シンさん(76)は妻と離婚した後、1988年から釜山(プサン)海雲台(ヘウンデ)区盤松洞(パンソンドン)で2人の子どもと一緒に暮らした。シンさんはタクシーの運転手として働いていたが、子どもたちが大きくなって生計がより厳しくなった。90年代初め、成人した子どもたちは家を出て彼との連絡を絶った。一人残された彼は、寂しさを癒すために日々を酒に頼って暮らした。
彼は「10年あまり酒ばかり飲んでいたため生活が荒廃した。2006年のある日、アコーディオンの演奏を聞いて心が落ち着く感じがした。その時からアコーディオンなど楽器演奏を習い、心を静めている」と話した。
シンさんは住民の音楽会などでアコーディオンを演奏する楽しみを覚えて暮らすようになった。健康上の問題でタクシー運転手を辞めた後、2010年に独りで住んでいた家を出て、近所の30平方メートル大の空き店舗の建物で暮らし、廃紙を拾って売った金で生活した。足など体が不自由になった2014年からは廃紙も拾えず生活保護を受けて生計を立てた。盤松洞福祉館の独居老人生活管理士が彼の気の毒な事情を知り、8月に海雲台区に「幸せサランチェ」の入居申請をし、先月29日入居できるようにした。
幸せサランチェ(サラン(舎廊)は昔の韓屋で家の主人が客をもてなす部屋のこと)は、海雲台区が独居老人のために作った「都市型共同生活家庭(グループホーム)」だ。海雲台区は4億7000万ウォン(約4250万円)の事業費で盤松1洞に2階建ての住宅を買い入れ、多世帯住宅に改装し、先月11日入居式を行った。
ここは21平方メートルの部屋4つに、それぞれキッチンとトイレがあり、4世帯が入居できる。2階にはサランバン(居間)の空間を別途つくり、独居老人たちが交流できるようにした。入居期間は3年で、住居費などは全額海雲台区が支援する。保健所の看護師が毎月ここを訪問し健康検診を行い、福祉館でも日々ここを訪れ、安全・健康・認知症予防・ハングル・美術などの講義を行う。
2日、幸せサランチェの2階のサランバンで会ったシンさんの表情は明るかった。彼は「床が暖かく寝心地も良く、キッチン、テレビ、エアコン、冷蔵庫など生活道具が全部備わっていて何も困らない。隣人と一緒に暮らして寂しさが減ったことが何より幸せだ」と話した。また、別の入居者イさん(79)も「流し台やトイレがある家で暮すことができ、話し相手までできて嬉しい、感謝している」と涙声で話した。
ペク・ソンギ海雲台区長は「一人暮らしの高齢者の孤独死などが社会問題となり、一カ所に住みながらお互いに頼って面倒を見られる幸せサランチェを運営することになった。幸せサランチェをさらに増やして、さまざまな高齢者福祉政策を展開したい」と話した。