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GPSスパイ事件、‘無理な従北追い込み’明らかに

原文入力:2012/06/22 10:07(3166字)

←"GPSかく乱技術を北韓偵察総局に渡した非転向長期囚スパイを逮捕" と警察が発表した事件について、21日検察はイ・某(74)氏ら2名を拘束起訴したが、北韓工作員の正体などは依然明らかにできなかった。 公安政局つくりのために当局が事件の実体を膨らませたのではという疑いもそのまま残った。 去る6月初め、保守新聞らは警察の発表内容をそのまま引用し特筆大書した。 アン・スチャン記者 ahn@hani.co.kr

GPSスパイ事件 起訴
検察 "軍事機密ではない" …警察の‘無理な従北追い込み’明らかに
"誰もが見られるパンフレット水準" 刑量低い 予備・陰謀容疑で起訴

問題になった装備6億ウォン台 高価で
米政府の承認があって初めて買える
検察 "実際に購入する可能性は低い"

 先月30日警察が発表したいわゆる‘位置情報システム(GPS)スパイ事件’はいわゆる‘従北追い込み’に便乗しようとする無理な捜査であったことが明らかになった。 警察が軍事機密だと主張した資料は、誰でも簡単に手に入れられるパンフレット水準に過ぎなかった。 事件を渡された検察はこのような事実を確認したが、被疑者に指令を下したという北韓工作員の実体については依然として明らかにできなかった。 それでも検察はこれをスパイ事件として起訴し論難が続くと予想される。

■スパイ疑惑 大幅後退

 ソウル中央地検公安1部(部長 イ・サンホン)は21日北韓側の指令を受けて先端軍事装備を購入し北韓に渡そうと試みた疑い(国家保安法のスパイ予備・陰謀)でイ・某(74)氏とキム・某(56)氏を拘束起訴したと明らかにした。

 2011年7月頃、中国、丹東(タンドン)で北韓工作員がイ氏に軍事用アンテナ計測装備であるNSI 4.0等軍事機密に関連した装備の入手を注文し、イ氏の要請を受けたキム氏はかつて航空会社技術研究所勤務の経歴がある知人チョン・某(62)氏を通じて装備の購入を試みたが失敗したということが検察の起訴内容だ。

 検察が彼らに適用した‘スパイ予備・陰謀’(2年以上の懲役)容疑は、これに先立ち警察が先月30日に捜査結果を発表しながら明らかにした‘スパイ目的実行’(死刑、無期または7年以上の懲役)に比較すれば大きく後退したものだ。 検察がこのように大幅後退した容疑を適用した理由は、イ氏らが収集した資料は軍事機密や国家機密とは見られないと判断したためだ。 資料がインターネットなどで誰でも手に入れられるパンフレット水準なので、イ氏らが実物装備を求めるための‘準備行為’をしたに過ぎないと判断したのだ。 検察関係者は「警察はパンフレットを入手したことを国家機密収集の犯罪行為が完了したと見たが、そのように見るには不足した点があり実物購入を試みたスパイ予備容疑で起訴した」と話した。

■収集した資料は何だったか

 <ハンギョレ>は警察が確保したという‘物証’である電子メールを入手した。 イ氏とキム氏、そしてチョン氏がやりとりしたこの電子メールを見れば、チョン氏はキム氏に4回にかけてNSI4.0等に関する資料を添付ファイルで伝えた。 この内容を確認できる添付ファイルはNSI4.0に関する資料だけだった。 この資料はこの間警察が最も重要な証拠として挙げたものだ。 この資料は1ページ分量のハングルファイル(hwp)であるが、実際の装備を撮った写真と緒元情報を記入した表、メーカーの中国事務所の住所と連絡先が含まれている。 この資料は全て装備メーカーであるニアフィールドシステム社のインターネット ホームページに公開されたものなどであることが確認された。

 この他にもチョン氏はキム氏に‘ステルス’、‘SH-2’、‘操縦士ヘルメット’等の軍事装備と関連したと見られるタイトルをつけたファイルを伝達した。 このファイルはダウンロード期間が経過しており内容は確認できないが、ファイル容量が小さくNSI4.0に関する資料と同様の水準だったものと推定される。

 これに先立ち警察がこのような資料の軍事機密性検討を依頼した軍の専門家2人とも<ハンギョレ>に‘軍事機密の有無を云々する水準の資料ではなかった’と明らかにしたが、警察は軍事機密に該当するという主張を曲げなかった。 だが、結局イ氏らが収集した資料がインターネットで誰でも簡単に手に入れられる資料であることが明らかになり恥さらしをすることになった。

■実物を購入する能力があったか

 検察はイ氏らが実物を購入するためにこのような資料を収集したと見ている。 だが、NSI4.0の場合だけ見ても、実際に彼らが実物を購入する可能性は非常に低い。

 NSI4.0は米国ニアフィールドシステム社が製作するアンテナ性能点検装備だ。 市価 6億ウォン相当の高価なこの製品は、軍事専用と指定された物品ではないが、米国商務部の承認なしにか購入できない。 ニアフィールドシステム社製品の韓国配給を受け持っている業者関係者は「本社が輸出する時、米商務部規定に抵触しないかを毎度確認している」として「どこの国に行くものなのか、顧客が誰なのかが分かってこそ販売可能な製品であり、個人が購入することは難しい」と明らかにした。 仮に購入しても本社から職員が現支に来て直接設置する装備だ。

 キム氏とチョン氏がやりとりした電子メールにはこの物品をなぜ購入しようとするのか、実際に北韓に渡そうとしたのかに関する内容は全くない。 彼らがNSI4.0がどんな装備なのかを正しく知っていたのかも疑問だ。 資料収集を担当したチョン氏はこの装備の名前さえ正しく知らず、電子メールに‘NCI 4.0’と表記してもいた。

 拘束されたキム氏とイ氏は主に北韓と農産物などを取り引きする事業を営んできた人々で、武器取引や軍需業などとは縁がない。 直接資料を収集したチョン氏は航空会社技術研究所で仕事をしベンチャー企業を経営したりもしたが、2004年に自身の会社が吸収合併された後、8年間は事実上失業状態だ。 検察関係者も「実物購入の可能性が低いのでスパイ予備・陰謀で起訴した」と話した。

 これに伴い実行される可能性が低い行為を予備・陰謀したことだけで処罰を受けなければならないかという論難も予想される。

■公安追い込み 面白味だけを狙った不良捜査

 警察が初めてこの事件を発表する時、大多数の言論はイ氏が‘非転向長期囚’出身という点に焦点を合わせた。 政界で従北論難が真っ最中であった。 多くの保守言論は非転向長期囚出身に対北韓貿易を許容した過去の政府を批判し、非転向長期囚出身をひっくるめて‘いつでもスパイになりうる人物’と非難した。 だが<ハンギョレ>の取材の結果、イ氏は1988年に‘思想転向書’を書いていたことが明らかになった。

 イ氏らが収集したという軍事機密を巡りあらゆる憶測と誇張が乱舞した。 一部言論では彼らが収集した位置情報システム関連技術が、北韓に渡され去る4月には首都圏位置情報システムかく乱攻撃に使われたかのように報道した。 NSI4.0技術が渡ったとすれば、北韓のロケット実験が成功したかもしれないという報道まで出てきた。 警察の不良捜査と保守言論の虚偽・誇張報道があいまって公安追い込みだけが行われたわけだ。

チョン・ファンボン、ユ・シンジェ記者 bonge@hani.co.kr

原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/539081.html 訳J.S