本文に移動

[記者手帳]安倍談話に潜む危険な歴史観

登録:2015-08-17 01:48 修正:2015-08-17 07:05

 日本人の近現代史認識の底流を貫いているのは、おそらく小説家・司馬遼太郎(1923〜1996)が完成した「司馬史観」ではないかと思う。その司馬史観を明確に示めしているのが、彼が1968年から産経新聞に連載した長編歴史小説『坂の上の雲』だ。

 小説は、現在の愛媛県に当たる伊予松山藩出身の3人の若者の生きざまを描いている。近代化に成功した「明治日本」で青雲の夢を抱いた彼らは、それぞれ日本陸・海軍の将校と著名な文筆家に成長する。この若者たちが直面した時代の課題はロシアとの戦争だった。ロシア帝国主義の魔手が朝鮮に伸びてくることを防ぐために、日本は戦わなければならなかったし、遂に勝ったというのが小説の大きなテーマだ。この歴史観からすると、明治時代の日本が朝鮮を併合するために決行した日清戦争と日露戦争は良き時代の美しい記憶となり、1931年の満州事変から始まった「昭和の戦争」は、明治時代の先輩たちが築いた朝鮮併合などの成果を一挙に吹き飛ばしてしまった、間違った戦争と解釈される。このような歴史認識は14日に発表された安倍談話にも徹底的に反映されている。

 安倍談話は「百年以上前の世界には、圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、アジアにも押し寄せた。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけた」とした。続いて、かつて成功した日本が世界恐慌などで大きな打撃を受けて孤立され、これを打開するために戦争を繰り広げて敗戦したという認識を明らかにしている。

 談話が間接的ながらも反省し謝罪しているのは、満州事変から太平洋戦争につながる「昭和の戦争」だけで、朝鮮を強制併合する過程で繰り広げた「明治の戦争」についてはむしろ美化している。談話は「昭和の戦争」の相手だった米中に対する遺憾の表明にはなり得ても、韓国に対する謝罪ではないだけではなく、朝鮮半島の強制併合を正当化しようとする危険な史観を潜ませている。

キル・ユンヒョン東京特派員//ハンギョレ新聞社

 15日の朴槿恵(パク・クネ)大統領の光復(解放)節の祝辞を聞き、深く絶望する。朴大統領は、「(安倍談話に関しては)私たちにとっては残念な部分が少なくないのが事実」としながらも、日本を真っ向から批判するのは控えた。1995年当時、村山富市首相は、日本のアジアに対する植民地支配を明確に謝罪して反省し、2010年、菅直人首相は、日本の朝鮮併合が韓国人の意に反して行われたと認めた。

 安倍首相は1910年に始まった日本の朝鮮侵略と植民地支配をいかに捉えているのか。談話はそれを語っていないからこそ怖いものになっている。「3・1運動に建立された大韓民国臨時政府の法統」を守護するという憲法上の義務を負っている朴大統領は、自分の目で談話を熟読したのだろうか。

東京/キル・ユンヒョン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015-08-16 20:23

https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/704648.html  訳H.J

関連記事