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テレビでスターは笑っているけど…放送局で働くのは非正規雇用ばかり

登録:2015-06-11 22:13 修正:2015-06-12 22:21
放送会社は報道などを通して非正規雇用や「熱情ペイ」問題を批判してきたが、内部をのぞいて見ればあらゆる形態の非正規雇用が集約されている。写真は芸能番組の場面と撮影現場の様子=各放送会社提供//ハンギョレ新聞社

 「外注助演出の状況も劣悪です」「外国映画の翻訳作家には誰も気を使いません」「ドラマ補助作家も取材して下さい」。 先月6日、いわゆる“熱情ペイ”(訳注:仕事に対する情熱につけこんだ低賃金)で働いている放送局の末端作家の劣悪な業務環境についての記事が掲載された後、放送従事者の情報提供が相次いだ。 末端作家は勤労契約書も書かないフリーランスとして働きながら、頻繁な夜勤にも拘らず月給100~120万ウォン(約11~13万円)を受け取っていたし、自らを「雑家」と呼ぶくらいに、ものを書くよりお使いなどの雑用が多かった。 問題はこんな現実が末端作家に限った事ではないという点にある。

 ここで質問。 人気芸能番組「スーパーサンデー・1泊2日」(KBS2)のスタッフ80人余のうち、正社員は何人いるか? 正解は6人だ。 KBS(韓国放送)所属のディレクター(PD)6人を除く残りのスタッフは、下請会社(カメラチーム、VJチーム、音響チーム、照明チーム、同時録音チームなど)、派遣労働者、フリーランス(放送作家など)等、全て非正規雇用で成り立っている。 KBSのある芸能PDは「『1泊2日』はそれでも正社員が多い方だ。正社員が2~3名の番組も多い」と言った。

 放送会社はニュース報道などを通して“熱情ペイ”と非正規雇用問題を批判してきたが、実際のところ、自らが巨大な「非正規雇用のデパート」にほかならない。 派遣、用役(下請=外注)、アルバイト、契約職、フリーランスなど韓国社会に存在する大半の非正規雇用形態を網羅している。 視聴者が楽しむ華やかな舞台と面白い見せ場の裏には、非正規労働の涙と汗が隠れている。

■ 下請とフリーランスが作る放送?

 現在芸能とドラマ、時事教養などほとんどの番組は下請と派遣によって作られる。 SBSのある芸能PDは「番組によって少しずつ違うが、新しい番組が決まれば放送会社の正社員のPDが、照明チーム、音響チーム、カメラチーム、同時録音チームなど5~6の外部会社とそれぞれ契約を結んで全体のチームを立ち上げる」と説明する。 下請を引き受けた各チームのチーム長は、さらにチーム員の一部を非正規雇用で調逹することもある。 カメラチームがまたVJチームに下請に出すというふうに、連鎖的な下請にもなる。 この芸能PDは 「リアルバラエティー番組の登場で派手な撮影技法などが要求されるようになって、より多くのカメラが必要になり、10数年前、VJなど野外撮影要員を皮切りに非正規雇用に頼るようになった」と語る。 4~5年前からはFD(進行要員)だけを専門に派遣してくれる会社も別途に生まれた。 何人かが“解散・集合”式に動く場合もある。 地上波ドラマの仕事を主に担当する経歴2年目のFDは、「正式に会社を立ち上げたのではないけれども、ドラマが始まればFDが何人かチームのように一緒に動く」と言った。

番組が決まれば正社員PDが
照明・音響・カメラなど下請させ
カメラチームがVJチームに孫請けする構造
芸能番組、PD以外は大部分が非正規雇用
ドラマ・時事教養も同じ
気象キャスターはフリーランサーに任す

収益性落ちた放送会社の危機意識
2000年代中後半から外注化が普遍化

スタッフはろくに睡眠も取れずに働いても
「月150万ウォン」
「業種別標準契約書など改善案が必要」

 フリーランサー(特殊雇用職)も大幅に増えた。 気象キャスター、放送作家、ドラマ作家、映像翻訳家などが代表的である。 彼らは契約書もなしに働く場合も多い。 2000年代の初めまで、気象キャスターは正社員だった。 1995年、YTNのキム・ジヒョン気象キャスターが気象記者として入社して、視聴者の目を引くこともあった。 しかし2000年代後半からは契約職が増え始め、その後はさらにフリーランスに変わった。 地上波の気象キャスターN氏は「身分はフリーランスなのに、放送会社報道本部の所属で記者の指示を受ける奇形的な構造だ」と話す。 契約職の時はそれでも基本給にニュース当たりの手当てが出たが、フリーランスになったら基本給はなく、手当て(出演料)だけを受取る。 しかし他社の番組に出演することはできない。 行事の進行など他のバイトをして稼ぐこともある。Nさんは「フリーランスと言いながら、他社の番組に出られるようにしてくれるのでもなく、能力に見合ったペイをくれるわけでもない。天気報道に必要な最小人員だけでも正社員採用してほしい」と訴えた。

 外国映画、ドラマ、アニメーションの字幕、時事教養番組で外国語の部分を翻訳する映像翻訳家もフリーランスだ。経歴10年目の映像翻訳家T氏は「時事教養番組の場合、外国語の出る部分、10分当たり 3万5000ウォン~4万ウォンをもらうが、規定があっても流動的なので翻訳料を削られる場合が多い」と語り、「不満を言えば 『他へ行って仕事出来ないようにしてやる』といった類の“甲の横暴”にも苦しめられる」と打ち明ける。 地上波のある幹部級PDは「ほんの20年前までは、放送会社で非正規雇用は殆どなかったが、今は正社員の方が少ない」と言った。

■ 150万ウォンを脱する事ができない末端クラス…放送の質低下へ

 非正規雇用だからといって全てが劣悪な境遇なわけではない。 外注製作要員の中でベテラン古参クラスは相当な収入を上げている人もいる。 KBSのある芸能PDは「韓流が始まりドラマ芸能の製作規模が大きくなって、一つの下請会社が1回当り1000万ウォン(約110万円)以上を受け取ることもある。いくつかの番組の仕事を同時に引き受ける場合もある」と言った。「主に地上波で仕事をする経歴10年のフリーランスの編集監督は、1回当り250万ウォン(月1000万ウォン)を受け取ることもある」とSBSのある芸能PDは語る。

 問題は下請会社の中でも「貧益貧・富益富」(富める者は益々富み、貧しい者は益々貧しくなる)の現象が発生していることだ。 下請会社は一部のスタッフは正社員として雇用し、“末端クラス”は一時的な契約職やアルバイトで充員する場合が多い。 下請会社の代表が放送会社からお金をたくさん受け取っても、末端クラスの受け取る収入は普通月150万ウォン程度、多くても200万ウォンどまりだ。

 ある外注会社の代表は、「仕事がずっとあるわけではないから、正社員を採用したら人件費があまりにも多くかかる。正規の新入社員を採用するにも3カ月くらいはインターン期間を置く」と説明する。FDのK氏は「FDの仕事のない時は照明や音響チームの末端として日当7万ウォンでアルバイトをする」と言った。 2004年から去年まで10年間外注プロダクションで働いたある外注PDは、「作家だけでなくFD、AD、PD、皆“熱情ペイ”で働いている。助演出と末端作家は一番よくない方に属する」と言った。 FDのKさんは「私は月200万ウォン稼いでいるけれども、この程度ならこちらの業界では収入の良い部類に属する。しかしドラマが放映される5カ月間、一日2時間も寝られないなど労働強度を勘案すれば、正当な待遇とは言えない」と語った。

 放送従事者のこのような劣悪な環境は、仕事に対する動機付けを弱化させ組織所属感を落として、長期的には放送番組の質低下につながる可能性があるという憂慮の声が高い。 映像翻訳家T氏は「字幕で翻訳事故が起こる原因は、放送会社が製作コストを減らそうと大学生をアルバイトに使ったことが大きい」と指摘した。 最近ある地上波放送社のニュースでは、新入FDが生放送中に画面の前を通って問題になった。 地上波の幹部級PDは「契約職や外注会社の場合、契約延長に必死にならざるを得ないから、経営陣の好み合う番組、視聴率が最優先の番組ばかりを作ることになる」と話す。

■ 2000年代に入り急速増加…代案は?

 放送街の非正規雇用は20数年前から現われ始め、2000年代中後半に普遍化した。 1997年のIMFが分岐点だった。 地上波の幹部級PDは「IMFで社会全般の景気沈滞とともに放送産業も影響を受け、非正規雇用化が始まった」と語る。 国家人権委員会が2011年に発表した「人権状況実態調査」は「正社員中心の雇用形態から 2000年代の初中盤に契約職の非正規雇用が拡がり、2000年代中後半からは契約職からフリーランス化が進行した」と分析した。

 番組製作人員の外注化・下請化もまた同じような時期に進行した。 1990年代初めまでは放送会社がほとんど独占的に番組を作ったが、1991年に外注製作共同生産方式が導入されるとともに、外注製作(義務外注の割合は3%)が始まった。 2001年義務外注割合が31%にまで急増し、外注会社が雨後の竹の子のように生まれた。 2007年の非正規職保護法施行は非正規雇用がさらに増える契機となった。

 ケーブル、IPTVなど新しい放送プラットホームと総合編成チャンネルの登場と共に、収益性が落ち始めた放送会社の危機意識も、非正規雇用の拡散を煽った。 非正規雇用の比重を高めれば人件費を節減できるからだ。 地上波の別の幹部級PDは「放送の仕事を望む人が依然多いので、低費用で豊富な労働力をいつでも使うことができるという使用者優位の労働市場構造も一役買っている」と言った。

 放送産業の非正規雇用問題は韓国社会の一般的な非正規雇用の問題点に放送産業の特殊性まで加わって、解決策を見出すのは容易なことではない。 業界では「放送産業は創意的な人力が必要で自律競争が重要であるから、全てを正社員化するのは可能ではない」とする意見も多い。 従事者の中には非正規雇用の身分でいくつかの放送会社の仕事をする方を好む人もいる。

 しかし適切な賃金と労働条件など労働者の権利がちゃんと保障されていない現実、職群の特性と関係なく人件費節減のために無条件に非正規雇用へと追い込むやり方は改善されねばならないという声が多い。

 イム・ヨンホ釜山大教授(マスコミ学)は「放送産業の特性上、非正規雇用を使うとしても、少なくとも賃金は正社員と同等な水準を支給し、分野別標準契約書を作成するなど、現実を改善する代案を探すべきだ」と指摘した。 先月スタートした言論労組傘下の「メディア非正規労働者権利探し事業団」(略称「ミロチャッキ」:「迷路ゲーム」と同音)の 関係者は、「置かれている状況と雇用方式、要求事項などが業種別に異なるので、分野別に実態を調査して代案を見つけようと思う。まずは業種別に賃金単価と各種手当てなどを詳しく明示した放送製作標準契約書を作ることを目標にしている」と語った。

ナム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
http://m.hani.co.kr/arti/society/society_general/693558.html 韓国語原文入力:2015-05-31 17:49
訳A.K(4611字)

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