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被害者追慕の動き続くソウル・江南の「女性嫌悪犯罪」

登録:2016-05-20 00:22 修正:2016-05-20 16:43
私が生きていることだって偶然…
「江南殺人事件」被害者に対する追慕のポストイットメモ=キム・ポンギュ記者//ハンギョレ新聞社

「女性嫌悪」現象が犯罪の導火線
「共用空間には絶対に行きたくない」
「他人事とは思えない」と哀悼の行列

 「普段から女性に無視されて犯行に及んだ」。ソウル江南(カンナム)の中心部で見知らぬ20代の女性を殺害したキム氏(34)の、この一言の陳述が呼び起こした波紋は大きかった。 19日午後、地下鉄江南駅10番出口前、前日から続いた「江南殺人事件」被害者に対する追慕の行列と、貼り出されたポストイットのメモは増え続けていた。 献花で出入口の周辺は足の踏み場もないほどだった。 この日午後7時からは200人余りの市民が集まり女性たちが自身の「女性嫌悪」経験談を証言する発言大会も開かれた。見守る人々は追慕の意味を込めてロウソクを持った。

 今回の事件を捜査しているソウル瑞草(ソチョ)警察署は「プロファイラーによる1回目の心理面談結果、女性から被害を受けた具体的な事例はなく、キム氏が被害妄想から普段被害を受けていると考えていたことが明らかになった」と説明したが、世論は今回の事件を社会的脈絡で、「女性嫌悪犯罪」と受けとめているようだ。

「江南殺人事件」被害者に対する追慕のポストイットメモ=キム・ポンギュ記者
「江南殺人事件」被害者に対する追慕のポストイットメモ=キム・ポンギュ記者
「江南殺人事件」被害者に対する追慕のポストイットメモ=キム・ポンギュ記者

 「生き残ったのはただ運が良かっただけ」。江南駅10番出口前に貼られたこの追慕メッセージの内容のように、女性たちの間で「私も犠牲者になるところだった」という心理的恐慌が、追慕の動きにつながったと見られる。 メディアでの活動を続けるチャン・スジョンさん(35)は「男性と一緒にいれば何でも無いことでも、夜遅く一人で歩いていると、男性から公然と悪口を言われたり、酔っ払いにからまれたりする」、「そうした記憶のためいつも萎縮している」と話した。 江南の繁華街の公衆トイレで不特定の女性を標的にした事件という点で、今回の事件が女性が普段感じている日常の脅威を喚起させた指摘した。 ラジオ作家のキム・ソジョンさん(34)は「特に共用空間に対する恐怖が大きくなった。 トイレ、エレベーター、路地などには絶対行かないようにしている」と話した。 翰林大のシン・ギョンア教授(社会学)は「こうした事件の2次的問題は、女性の『心理的萎縮』や『自己検閲』につながり、女性を一層無力化させかねないことだ」と指摘した。

「江南殺人事件」被害者に対する追慕のポストイットメモ=キム・ポンギュ記者

 「すべての男性を潜在的な犯罪者扱いしている」、「男女の対決に追い込みかねない」という不満の声があるのも事実だ。だが、今回の追慕の動きの背景には、韓国社会の女性および弱者に対する嫌悪が限界のレベルを越えたという認識と、その嫌悪が単純な感情ではなく、実質的な暴力につながることに対する恐怖心が作用している。 実際、2012年に帰宅した女性を拉致し性的暴行をしようとして殺害した「オ・ウォンチュン事件」や、2014年に蔚山(ウルサン)でバスを待っていた女性を酒に酔った20代の男性が刃物で数回刺し殺害した事件など、弱者である女性を狙った凶悪犯罪は絶えない。 法務研修院の「犯罪白書(2015)」によれば、「凶悪犯罪被害者」に占める女性の比率は2010年の82.9%から2014年には88.7%に増加した。 統計庁社会調査では犯罪リスクについて「不安だ」と答えた女性は、2010年に67.9%だったのが2014年にはその比率が79.6%に上がった。

凶悪犯罪被害者女性現況//ハンギョレ新聞社

 女性を標的にした犯罪を単純に「通り魔殺人」とみなし、加害者の視線を維持してきたマスコミに対する反感と、「兵役加算点制廃止」問題で高まった性別対決を煽る雰囲気の中で、女性を「キムチ女」、「テンジャン(味噌)女」と表現した「日刊ベスト貯蔵所」(イルベ)などを通して量産された、いわゆる「女嫌」現象も追慕の動きに加勢した。 この日、追慕のため江南駅に来た大学生のアンさん(25)は、「通り魔殺人とか『被疑者の夢が踏みにじられた』とマスコミが加害者の視点から報道する姿を見て怒りをおぼえた」と話した。 大学院生のイ・ジンソンさん(33)は「現在、インターネットに現れる男性たちの嫌悪を見れば、女性をまるで『2等市民』扱いして、社会の不安と疎外を弱者である女性にぶつける現象が見えてくる」と話した。 中央大のイ・ナヨン教授(社会学)は「この事件は精神疾患者が特定の女性に対して犯した特別な事件ではなく、女性嫌悪社会で起きた象徴的な事例と見なされ、こうした大きな反応を呼び起こす導火線になった」と指摘した。

パク・スジ、パク・スジン、イ・ジェウク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/744582.html 韓国語原文入力:2016-05-19 21:52
訳J.S(1994字)

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