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[ニュース分析]THAADの迎撃能力で国防部と専門家で意見に食い違い

登録:2016-07-11 03:05 修正:2016-07-11 07:29
国防部「北朝鮮のミサイル迎撃可能」 
専門家「実戦検証されていない」 
人口密集した首都圏はTHAADで防衛できず 
北朝鮮の欺瞞弾やSLBMへの対応も困難
米軍が2014年に行ったミサイル防衛システム(MD)の核心となるTHAADの試験発射=米国防省ミサイル防衛庁//ハンギョレ新聞社

 

 韓米両国が地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル」(THAAD<サード>)の朝鮮半島への配備を公にしたことを受け、THAADが北朝鮮の弾道ミサイルから韓国を保護するのにどれだけ役立つのか議論が再燃している。国防部は、北朝鮮が実戦配備した弾道ミサイルの大半を迎撃できると強調しているが、専門家の間では実戦経験のないTHAADの迎撃能力に疑問を呈す意見が多い。北朝鮮の放射砲の射程に収まる首都圏の防衛には無用の長物という問題点も残されている。

 国防部はTHAADに韓国を攻撃する北朝鮮の地対地ミサイルの大半を迎撃できる能力があると主張している。ハン・ミング国防部長官は10日、KBS(韓国放送)の「日曜診断」に出演し、「在韓米軍のTHAAD1個砲隊は韓国全域の2分の1から3分の2の範囲まで、北朝鮮のスカッドやノドン、ムスダンミサイルのような短距離・準中距離弾道ミサイルを迎撃できる」と述べた。 スカッドは射程が300~700キロメートルの短距離ミサイルで、韓国のほとんどの地域が射程内にあり、ノドンミサイルは最大射程が1300キロメートルで日本まで攻撃できる。ムスダンは飛距離が3000キロメートル以上で、米軍のグアム基地まで到達できるものと推定される。

 国防部は最近発表した資料で「THAADが合わせて11回の迎撃試験ですべて成功し、射程3000キロメートル級以下の弾道ミサイルに対する迎撃能力を保有していることが立証された」と明らかにした。

 しかし、こうした国防部の主張にもかかわらず、THAADの効用性について疑問を呈す声は尽きない。THAADミサイルの評価担当者のマイケル・ギルモア米国防総省兵器性能試験評価局長は昨年3月、米上院軍事委員会に出席し、「2007年から2013年の会計年度まで9回にわたる迎撃試験で、合わせて10機のミサイル迎撃に成功した」としてTHAADの弱点を指摘した。ギルモア局長は、THAADの構成部品に一貫性と安定的な信頼度の改善が見られなかった点▽THAADが極限の温度や衝撃、湿度、雨、氷、雪、砂、ほこりなどに弱い点▽THAADの正確な設置及び作戦態勢を維持するための道具と診断装備が不足している点などを問題点に挙げた。注目すべきなのは、これらの弱点が実戦の状況と関連があるということだ。特定の条件がそろった実験ではあまり影響がないかもしれないが、実践では問題になる可能性がある。

 北朝鮮の弾道ミサイルが欺瞞弾(デコイ)などを使用する場合、THAADが無用の長物になる可能性も指摘されている。昨年6月、ハンギョレの依頼で米マサチューセッツ工科大(MIT)のセオドア・フォーストール教授がTHAADの軍事的効用性を検討した結果、北朝鮮のスカッドミサイルは、弾頭が下降の段階でまっすぐ落ちてくるのではなく、ぐるぐる回るか、螺旋形の軌跡を描くなど不規則に動くため、迎撃が難しいと予想された。ノドンミサイルは、高度100キロメートル以上で欺瞞弾が運用されると、THAADが本物の弾頭と欺瞞弾を区別できないだろうと評価された。国防部関係者は「湾岸戦争でパトリオットも軌跡が不規則なスカッドミサイルを迎撃した事例があり、欺瞞弾は大陸間弾道ミサイル(ICBM)のようなレベルで運営されるもので、ノドンミサイルには欺瞞弾はない」と反論した。しかし、北朝鮮が最近ミサイル開発を急速に進めていることからすると、そう遠くない未来に欺瞞弾の運用が行われる可能性がないとは言い切れない。

 何よりもTHAADが人口の最大密集地域である首都圏の防衛に限界をあるという事実は、米国防総省も公けに認めたことがある。米国防省は1999年5月、米議会の要請で作成した「アジア・太平洋地域全域のミサイル防衛(TMD)構成のオプションに関する議会報告書」で、THAADのような大気圏・外気圏上層の防衛システムは大気圏の最低迎撃可能高度が高いため、韓国北部地域を攻撃する脅威(ミサイル)を迎撃できないだろう」と予想した。北朝鮮が休戦ラインから約40キロメートルにあるソウルなど首都圏にミサイルを発射すれば、高度が上り切れず、迎撃高度が40~150キロメートルのTHAADでは迎撃できないということだ。国防部が今回THAADを配備する地域の選定において、京畿道平沢(ピョンテク)など首都圏に近い地域よりも、慶尚北道漆谷(チルゴク)などの南部地域を考えていることを仄めかしたのも、このような事情と関係があるものと見られる。専門家の中には、首都圏はすでに北朝鮮の放射砲の射程内にあり、北朝鮮が首都圏を攻撃するため、あえてミサイルを使う理由がないという意見も多い。放射砲は、THAADはもちろん、パトリオットも迎撃能力がないというのが一般的な評価だ。

 北朝鮮が最近開発に積極的に取り組んでいる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も、THAADで迎撃することは難しいというのが大方の予想だ。ハン・ミング長官は「北朝鮮の潜水艦発射ミサイルが東海(日本海)岸の北東方向から発射されれば、THAADで迎撃できる」と述べた。しかし、慶南大学極東問題研究所のキム・ドンヨプ教授は「THAADレーダーの探知角度である左右120度に収まらない地域から発射されると、THAADを(レーダーで)捉える方法がない」と指摘した。

パク・ビョンス先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-07-10 19:08

https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/751713.html 訳H.J

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