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[ニュース分析]教科書が自虐史観? 敗者として登場するのは日本帝国主義と独裁

登録:2015-10-19 03:39 修正:2015-10-22 22:40
8種類の検定教科書に記述された韓国歴史の功罪(1)//ハンギョレ新聞社

 「歴史を通じて未来を作っていくという意味で、自虐の歴史観、否定の歴史観は絶対避けなければなりません。私はその点で、韓国の現代史を『正義が敗北し、日和見主義が勢力を伸ばした屈辱の歴史』だと言い張る主張は、この地から必ず消えるべきだと思います」

 金武星(キム・ムソン)セヌリ党代表が先月2日、国会交渉団体代表演説で、現行の検定韓国史教科書のいわゆる「自虐史観」を批判した内容だ。「自虐史観」とは、1990年代の日本社会党政権による「植民地支配に対する反省」(村山談話)に反発して、日本の右翼が使用した言葉だ。日本の右翼勢力の用語を使うことも不適切だが、韓国の検定教科書が韓国の歴史を自虐的に記述しているかどうかについて、ほとんどの専門家は「そうではない」と答えている。

 実際、18日、ハンギョレが検定の高校韓国史教科書8種類を分析した結果、すべての教科書が教育部の執筆基準に基づいて大韓民国の解放・民主化・産業化の歴史を非常に肯定的に記述していた。アン・ビョンウ韓神大学教授(韓国史学科)は、「検定教科書はすべて韓国の独立運動過程、経済的達成、民主化などをよく記述しており、私たちの民族が成し遂げた発展的な姿を肯定的に捉えている」と述べた。

植民地時代に関する記述では独立運動を強調 
親日行為に関する内容はほとんどない 
朴正煕元大統領の独裁と経済成長、ともに記述 
大きく分けると解放・分断の克服・民主化 
国民が主体となった「勝利の歴史」

■親日と独立運動

 現行の検定高校韓国史教科書の日帝植民地時代の記述を見ると、むしろ親日の歴史に対する省察が足りないと思われるほど、「親日」と関連した内容がほとんどない。一方、8種類の教科書すべてが「独立運動」についての部分は、教科書全体の6つのセクションの一つが「日帝強占と民族運動の展開」に当てられるほど、比重が大きい。教育部の執筆基準が親日よりも、独立運動の記述を強調しているからだ。

 2009年教育課程の執筆基準によると、「日帝強占期、わが民族が国内外で展開した抵抗運動について把握する」とか「3・1運動の展開過程を把握して」などの独立運動の記述についてのガイドラインが設けられている。これにより、8種類の教科書の独立運動に関する記述は大同小異だが、例えば、未来エン発行の教科書260ページには、「3・1運動は(中略)すべての階層が参加した私たち(朝鮮半島の人々)の歴史の中で最大規模の民族運動という点で大きな意味がある。これにより、わが民族の団結した独立の意志を世界中に知らしめた」と書かれてある。

 これとは対照的に親日行為をした人物や親日行為に関する記述に具体的なガイドラインがない。大韓民国政府樹立の過程で「日帝の残滓を清算するための努力を把握」する程度の基準があるだけだ。金星出版社372ページに「李承晩(イ・スンマン)政権は親日派の清算より反共が優先だと主張しながら、反民特委の活動を公に反対した。 (中略)結局反民特委は本格的な活動を開始してから数カ月も経たないうちに解体されてしまった」程度の記述がある程度だ。

■独裁と民主化・経済成長

 政府与党とニューライトの学者たちは、「李承晩元大統領が朝鮮戦争当時、全体主義と統制経済システムから自由民主主義と市場経済システムを守った功労を認めなければならない」「朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領などの軍事独裁を実施した指導者たちにも、経済成長の功労を認めるべきなのに、検定教科書が独裁のみを強調している」と主張している。アン・ビョンウ教授は「李承晩元大統領が民主主義を破壊して追い出されたのと、朴正煕大統領が独裁をしたことは事実であるため、それを記述したとしても自虐史観とは言えない」とし「現行の検定教科書は歴史的事実に照らして功罪を公正に記述している」と説明した。

 教育部の執筆基準に基づいて作成された8種類の教科書のこの部分の記述は似通っているが、例えば、飛翔教育の教科書の朴正煕政権に関する記述を見ると、「第2次経済開発5カ年計画では、(中略)産業構造の近代化に努めた。この際、京釜高速国道が建設され、ベトナム特需のために経済が急速に成長した」(374ページ)」「(釜馬民主抗争で)学生たちは独裁打倒、貧富の格差の解消などを主張し、ここに市民が参加してデモが広がった。(中略)維新体制は事実上幕を下ろした」(368ページ)と述べて朴正煕政権の光と影を共に記述している。

 特に専門家たちは、韓国現代史を民主化と産業化の観点から記述することは、世界のどの国とも比較できない「肯定的な歴史記述」だと強調する。キム・ハンジョン韓国教員大学歴史教育科教授は「韓国は経済成長だけでなく、第2次世界大戦に巻き込まれた国としては珍しく民主化にも進展が見られた。これを浮き彫りにするのは自虐史観ではなく、肯定的な史観」だと述べた。政治・経済成長と民主化を同時に成し遂げた点を強調するのは、韓国を肯定的に記述する“クライマックス”という指摘だ。

■植民地・独裁を克服した民主化・産業化の歴史

 政府与党の自虐史観の主張は、2000年代半ばのニューライト学者たちの主張に根付いている。ニューライトは無から有を生み出した韓国近現代史の肯定的な面を正しく教えるべきだと主張している。検定教科書が大韓民国樹立の成果を高く評価するよりも、南北分断を強調し、経済成長を肯定的に記述するより独裁と財閥・貧富の格差を否定的に記述しているとして大きな不満を抱いている。しかし、彼らの主張は、事実上、歴史の暗い部分や過ちについてまったく言及しないことを求めているようなものだ。

 歴史教育の目標は、過去を反省し、現在と未来に二度と不幸な歴史が繰り返されないようにすることだ。専門家たちは、過去の過ちに対する反省のない歴史教育は、歴史というよりは「国家広報」と看做すべきだとして懸念を示している。ソウル大学国際大学院のパク・テギュン教授は「韓国近現代史研究の一般的な前提は、『植民地を克服し、分断という困難な状況の中でも、経済成長と民主化を成し遂げた歴史』という点だ。その前提の上で「私たちが継続的にこのような成果を繋いていくためには、過去にあったどのような問題を解決することで続けることができるのか」という観点から歴史を記述しなければならない。それを自虐史観だとするなら、歴史学としての任務を放棄したも同然だ」と指摘した。

 現行の教科書の歴史記述を肯定的に捉えるのか否定的に捉えるのかは、“大韓民国の主体”を誰に求めるのかという問題とも関連している。大韓民国の主体を統治者と支配層とするなら、親日と独裁について記述するのは、韓国の歴史を否定的に教えることになる。しかし、大韓民国の主体を国民であり、市民とするなら、私たちの歴史は親日と独裁を独立運動と民主化運動を通じて克服した“勝利の歴史”となる。

チョン・ジョンユン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015-10-18 19:54

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/713335.html 訳H.J

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