画がすでに決まっているうえに、現在も法的定年(60歳)と年金受給開始年齢(61歳)の間に空白期間がある状況なので、受給開始年齢だけをむやみに触ることはできない。定年延長と共に議論されざるを得ないが、今年からすべての事業場に60歳定年が始まる段階であり、当座は推進が困難ではないかという意見が大勢だ。

 保健社会研究院の報告書は「(OECDが堅持している)既存の65歳以上高齢者の定義は、統計算出のための基準として維持する必要がある」としつつも「(ただし政策対象者としての)高齢者年齢を一括調整する方法は可能でもなく望ましくもない」という結論を下した。これに伴い、報告書は「基礎年金は将来の高齢者人口変化と財政所要展望などを考慮して、給付水準を調整していく必要がある。地下鉄無賃乗車の場合、地下鉄が運行している地域の高齢者にのみ適用される制度という点で、公平性の問題も提起されているので、徐々に対象年齢の上方修正を模索しなければならない」として、高齢者政策毎に異なるアプローチが必要だと強調した。ただし、国民年金受給開始年齢については、既存の方案を履行することに注力すべきだと提案した。

 今後の議論は、大統領直属の少子化・高齢社会委員会を中心に行われることになる。ひとまず今年上半期中に各部署別に年齢基準の調整が必要な政策課題を選んだ後、下半期に社会的合意を推進する方針だ。結果的に高齢者年齢基準議論は、個別の政策別に扱われる可能性が高いが、現在の高齢者はもちろん、将来高齢者になる中壮年層の世論に影響を受けざるをえない。すでに現場の要求により、年齢基準が変わった事例もある。雇用労働部の就職支援プログラムである就職成功パッケージの対象年齢は、今年から従来の64歳から69歳に上限年齢が引き上げられた。政府は今回、失業給付の受給基準も検討するとしたが、現在は新規就職基準で65歳以上の高齢者には適用されない。

 「私が作る福祉国家」のオ・ゴンホ共同運営委員長は「長期的に高齢者基準は上方修正される必要があるが、高齢者に働き口とそれに見合う所得を十分に提供できる条件を先に造成しなければならない」と前提を置き、「高齢者を代弁するに相応しい集団がないので、社会的合意の推進も容易ではない」と話した。2015年5月、政府側指向の「大韓老人会」が高齢者年齢の上方修正に対する公論化を要請し、政府側の手を挙げたが、高齢者全体を代弁する団体とは見難い。「老年ユニオン」や「老後希望ユニオン」など、最近数年間に生まれた高齢者団体は強く反発している。

 一部の専門家は高齢者として生きる期間が長くなるにつれ、前期高齢者と後期高齢者を区分して、政策アプローチを別にしなければならないと主張している。日本も2008年に長寿医療制度を導入して、75歳以上の高齢者だけを適用対象とした。

ファンボ・ヨン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/777853.html 韓国語原文入力:2017-01-08 18:56
訳J.S(3554字)

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