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[ニュース分析]「天安」 爆沈事件、船を真っ二つにできなかったシミュレーション

登録:2016-03-28 02:15 修正:2016-03-31 15:53

 インターネットで「天安艦爆沈事件」と検索すれば、主に保守性向の言論社の記事が出てきます。 一方、「天安艦沈没事件」で検索すれば、ちょっと別の雰囲気が感じられます。同じ事件が別の名前で呼ばれる理由は、まだ天安艦の沈没原因を巡って議論があるからです。政府の発表に疑問を提起してきたシン・サンチョル前民軍合同調査団調査委員の国家名誉毀損裁判の判決が来週(1月25日)にあります。 国内外の耳目が集まりそうです。この5年余りの裁判過程をたどってみました。

1月25日に予定されたシン・サンチョル前天安艦事件民軍合同調査団調査委員に対する国家名誉毀損裁判があった。シン前委員は合同調査団の発表と違い、天安艦座礁説などを主張して来た=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

政府と軍当局による天安艦事故原因の
隠蔽・捏造というシン・サンチョル氏に対し
検察が名誉毀損等で起訴した事件
5年間引き延ばした挙句 1審宣告が目前に
果して過度な批判と疑惑提起だったのか

 1月21日午後、ソウル江南(カンナム)区駅三(ヨクサム)洞に位置するイ・ガンフン 弁護士(47) の事務室(法務法人トクス)は、腰の高さ程に積み上げられた書類の山で雑然としていた。あらゆる種類の書類が無音の戦争を行なっていた。 書棚の片隅に置かれていた厚い書類の束を二つ取り出したイ弁護士が言った。「5年以上この訴訟を担当してきました。金銭的な損失は相当なものでした」 (笑い)

 彼の取り出した書類は、検察が「シン・サンチョル前天安艦事件民軍合同調査団調査委員(サプライズ代表)が虚偽の事実を適示して国家機関及び構成員の名誉を毀損した」という理由で2010年8月起訴した事件と関連したものだった。法院(裁判所)(ソウル中央地方法院刑事合意36部イ・フングォン部長判事)はこの25日に宣告の予定だ。 検察は先月7日、シン前委員に懲役3年を求刑した。

 「法院が果して天安艦事件報告書をどのように判断するか、非常に注目しています。 もし法院が (調査結果に欠陥が多いという弁護人側の) 問題提起を受け入れるならば、大変な議論の渦中に巻き込まれるでしょうから」 イ弁護士が若干硬い表情で言った。

 ソウル中央地検公安1部(2010年当時イ・ジンハン部長)がシン前委員を起訴するまで、キム・テヨン当時国防部長官とキム・ソンチャン当時海軍参謀総長などが相次いでシン前委員を告訴・告発した。シン前委員は2010年3月26日の天安艦事故(乗組員104人中46人が死亡し艦艇は沈没) 以後、政府と軍当局が天安艦事故原因を隠蔽・捏造しているという趣旨の文と天安艦座礁説などをインターネットコミュニティであるササプライズの掲示板に載せた。シン前委員の起訴が政府の意思に反する世論を遮断しようとする政治的意図だという批判と、シン前委員の過度な主張により「天安艦陰謀論」が拡散しているという世論が対立した。

 「シン・サンチョル裁判」は基本的にシン前委員個人の有罪無罪を争う裁判だが、天安艦事件と関連した多くの疑惑を確認するための事実上最後のチャンスと思われた。シン前委員が虚偽事実を適示して国家機関を誹謗しようとする目的があったかどうかを判断するためには、2010年5月20日に民軍合同調査団が発表した天安艦事件報告書を検証しなければならなかったからだ。この5年余の間、軍関係者と学者などが法廷に出て証人訊問を受けた。イ弁護士はこの裁判で何を感じ、また経験しただろうか。インタビューは一時間余り行なわれた。

「爆沈による船の切断を証明するためのシミュレーション
技術具現ならず
吸着物質とされた AlxOyも
調べてみたらこの世に存在しない物質」

シン前委員の弁護を引き受けたイ・ガンフン弁護士= ホ・ジェヒョン記者//ハンギョレ新聞社

弁護人が証人呼ぶのも困難だった裁判

-シン・サンチョル前委員は事故原因を政府が故意に隠そうとしているなどの文を書いた。

 ジャーナリストが書くコラムのように精製されてはいなかったと見るが、そうしたものが皆刑事処罰につながるならば、民主主義社会で表現の自由が保護され得るか。 国家の業務に対する問題提起と疑惑提起は幅広く認められなければならない。

-合同調査団は「魚雷攻撃」と見られる多くの科学的根拠を提示した。

 合同調査団が発表した天安艦報告書を裁判の中で検証する過程を経た。重要な物証と既存の心証がもつれたまま組み立てられている感じがした。

-科学者でない弁護人なのに、どうして確信できるのか?

 天安艦報告書作成に関与した専門家を訊問する過程で、その専門家たちも確信を持って作成したのではないという印象を受けた。 報告書提出期限が迫っていて、2010年5月15日に魚雷推進体が発見されると「答はこれだね」と結論を出し、調査を急いで終結させた感じだ。思い出してみてください。2010年5月20日合同調査団は確かに中間発表と言った。ところが合同調査団が解散してしまって、それが最終発表になってしまった。

-裁判過程で天安艦報告書のどんな点がいい加減だと指摘されたのか?

 天安艦は真っ二つになった。 それを立証しようと合同調査団が (魚雷爆発) シミュレーションを行なった。シミュレーション結果でも船が二つに切断されたものと思っていたが、報告書をよくよく見たら完全に切断されたわけではなかった。それで切断されなかった理由を問いただしたら「シミュレーション技術に限界があって具現は成功しなかったが、切断されたという結論は正しい」という返答だった。 (魚雷爆発で発生したという) 吸着物質として提示された 「AlxOy」という化学公式も、調べてみたらこの世に存在しない物質だった。 関係者が「定量分析ができなくてそうした」と説明していたが、結局は吸着物質が正確に何であるのか分からないという事実を明らかにしたに他ならない。 合同調査団の米国側代表トマス・エクルス准将が2010年7月13日付電子メールで「白色吸着物質の分析内容に同意しない」として調査報告書から削除するか付録に移すことを要求した事実が遅まきながら明らかになった。 去年10月26日、龍山(ヨンサン)の国防部調査本部に行って魚雷推進体の現場検証をした。公開された魚雷設計図の数値と一致するかどうか魚雷の長さを測ってみたら、違っていた。あきれてしまった。報告書には「設計図面と証拠物の長さは正確に一致する」となっていた。ユン・ドギョン合同調査団長は『発表時には知らなかったが、後で知った』と説明した。

-だからと言って、既存の発見された魚雷推進体が天安艦を攻撃した物ではないと主張することはできないのではないか?

 数値が異なるなら異なると報告書に書いて、科学者や市民社会がこれを客観的に判断するようにさせるべきだったということだ。議論を避けるためにわざとこんなふうに書いたのかという気がする。

-天安艦魚雷攻撃の発表が間違っているということか?

 合同調査団発表が当たっているかもしれない。とにかく最も有力な科学的仮説と証拠を持っている説明だ。 私が主張するのは、爆沈説が批判される可能性のあるそのような部分については十分な説明がないまま、時間に追われて報告書が作られたということだ。見ようによっては、天安艦事件に対する多くの疑惑提起は合同調査団が自ら招いたものだ。 民間航空機でも事故が起これば2年は調査してから発表するのに。

-合同調査団の調査期間は?

 92日間だった。

-裁判過程で他の困難さはなかったか?

 証人を呼ぶ過程が困難だった。検察側の証人は大部分裁判に出てくるのに、私たちの証人は出てくること自体が難しい。天安艦引揚の時関与した会社の社長を呼ぼうとしても避けてしまい、理事クラスが代わりに出てきて『よく知らない』と言ってしまうので残念だった。今後も政府とあれこれ事業を続けていかなければならない人たちは、法廷陳述自体が難しい。苦い思いをした。

- 天安艦の遺族たちは、天安艦爆沈説に対する疑惑提起を名誉毀損と考える。

 息子が戦死者として名誉な処遇を受けることを願うその心は充分に理解する。ただ、天安艦事故の原因が正確に何であるかを確認することは別の問題だ。 国の発表は何かの聖域のように置いて論ずる性質のものではない。

天安艦の事故海域近くで発見された魚雷推進体。「1番」と書かれた字が歳月と共に腐食して、今ではかすかに見える=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

1番と書かれた魚雷の爆薬量、誰も知らず

 ハンギョレは検察の公訴状と公判訊問調書などを入手してイ弁護士の主張をもう少し綿密に検討してみた。 合同調査団の調査結果は科学に基盤を置いていたが、根拠が緻密ではなく攻撃され得る点が一部見えた。

 シン・サンチョル弁護団が見つけた魚雷設計図と魚雷発見物の間の数値の誤りについて、ユン・ドギョン前合同調査団長は去年11月13日法廷に出席して「発表後に謝りを知った。(中略)ミスだと思った。(中略) この問題を専門的に扱う分科があったから (中略) ただ私たちが大体見た感じでも一致しているように見えたので、そのままそれに同意した」と答えた。 合同調査団の発表以前に充分に誤りを修正し検討する過程が足りなかったことが伺える返答だ。

 また、合同調査団の誰も「1番魚雷」の爆薬の量がどのくらいなのか知らなかった。2014年9月29日の公判で合同調査団のファン・ウルハ爆発類型分科委員は、「1番魚雷」の高性能爆薬の量がどのくらいなのかは分からないと証言した。 彼は「情報分科に要請したけれども知りようがなかった」と述べた。1番魚雷の爆薬の量がTNTに換算した場合250キロなのか350キロなのか、はたまた400キロ以上なのか分からない状態で「1番魚雷」を爆発体と見なしたわけだ。

 天安艦事件の生存者の中で水柱を見た者がいないということは論議の的であった。 船体の下で巨大な爆発があったにも拘わらず、船内にいた人々が身体に大きな衝撃を感じることができなかったような証言が裁判過程で出てきた。 合同調査団のシミュレーション結果と違い、これは天安艦の沈没が魚雷攻撃ではなく他の衝撃で始まった可能性を排除することができない情況だという解釈が可能である。

 事故当時天安艦左舷側で肉眼観測任務である「見視」に立っていたファン一等兵は、2012年8月27日法廷に出席して「水柱は見られなかったが、水滴が跳ねた」と述べ、「顔にスプレーで水をかけられたような感じを受けた」と言った。 天安艦が水中爆発でバブルジェットによる逆V字運動をしたとすれば、音波探知室の勤務者が爆発運動に最も影響を受けたものと推定される。 事故当時音波探知室勤務者であったキム下士官は2013年12月9日法廷に出席して「倒れはせず、横に弾かれた」と証言した。 裁判長が「椅子に座ったままお尻が椅子から離れはしなかったということか」と尋ねるとキム下士官は「はい」と答えた。 事故当時天安艦右舷側で「見視」に立っていたコン下士官は2012年7月9日法廷で「事故当時周辺が明るくなること(閃光)も見られなかったのか」という質問に「ずっと暗い状態だった」と答えた。

 合同調査団のシミュレーション検証過程で天安艦の艦首と艦尾が分離される形態で真っ二つになる結果を得ることができなかったことも、裁判過程で確認された。合同調査団船体構造及び管理分科委員として活動したチョン博士(韓国機械研究院責任研究員)は2014年4月28日法廷で 「シミュレーションを通しては完璧に切断されることは模写できなかった。それが現在のシミュレーション技術の限界だと考えている」と述べた。

 ファン・ウルハ委員は2014年9月29日の公判で「私たちが当時、時間はない、結果は早く出せと言われて、局所部位のシミュレーションをした。 (中略) 概算でこのくらいの範囲になるから一度精密分析をして見るように言って渡したものと思う」と証言した。 時間に追われて研究が緻密に進行され得なかったのではないかという疑問を抱かせる証言だ。

自身が運営するインターネットサイトで「軍が天安艦の沈没原因を操作した」という疑いを提起し続けた容疑で起訴されたシン・サンチョル・サプライズ代表が25日午後、ソウル瑞草洞のソウル中央地裁で懲役8カ月執行猶予2年を宣告された =シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

「天安艦爆沈事件ではなく未完の事件だ」

 合同調査団の調査結果に一部誤謬が発見され、急いで作成された側面が多いが、法廷陳述を全体的に検討して見れば合同調査団の調査委員たちは魚雷爆発説に重きを置いているものと見える。 だからと言って、機雷爆発説や座礁説の提起を国防部の名誉を毀損せんとするものだとして国家が処罰に乗り出すのが正しいかどうかについては、議論にならざるを得ない。ファン・ギョアン首相は去年11月の国定歴史教科書の告示確定発表記者会見で、天安艦事件を「爆沈」と規定し歴史教科書に載せなければならないと主張した。 そんなふうに言っていいのだろうか。大半のマスコミは天安艦事件を「天安艦爆沈」と断定して報道する。これもまた、そんなふうに言っていいのだろうか。 ロシア調査団は機雷爆発の可能性を排除しない報告書を発行している。

 1964年、ベトナム近海のトンキン湾でアメリカ第7艦隊所属の駆逐艦マドックス号などが北ベトナム軍の魚雷艇の攻撃を受けたとされた。米国は直ちに報復爆撃を加え、この事件をきっかけにベトナム戦争(第2次インドシナ戦争)の幕が上がった。しかし1971年ニューヨークタイムスのペンタゴンペーパーなどの報道で、この事件はでっち上げられたものであることがと明らかになった。 もし米国政府が性急にトンキン湾爆沈事件と歴史教科書に載せたとしたら、その結果はどうだったろうか。

 シン・サンチョル前調査委員は1月22日ハンギョレとの通話で「天安艦沈没事件は科学的かつ合理的な疑惑から自由でない、真実が糾明されていない未完の事件だ」と主張した。シン前委員の見解に同意しないとしても、政府がこれに対し処罰に乗り出し科学の領域を法廷に転嫁するという韓国社会を、世界はどのように評価するだろうか。25日のソウル中央地方法院刑事合意36部の判決に、世間の視線が集中している。

ホ・ジェヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-01-22 20:49

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/727523.html 訳A.K

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